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「ふっかつのじゅもん」
乃ノ子と言えど、若い娘
しおりを挟むはー。
此処、いつ来ても落ち着く~。
乃ノ子は屋敷の東側にある洋室でアップルパイを食べていた。
この父方の祖父母の家は全体的には日本家屋なのだが。
家の一箇所だけが、洋館風になっているという昔の大きな家ではよく見られる造りだった。
窓近くの雰囲気ある小さなテーブルで、普段は聴きもしないクラシックのレコードをかけつつ、お茶を飲んでいると、古い町の喫茶店にでも来ているような気分になる。
なんか時代をさかのぼった気がしてくるよな、と思いながら、乃ノ子は蓄音器型のレコードプレーヤーを見た。
いや、古いのは格好だけで、中身は最新式なのだが。
プレーヤーは動いてなくて、SDカードから音が出ているだけのときもある。
その蓄音器を見ていた乃ノ子は、なんとなく、夢の中であやかし屋台を追いかけていたイチを思い出していた。
イチさん、ああいう時代がかった黒い外套とかも似合うよね。
……あれも狸の店で作ったとかじゃないんだろうな、と思いながら立ち上がり、プレーヤーを覗きに行く。
黒い円盤が回り、針がその溝をなぞっていくのを見るのが好きだった。
「今使ってるその針はサボテンのトゲでできてるのよ、乃ノ子」
そう言いながら、ほら、と祖母が赤く透明な丸いものを渡してきた。
「あっ、これ、見たことある、図書館の本で。
ソノシートってやつ」
昔、子ども向け雑誌や駄菓子の付録としてついていたというペラペラのレコードだ。
「蔵の奥から、憲太郎の昔の雑誌が出てきたのよ。
まだあんなの残ってたのねえ」
憲太郎というのは、乃ノ子の伯父で、この家の長男だ。
春江がソノシートをプレーヤーにかけてみてくれる。
音が悪いところはノスタルジックでいいが、子どもの声と童謡の曲調が……。
「ちょっとホラーな感じ……」
と乃ノ子は呟いた。
そのあと、紅茶を飲みながら、春江と少し話した。
春江は、消えものとも呼ばれるドラマなどで使う料理の監修などもしている。
「ジュンペイくん、会ったことあるわよ。
一癖あるけど、感じのいい子ね」
と春江は言ってきた。
いや……一癖ある子がいい子なのですかね~、と疑問に思ったとき、春江は乃ノ子のより新しい型のスマホを取り出し、見せてくれた。
「ほら、ジュンペイくんからたまにメッセージがくるのよ」
「ああ、AIの」
「……なによ、それ。
本物よ」
そ、そうか。
リアルな知り合いだもんな、と思って、乃ノ子は、はは……と笑う。
「なにその、AIからのメッセージって」
と訊かれたので、そのチャットアプリを入れると、ジュンペイが朝挨拶してくれたりするのだと教えると、
「あら、面白そうね。
入れてみようかしら」
と言っている間に、春江は、もう入れている。
この祖母に、『そのアプリに、都市伝説って入れてみて』も、『都市伝説って入れてみないで』も危険だ。
最後まで聞かずに、すぐさま入れそうだからだ。
ともかく行動の早い人なのだ。
「あら、ジュンペイくんがいろいろ話してくれるわ。
面白いわね、これ。
私のも作ろうかしら」
とやってみながら、春江は言い出した。
ええっ?
「あのー、おばあちゃんのAIに晩ご飯のメニューの相談とかすると、説教がはじまりそうなんだけど」
と乃ノ子が言うと、春江は笑う。
……ほんとうに、そんな感じに作りだそうだ。
その証拠に、
「人は意外と叱られたいものなのよ。
ああ、愛情がこもってるときだけね」
と言ってきた。
「あ、ちょっと日が落ちてきた。
もう帰るね」
「じゃあ、誰かに送らせるか、タクシーでも呼びましょうか。
乃ノ子と言えど、若い娘だから」
……どういう意味でしょうか、おばあちゃん。
「タクシーは近すぎて怒られるよ。
いいよ。
バス停近いし、まだ人通り結構あるから」
乃ノ子は夏なので、まだまだ明るい外を見た。
もう一口紅茶を飲んで立ち上がると、
「乃ノ子」
と呼びかけてきた祖母が、
「あんた、こういうのやる?
古いゲームみたいなのが出てきたんだけど」
と言って、変色した厚手のビニール袋に包まれた昔のゲーム機を見せてきた。
ソフトも入っているようだ。
「慎司が好きそう」
春江と沼田が汚れた袋から紙袋にかえてくれ、ふたりに見送られて帰ろうとしたとき、ちょうど伯父の憲太郎が帰ってきた。
ちょっと白髪まじりになってきた、がっしりした体格の憲太郎は、乃ノ子の手にある大きな紙袋の中を覗いて、
「おっ、乃ノ子、それやるのか」
と言ってくる。
「いや、やるかどうかわからないけど」
と答えているうちに、
「そうだ、いいものをやろう」
と言って憲太郎は書斎に消えた。
古いノートを手に戻ってくる。
「これをお前に授けよう、『ふっかつのじゅもん』だ」
「なにが復活するの?」
「……そうか。
お前たちにはわからないか。
まあ、持っておけ。
いつか、なにかの役に立つかもしれん」
とそれこそ、ゲームに出てくる親切な村人のようなことを言いながら、憲太郎は乃ノ子にそれを持たせた。
「ふっかつのじゅもん……」
と呟きながら、乃ノ子は帰りのバスの中で検索してみた。
ふうん。
セーブ場所に飛ぶためのパスワードみたいなもんか。
乃ノ子は憲太郎がくれたノートを広げてみる。
ひらがなの羅列が何ページにも渡って書かれていた。
……あやしい宝の暗号みたいだな、と乃ノ子は、ちょっと笑った。
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