都市伝説探偵 イチ ~言霊町あやかし通り~

菱沼あゆ

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暁の静 漆黒の乃ノ子 ~大正時代編~

大正時代の料理

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「どう? 乃ノ子、ジュンペイくん。
 あれから当時の料理にハマって作ってみたのよ。

 悪くないでしょ?」

 週末、乃ノ子たちは春江の屋敷に来ていた。

 お菓子や飲み物の他に、食事も用意してあったが。

 すべてジュンペイが今出ているドラマ用に作った大正時代の物らしい。

「昔のケーキなんかも再現したのよ、ほら」
と春江は見せてくるが、当時のケーキって、こんな感じだったかな? と乃ノ子は思っていた。

「へえ、抹茶のアイスなんかも古くからあったのね」

 春江と仲良しの近所のおばさんがステンレスの器に盛られたアイスを食べながら言ってくる。

「そう。
 少なくとも明治にはもうあったみたいね。

 小倉アイスも大正時代にはできてたみたいだし。

 それは、帝国ホテルが『グラス オー テイ』という名で昔出してた抹茶アイスを再現してみたんだけど」
と言いかけた春江だったが、抹茶アイスを手にした乃ノ子を見て、言葉を止める。

「なによ、乃ノ子。
 そのしょぼい顔。

 美味しくないの?
 当時のレシピに合わせてるから、今ほどの味が出ないのはしょうがないわよ」
と言う春江に、ジュンペイが、

「いや、美味しいですよ、春江さん」
と笑顔で言っていた。

「ねえ、春江さん、なんで俺には美味いか不味いか訊かないの?」
とケーキの皿を手に立っていた慎司が言ってきたが、春江は、

「あんた、美味しいとか不味いとかわかるの?」
と慎司に言っている。

 ともかく量が食べられればいい感じの、育ち盛りの中学生に味について訊く気はないようだった。

 ジュンペイが友だちの俳優やアーティストを連れてきてくれたので、ご近所さんやメイドさんたちまでみな盛り上がり、広間は、ちょっとした立食パーティの会場のようになっていた。

 そんな広間の隅で、乃ノ子は小倉アイスを手にジュンペイに言う。

「いや~、帝国ホテルの『グラス オー テイ』。
 あんな味だったかな~と思って。

 私、たまにだけですけど。
 大正時代の夢見るんですよね」
と言うと、ジュンペイは、

「……へえ。
 あの駅の伝言板の夢?」
と訊いてくる。

「いえ、それ以外も」

 そんな乃ノ子たちの話が聞こえたらしく、春江が笑って言ってきた。

「なに? 夢の話?
 前世の夢とか?

 まだまだ子どもね、乃ノ子は」
と新しく訪れたゲストを迎えに行こうとした春江だったが、乃ノ子が、

「私、カフェで女給さんやってたじゃないですか。
 食べ物にもいろいろ興味があって。

 確か寝る前にノートに絵付きで描いてたんですよね~、気になった料理とか。
 家族で食事に行ったときのも」
と言うと、ピタリと足を止める。

「乃ノ子っ」

 は、はいっ、といきなり振り向いた春江にビビる乃ノ子に、春江は詰め寄る。

「何処にあるの、そのノートッ」

 ええ~っ。
 今、前世なんて子どもみたいなことって言ったのに~っ。

「いや、えーと。
 大正時代の話なんで……」

「大正なんて、ちょっと前のことじゃない。
 あなたが何処の誰だか覚えてれば、住んでた家もわかるはずでしょっ」

 ええーっ!?

「春江さん、仕事の鬼だからねえ。
 大正時代の食べ物が描かれた資料なんて、絶対、見逃さないよ~」
と自らも前世の記憶があるくせに、ジュンペイは、ひとごとのように言い、笑っていた。


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