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「ふっかつのじゅもん」
二本のゲームソフト
しおりを挟む「あんた、またなにやってんのよ」
夕方、あの自動販売機の前で乃ノ子がせっせとスマホゲームをやっていると、彩也子がそう言ってきた。
ゲームを覗き込み言う。
「あ、それ、リアルの私もやってるわよ」
「そうなの?
私、イチさんたちのチームに入ってるんだけど」
「他に誰がいるの?」
と問われ、乃ノ子はスマホから顔を上げて言った。
「探偵とヤクザと喫茶店のマスターと芸能人」
「……どんなメンツよ」
「可愛いですよね~、この子ギツネ」
「最初はね。
だんだんレベル上がってきて、勝てなくなってきたら、憎たらしくなってくるから。
いろいろ要求すんなって思って」
「じゃあ、やめたらいいのに」
と現実の空間を走っている、自転車に乗った男子高校生を見ながら乃ノ子が言うと、彩也子は、
「やめられないわよっ。
この間、家を三階建てに増築したら、子ギツネが、
『さーちゃん、ありがとうっ』
って、目をキラキラさせて言ってきたのよっ」
と叫び出す。
「……めちゃくちゃハマってんじゃん」
と乃ノ子は言ったあとで、
「そうだ。
伯父さんのゲーム機、今借りてるんだけど、彩也子やったことある?」
と訊いてみた。
「どんなゲーム?」
そのゲーム機の名前を聞いた彩也子が首を絞めてきた。
「あんた、私を幾つだと思ってんの~っ。
あんたより、ちょっと年上なだけよっ。
ちょっとだけよ~っ」
首を絞められながら、乃ノ子は、霊になるっ、霊になるっ、と叫んで抵抗した。
その晩、乃ノ子はスマホゲームをやりながら寝落ちしていた。
すると、不思議な街に乃ノ子は立っていた。
見たこともない繁華街だ。
乃ノ子が勝手に妄想していた、イチが住んでそうな街、に似ている。
赤い提灯がいっぱい下がった通り。
古いビルが並んでいて、入ったら、いろんな意味で出てこられなさそうな狭い路地がたくさんある。
……なんだろう、此処。
っていうか、すごい画像が荒いんだけど。
そんなことを思いながら道を歩いていたら、向こうから、見るからにヤクザな感じの、白いスーツに柄シャツに坊主頭の人がやってきて、いきなりパンチが飛んできた。
実際に殴られるわけではないのだが、目の前が暗くなり、赤い文字で、「You Died」と瞼の裏に出る。
全然、進めない。
この世界、全然、前に進めない……、と思って乃ノ子は目を覚ました。
「呪われたゲームの夢を見るんですよ」
乃ノ子は夕暮れの道でイチにそう言った。
あの自動販売機で彩也子と話したあと、ふたりで歩道橋に向かい、歩き出したときのことだ。
「全然、進めないゲームの夢なんですけどね」
と乃ノ子が言うと、
「それは呪われたゲームの夢なのか?
それとも、お前の操作が下手すぎて、呪われたように進めないだけのゲームの夢なのか?」
とイチは訊いてくる。
「いやー、よくわかんないんですけど。
ひどい荒い感じの絵なんですよね。
昔のゲームみたいな。
もしかして、私がスマホゲームばっかりやってるから、あのもらってきた古いゲーム機が怒ってるんですかね?」
イチは少し考えたあとで、
「……なんだかわからないが、見てやろうか」
と言ってきた。
「えっ? いいんですか?」
「だが、そろそろ夕飯時だろう。
お邪魔しても大丈夫か?」
「イチさんなら、お母さん、大歓迎ですよ~」
乃ノ子は母親にスマホで連絡を入れ、イチとともに家に帰った。
案の定、母、絵美はイチを大歓迎したが。
何故かそれ以上に、弟の慎司がイチに懐いた。
……私とより相性がよさそうなんだが。
こいつもイチさんの前世のなにかなのだろうか。
武士だったときの愛馬とか、と食後、リビングのラグに座り、話しているふたりを眺めていると、イチがこちらを見て、
「乃ノ子、そのゲーム持ってこい」
と言ってきた。
あのゲームを持って下りてきた乃ノ子は、イチに大画面のテレビにつないでもらった。
乃ノ子だけではなく、慎司も全然やっていなかった。
最後の大会があるので、部活で忙しかったようだ。
透明なビニール袋の中には、ゲームソフトも二本入っていた。
イチがそのカセット方式のゲームを確認して言う。
「こっちが、そのノートの『ふっかつのじゅもん』が使えるRPGで。
こっちはサスペンスっぽいアドベンチャーゲームみたいだな。
お前の夢に出てくるのは、こっちじゃないのか?」
と渡され、サスペンスなゲームのカセットをゲーム機に差し込んでみたが、動かなかった。
「壊れてんな……」
と言いながら、イチが、もう一個のカセットを差してみる。
普通にゲームがはじまり、バラエティ番組のBGMなどで聴いたことのある曲が流れてきた。
慎司とイチがそのゲームをやりはじめたので、乃ノ子は動かなかったカセットを手に、憲太郎に電話してみた。
「あー、そのゲームな。
中古の店で買ったんだが。
すぐに壊れて、全然やってないんだよ」
そんな憲太郎の言葉を乃ノ子はイチに伝える。
「全然やってもらえなかったゲームの霊が憑いてるんですかね?」
……なんだ、ゲームの霊って、とイチは呟いたあとで、
「ま、そうなら、クリアしたら、その夢、見なくなるかもな。
夢の中で少しはゲーム進んだのか?」
と訊いてくる。
「はあ、ヤクザには殴られなくなりました。
でも、ちょっと進んだとこで、崖から落ちちゃって」
「待て。
街中を歩いてたんだろ?
どんなゲームだ」
そう言ったあとで、イチはカセットを手に眺めていた。
慎司がやっているゲームの軽快なBGMにつられ、乃ノ子がそちらを見たとき、
「……乃ノ子」
とイチが呼んできた。
はい? と振り返ると、
「今夜行けたら、行ってやるよ」
とイチは言う。
「何処にですか?」
「お前の夢にだ」
黒いカセットを乃ノ子の目の高さまで掲げ、イチはそう言った。
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