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「ふっかつのじゅもん」
ボロボロな二人
しおりを挟むその夜、乃ノ子は何処かで聴いたような曲の流れる、古い外国の街にいた。
夜霧に包まれた石造りの街。
ガス灯の下に、いきなりトレンチコートを着た謎の男が現れ、乃ノ子に銃を突きつけてきた。
画面が赤くなる。
『You Died』
反対側に進んでみた。
露出の多い赤いドレスの女が現れ、ナイフを持って突っ込んできた。
『You Died』
近くのビルに入ってみた。
床が抜けた。
『You Died』
うーむ、と思って目を覚ました乃ノ子は、イチに返してもらったあの黒いカセットをゲーム機にセットしてみた。
「これだ……」
と呟く。
今、夢で聴いたばかりの曲がオープニングで流れている。
イチの事務所で後藤がやるのを眺めていたとき、聴いた気がしたので、確かめてみたのだ。
あれがイメージに残って見た夢ならいいのだが。
どうもそうではない気がしていた。
イチに連絡すると、
「あー。
もともとはそのゲームが祟って出たかったのかもしれないな。
そこを誰かが作った他のゲームが乗っ取ったんだ。
お前の夢につながるパイプを乗っとるみたいに」
と言ってくる。
「いや、誰なんですか、それ。
っていうか、とりあえず、このゲーム、どうしたらいいんですか?
祟って出ないんじゃなかったんですか。
中古の店で買ってきたから」
「前の奴もクリアできなかったのかもしれないな。
頑張ってクリアしてみろ。
夢の中か現実で」
まあ、がんばれ、とあっさりイチは乃ノ子を見捨てた。
おそらく、そう害はない、と判断してのことだろう。
だが、起きてきた慎司がハードボイルドな感じの曲が繰り返されているテレビを見、あーっ、と叫ぶ。
「姉貴っ。
なにそのゲーム機使ってんだよ。
今、俺がやってんだよっ」
と文句を言ってきた。
RPGの方をちょっとやってみたら、ハマったらしい。
「なに言ってんの、受験生っ。
勉強しなさいよっ」
「息抜きにやってんだよっ。
これクリアできたら、大会で優勝できて、受験も合格する気がするんだっ」
いや、逆だろ……。
変な願掛けするな、と乃ノ子は思う。
だが確かに。
これに時間を費やさない方が勉強時間はとれるだろうが。
気分転換した方がはかどるというのには同意だ。
慎司がゲーム機を使わせてくれないという話をイチにしたら、組長のを貸りてくれた。
姉弟並んで、リビングでゲームをする。
「あー、進まない。
マイナーすぎて攻略サイトもないしー」
と乃ノ子は呟いたあとで、
「あっ、そうだっ。
後藤さんがくれた途中まで進んだパスワードがあったっ」
と叫んで、
「ズルすんな、自分で一から攻略しろっ」
と慎司に怒られる。
それがゲームの怨霊の声に聞こえて、乃ノ子は反省し、ちゃんと自力でやることにした。
それにしても、日の出を舞台にしたあのゲームの方はあれきり見ないけど、なんでだろうな。
あのゲームを作った人が気が済んだとか。
それか、なにか他に別の理由があって見なくなったのだろうか。
そう思ったとき、ふと、乃ノ子の頭に浮かんだ。
「もう寝たら? ののか」
とあの子ギツネが夢の中で言ってきた。
ののかって、確か、私が最初に都市伝説アプリで使った偽名……。
なんであの子ギツネちゃんが?
まあ……あれは実際のゲームじゃなくて、私の夢の中での出来事だから。
たまたま私が、あの偽名を思い出して夢に見ただけかもしれないけど――。
寝てもゲーム。
起きてもゲーム。
夢の中でまで、現実にやってるゲームのとこから進まないからたまらない。
「あいつとあいつを殴って、こいつを脅迫した。
次はなにをすればいいんだ……」
ブツブツと物騒なことを呟きながら、乃ノ子は今日もゲームのスイッチを入れる。
「大丈夫か、姉貴。
頑張ろうな、姉貴」
「ありがとう、弟よ。
あんた今日、大画面の方使っていいよ」
と励まし合う姉弟を母がキッチンから呆れたように見ていた。
ひとりでやると寂しいので、大きなテレビの横に小さなテレビを運んできて、二台並べてやっている。
曲や効果音が混ざって紛らわしいときもあるが、ひとりじゃないと思うと頑張れるっ、と乃ノ子は思う。
どんな努力と根性の感動物語だという感じだが、ただのゲーム廃人物語だった。
そんなボロボロのふたりは、ほんとうにボロボロだったので。
そのミスは起こるべくして起こったと言えるだろう。
先に叫んだのは、乃ノ子の方だった。
「パスワードが違うっ」
今日のゲームを再開するに当たり、苦労して、長い平仮名のパスワードを打ち込んだのだが。
その文字群は、
「パスワードが ちがいます」
とあっさりゲームに拒否されてしまった。
「昨日の私の二時間っ!」
と乃ノ子は叫ぶ。
確か寝る前にやった分は、この一度しかセーブしていなかった。
時間があったら、ちょっとその辺をうろついてから、もう一度、セーブ、とか。
パスワードを間違ったときのためにするのだが。
「もうちょっとマメにセーブしないと」
と遅れて電源を入れながら、慎司が言った。
「だって、この長ったらしいパスワード、書くのが大変だし……」
と言いかけたとき、ギャーッ、と慎司もこの世の終わりのような声を上げた。
大画面に表示されていたのは、
じゅもんが ちがいます
の文字。
「慎司ーっ」
と凶弾に倒れた弟に駆け寄るように、乃ノ子は叫ぶ。
「姉貴ーっ」
「あんた、受験勉強の合間にあんなに頑張ったのにっ」
「姉貴こそっ、肌荒らしてまで、時間割さいてゲームやってたのにっ」
母親は阿呆な子どもたちに嫌気がさしたのか、一応、ふたりに食後の珈琲を置いたあとで、自分のカップだけ持って、そっとリビングを出て行った。
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