そこらで勘弁してくださいっ ~お片づけと観葉植物で運気を上げたい、葉名と准の婚約生活~

菱沼あゆ

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とんだ不運のはじまりです ~ペペロミア・ジェイド~

散らかってるんでっ、此処、散らかってるんでっ。

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「お前は莫迦か。
 誰がお前のマンションの管理人か、俺が知るわけもないだろう。

 そのように見えても、ただ一階を徘徊しているラフな格好のジジイかもしれないのに」

 玄関まで入ってきておいて、准は葉名をそう罵る。

 ……そういえば、そうですよね~。

 此処は、制服姿の管理人が居るようなタワーマンションではない。

 マンションの持ち主のおじいさんが管理人を兼ねているようなところだ。

 初めて来た准に、誰が管理人かわかるはずもなかったのだ。

 この失態をなかったことにするには、此処でお帰りいただくしかないっ、と葉名は腕を組み、仁王立ちになった体勢で、准を迎え撃つ。

「それで、なにしにいらしたんですか、社長」

「遊びに来てやったのに決まってるだろう、新入社員」

 やはり、同じように腕を組み、斜に構えた准が言い出した。

 このマンションの真の持ち主で、今は彼氏と同棲していて居ない従姉の陽子ようこが見たら、

「なになに?
 ラップ対決ー?」
とか言って、笑い出しそうな様相だ。

「いえ、結構です。
 遊びに来てくださらなくても」

 職場ではないので、葉名は社長様にも、ちょっと強気に言い返してみた。

 社員にもプライベートはあっていいはずだからだ。

「そもそも、社長。
 何故、私の家をご存知なんですか?」

「いや、社長と言えども、勝手に社員の住所を盗み見ては悪いかと思っていたところ。

 お前が同期の連中と食事したあと、フラフラ帰っているのを見かけたので、後をつけてみたのだ。

 それで外から見ていたら、お前が入ったあと、308号室の明かりがついたので、あの部屋だな、と当たりをつけた」

 いや、盗み見るより、後つける方が悪くないですかっ? と思っていると、准は、

「で、これを取ってきたんだ」
と言いながら、勝手に葉名の左手を取ると、薬指に指輪をはめ出した。

「なっ、なんですかっ、これっ。
 やめてくださいっ」
と葉名は准の手からおのれの手を引き抜こうとするが、そのがっしりとした大きな手からは逃れられない。

 濃いブルーの石がついた、年代物の指輪のようだった。

 大きくもあるので、まるで、呪いのホープダイヤモンドのように葉名には見えた。

 スミソニアン博物館にあるホープダイヤモンドは、持ち主に不幸をもたらすという世界最大のブルーダイヤモンドだ。

 だが、これは、サファイヤのようだった。

「蔵の金庫にあったんだ」
と准は言う。

「なんか今すぐ、呪いにかかりそうなんですけど……」
と指にはまった重すぎるそれを見ながら、葉名は呟く。

 サファイヤに込められた意味は、『誠実』。

 ……誠実とは、正反対の人が持ってきたようだが、と思いながら、玄関のオレンジの光に輝くその美しい石を眺めていると、

「こうして、手土産も持ってきたんだ。
 ちょっとくらい上がらせろ」
と一体、幾らするのかわからない手土産を持ってきた男は勝手に部屋に上がろうとする。

「やっ、やめてくださいーっ」
と葉名は、慌てて准の腕をつかんだ。

「いやいや、自分の嫁になる女の部屋くらい見ておきたいだろ」
と葉名の体重など、コアラくらいにしか感じていないらしい准は、そのまま、廊下を歩いていく。

「あれ、その場限りの言い逃れじゃなかったんですかっ。
 っていうか、今は見ないでくださいっ。

 散らかってるんでっ。
 散らかってるんでっ」
とその腕にぶら下がりながら、葉名は叫んだが、准は笑って言ってくる。

「いずれ一緒に暮らすのに、格好つけてもしょうがないだろうが。
 大体、男と違って、女の散らかってるって言うのは――」

 がちゃりとリビングのドアを開けた准は笑顔のままフリーズした。

 散乱した部屋を見たまま、そこから一歩も入らずに、准が言ってくる。

「今すぐ、業者を呼ぼうか」

「……そこまでじゃないですよ」

 ちょっと服とか本とか、椅子やソファに重ねたりしてるだけじゃないですか、ええ……と思いながら、慌てて葉名はそれらをたたみ直し、片付けた。



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