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おまけ 暗黒の乃ノ子の日常
乃ノ子の平穏な(?)日常
しおりを挟む「ねえねえ、鮮血の乃ノ子ー。
新しい都市伝説とかないの?」
休み時間、紀代たちにいきなりそんなことを言われた乃ノ子は、
「いや、そっちこそないの?」
と言いながら、
鮮血の、とか。
暗黒の、とか。
漆黒の、とか。
なんで毎度みんな私の名前の前になにかつけてくるんだ……と思っていた。
「今日はもうめんどくさいから、晩ご飯、お弁当にして」
帰宅した途端、母、絵美に言われ、乃ノ子は絵美とともに、あの弁当屋まで引き返した。
自動販売機の前に、今は彩也子はいない。
自動ドアが開き、中に入ると、弁当が出来上がるのを待っていたらしい男たちがこちらを見た。
オールバックがちょっと浮いているが、カッチリしたスーツにネクタイ。
一瞬、誰かと思ったが、あのアニキだった。
いつもの子分たちも二人ほど連れている。
「あ……」
暗黒の乃ノ子じゃねえか、と言おうとしたようだが。
母親の姿を見てやめたようだった。
腰掛けていたベンチから立ち上がり、どうも、と乃ノ子と絵美に頭を下げてくる。
子分たちもそれに習った。
「三島さーん」
と呼ばれて、子分が、はい、と行く。
誰の名前なんだろうな、とアニキと子分たちを見ていると、また出ていくとき、彼らは、こちらに向かい、頭を下げていった。
夕暮れの町に弁当を抱えて消えていく彼らを見ながら、絵美が言った。
「まあ、丁寧な方ね。
誰?
学校の先生?」
……なわけなですよね~と思いながら、乃ノ子はレジの上にある弁当のメニューを眺めた。
絵美とふたり、家族分の弁当を分けて持ち、店の外に出る。
すると、スマホにメッセージの入る音がした。
「あ、イチさんだ」
「まあ、イチさん、最近来ないわね」
と絵美は言うが。
いや、イチさん来るときはなにかあるときですからね……と思いながら、乃ノ子はポケットからスマホを出した。
「今、暇か?」
と入っている。
「いや、暇じゃないです」
と入れかけたら、それを横から見て、絵美が言う。
「暇ですって入れなさいよ。
暇でしょ」
「晩ご飯食べなきゃ、冷めないうちに」
「そんなの忙しいうちに入らないでしょ」
と揉めているうちにイチから電話がかかってきた。
「お前、麻雀打てるか」
「打てるわけないですよね……」
と言う乃ノ子の横から、
「打てます」
と絵美が言ってくるので、彼女自身が打てるという話かと思ったが。
「いや~、そこは、打てますって言いなさいよ~」
と絵美は言う。
イチを気に入っている絵美は、なんとか乃ノ子とイチを会わせようとしているようだった。
「いや、ルールも知らないのに打てるわけないでしょうが」
「あんた、おばあちゃんちでいつも見てたじゃないの、麻雀」
と言い合う二人の言葉を聞いているのかいないのか、イチが言ってきた。
「乃ノ子。
実は、どうしても、勝たなきゃいけない勝負があるんだ。
組長……社長の家の地下にある古い金庫に、隠し財産があるという都市伝説があるんだが。
その金庫を開錠する番号を知っているのが、麻雀好きの悪霊だけで。
勝ったら教えてくれると言うんだ。
お前、変な運があるから、今すぐ来い」
今、組長って言いましたよ……と思う乃ノ子の横から、
「行きまーす」
と絵美が勝手に返事をする。
「もう~っ。
だったら、おかーさんが行きなよっ」
「私が行ってどうすんのよっ。
麻雀のルールくらい、すぐ覚えられるわよっ。
イチさんに教えてもらいながらやりなさいよっ」
イチの電話はそのままに、揉める乃ノ子たちの前の歩道橋をすごい速さでさっちゃんが駆け抜けていき。
歩道の手前では、人ならぬものを乗せた中田が信号が変わるのを待っている。
言霊町は、今日も通常通り。
あやかしでいっぱいだ――。
『おまけ 暗黒の乃ノ子の日常』完
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