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「ふっかつのじゅもん」
怪しい街
しおりを挟む「なんで甲冑着てるんです」
その日の夢の中。
画像の荒い街中に、イチは、あのときの夢と同じに赤い甲冑を着て立っていた。
「待て。
これはたぶん、お前の勝手なイメージだ。
俺の方が言いたい。
なんで、このやさぐれた雰囲気の現代の街で俺は甲冑着てるんだ、乃ノ子。
どうにかしろ」
とイチは言うが、どうにもならない。
「……お前、もしや、このときの俺が一番好きなのか?」
いやいやいや、一番インパクトが強かったからじゃないですかね?
と乃ノ子は思っていた。
最初に思い出したのは大正時代ですしね。
……っていうかっ。
このときの俺が一番好きかって。
聞きようによっては、私がずっとイチさんのことを好きだったみたいに聞こえるんですけどっ、と乃ノ子は思ってしまったが。
だが、たぶん、そういう意味ではなく、いろんな時代にいたと思われるイチの中では、武将だったイチが一番好きだったのではということなのだろう。
服装とか、そういう意味で。
いや……まあ、よく似合ってますよ、うん、と兜はなく、黒髪を下ろしたままのイチを見て、乃ノ子は思う。
イチはイチが住んでいるような怪しい街にも、もっと古い異国の町にも見えるその街を見回し、
「実は、此処はお前が支配する街なんじゃないか?」
と言ってきた。
「俺もお前の好みにより、甲冑着せられてるし」
「じゃ、なんで、みんな、やさぐれてるんですか」
肩で風切るヤクザみたいな人たちばかりが歩いている街を見ながら、乃ノ子は反論する。
「私が支配してるのなら、ヤクザも陽気に歌って踊ってミュージカルでも始めますよ」
だが、そんな話をしている間にも、ヤクザの鉄砲玉みたいな柄シャツの男が、ナイフを手に飛び出してくる。
「死ねっ、イチッ」
「うわっ。
こいつ、はっきりイチって言ってるぞっ。
俺を俺と認識してるじゃないかっ。
乃ノ子っ、何故、俺を殺そうとするっ」
「いや、だから、私の妄想の街じゃないですからね、此処……」
と言っている間に、イチは、バサーッとその鉄砲玉を日本刀で斬ってしまっていた。
うわああああっと時代劇でやられた人のように、派手にのたうちながら男はビルの小道に消えていく。
「……あの人、また反対側から出てきませんかね」
と言っている間に、今度は真正面に突然、人が湧いて出た。
「死ねっ、イチッ」
と言う彼は、ハットを被り、古い型のスーツを着ていた。
大正の香り漂うその彼は、イチに銃口を向けている。
イチは即行、その男の額に日本刀を投げつけた。
男は、ぐっ、と言ったあと倒れ、その姿は霧散した。
「だからーっ。
なんですぐ倒しちゃうんですかっ。
まず話を聞いてくださいよーっ」
「死ね、イチとか言ってる奴に躊躇できるかっ」
と二人で揉めているうちに、乃ノ子は目を覚ましてしまった。
夜中に起きてしまった乃ノ子は、ぼんやり薄暗い部屋を見つめ、
……変な夢だったから、目が冴えちゃったじゃないですか、
と思いながら、スマホを開けてみる。
子ギツネは少し広く改装された部屋の中を歩き回っているようだったが、こちらに気づいて、可愛らしく言ってきた。
「もう寝たら? ののこちゃん。
僕ももう寝るよ」
遅い時間にゲームをやったり、長時間やったりしていると、『まだ起きてるの?』とか、『まだやってるの?』とか言ってくるゲームがあるが。
このゲームにも教え諭されてしまった、と思い、ののこは寝ることにした。
「おはようー」
翌朝、いつもの場所で、彩也子の方から声をかけてきた。
「今朝はいるじゃん」
「リアルな私がキツネのゲームで寝不足でまだ寝てるから」
と彩也子は笑って言ってくる。
……なるほど、と自分もすっかりあのゲームにハマっている乃ノ子は苦笑いした。
「遅い時間にあのゲームやってると、もう寝なさいって、キツネ、言ってこない?」
「え?
言ってこないよ」
そう彩也子が言ったとき、紀代が手を振りながら、歩道橋を下りてくるのが見えた。
「おはよう、乃ノ子、彩也子。
早いじゃん」
早いじゃんは私に向けられたものだろうな、と乃ノ子は思う。
自動販売機の前まで来て、普通に彩也子と話している紀代を見ながら、乃ノ子は言った。
「なんか、あやかしがいるのが日常になってきたね」
だが、そんな乃ノ子の言葉を聞いた彩也子が、
「誰があやかしよ。
私は、ちょっとした生き霊よ」
と文句を言ってくる。
いや、ちょっとした生き霊ってなんだ……、と思いながら、乃ノ子は彩也子と別れ、学校に向かった。
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