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あかずの間ができました
お前、なんだか怪しいぞ
しおりを挟む「なに息切らしてたんだ?」
と玄関を開けた瞬間、葉名は准に言われた。
「い、いえ、ちょっとその。
そう、部屋を片付けてましてですね」
と言うと、
「ほう。
それは感心なことだな」
と言いながら、准は何故か、廊下を見回している。
「どうかされましたか?」
と葉名が訊くと、
「いや、セキュリティのしっかりしたマンションだよな。
高そうだしと思って」
と言う。
「此処は、今、彼氏のところに住んでる従姉のおねえちゃんのマンションなんですけど。
おねえちゃん、いろいろと問題を起こす人なので、セキュリティがいい方がいいって言って、このマンションにしたんですよ」
「お前のそのねえさん、名前、なんて言うんだ?」
「え? 陽……
陽子です」
何故、今、そんなことを訊くんだ? とちょっと悪い予感がしながらも葉名は答えた。
ふうん、と言った准は、それ以上突っ込んでは来なかったが。
もっとまずいところに突っ込んできた。
「で、お前、なに息を切らしてんだ?」
一度流したはずの話題を掘り返され、ひい、と葉名は固まる。
「な、なんでもありません」
と言いはしたが、顔は青ざめていたようだ。
准はまっすぐ葉名を見つめたあとで、
「……様子がおかしいな」
と刑事のような口調で言ってくる。
リビングの入り口まで入ってきた准は、ぐるりと周囲を見回した。
葉名は極力あの部屋を窺うまいとする。
心配のあまり、何度も振り返りそうになるのをぐっと堪えていた。
すると、准がいきなりあの小部屋に向かい、大股に歩き出した。
「此処かっ。
此処に男を隠しているのかっ?」
と叫び出す。
何故っ?
どうして、そんな展開にっ?
と思いながら、葉名は慌てて追いかける。
いやいやいやっ、社長っ。
落ち着いてくださいっ。
今まで浮いた噂のひとつもなく、ファーストキスもまだだった私に、何故、急に、二人も三人も言い寄る人が現れると思うんですかっ、と思う葉名の前で、准はあの小部屋のドアを引き開けた。
そして、沈黙する。
准は、ぱたん、とドアを閉めたあとで振り返り叫んだ。
「なんだ、この部屋はっ!」
「……だから開けるなと言ったじゃないですか」
いや、言ってないか……。
あかずの扉だと思ったのに、一瞬にして開けられてしまったな、と思う葉名の前で准はもう一度、ドアを開けた。
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