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とんだ不運のはじまりです ~ペペロミア・ジェイド~
選ばないでください、王子様
しおりを挟む「じゃあ、彼女にします」
会長に、この中から誰か選んで結婚しろと言われた悪王子、准はテーブルの上に広げられた見合い写真からではなく、そこに居た葉名を選び、言ってきた。
会長が、は? という顔をしたあとで、葉名を見る。
准は葉名の腕をつかんだまま、
「彼女と結婚することにします」
と宣言した。
いや、することにしますって……。
あのー、すみません、社長、私の意志は? と葉名が固まっていると、会長は胡散臭げに葉名を上から下まで見ながら、
「……誰だね、彼女は」
と言ってくる。
准は一瞬、考えたあとで、
「……誰なんでしょうね」
と言った。
おい、悪王子、と思う葉名を振り向き、准が問う。
「おい、お前。
名前はなんだ?」
「き、桐島葉名です」
すると、准は葉名の腕をつかんだまま、会長を振り向き、
「桐島葉名です」
と復唱する。
「歳は幾つだ」
と会長に訊かれた准は、またも、こちらを振り向き、
「歳は幾つだ」
と訊いてきた。
「に、二十二です」
「二十二です」
……貴方、私と会長の言葉を繰り返してるだけじゃないですか、と思ったとき、会長が、
「それで、どちらのお嬢さんなんだね」
と訊いてきたので、葉名は准が口を開く前に、直接、会長に向かい、答えた。
「そっ、そこらの一般庶民ですっ」
そういえば、この話はすぐに終わると思ったのだ。
だが、会長は、そうかね、と言うと、腕を組み、目を閉じる。
そして、思慮深げな顔で言ってきた。
「そこらの普通のおうちのお嬢さんだと言うのに、野心家の准が結婚したいと言うからには、君には、人とは違う、なにかキラリと光るものがあるに違いない」
なんですか、そのなにかの選考結果みたいなの。
っていうか、なにもありませんよ!? と思う葉名を見て、会長は矢継ぎ早に質問してきた。
「ときに、君、出身は何処だね。
この辺りかね?
大学は?
家族構成は?」
職務質問かっ、と思いながら、葉名が会長にいろいろと聞かれている間、准はテーブルの上に並べられた育ちの良さそうな美女たちの写真を見ては、腕をつかんだままの葉名を見上げていた。
いやー、どう考えても、その美しいお嬢さんたちの方がいいですよね、悪王子。
どうか私を選ばないでください、と思いながら、准の横顔を見つめていると、准は葉名の腕をつかんだまま、立ち上がり、言ってきた。
「そんなわけで、この話は此処までで、会長」
その言葉に、葉名は、少し、ほっとしていた。
この人、やっぱり、見合い話を断りたくて、適当なことを言ってるんだな、と思ったからだ。
会長も、こんなその辺の小娘と結婚したいと苦し紛れに言い出すほど、孫が追い詰められていると気づいて、話を取り下げようとしてるんだろう。
そう勝手に解釈した葉名は、やれやれ、もう帰っていいだろう、と思いながら、
「では、失礼致します」
と頭を下げた。
そのまま行こうとして気づく。
「……すみません、社長。
手、離してください」
准は、……ああ、と今気づいたように言い、そっと手を離してくれた。
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