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あかずの間ができました

ついに、あれを片付けるときが来たようです……

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 来ないじゃないですか。

 帰ってから、せっせと家を片付けた葉名は時間を確認したスマホをテレビの前のローテーブルに投げる。

 いや、別に悪王子を待ってるわけじゃないですけどね。

 悪ですから、とそこに居ない准に言い訳をするように葉名は思う。

 もし早い時間に悪王子が来たら、昨日のお片づけのお礼に、ご飯くらいおごろうと思ってたのにな、と思いながら、葉名は一応、買っておいたコンビニのビーフシチューを温めようかなと立ち上がる。

 ビーフシチューの賞味期限はまだずいぶん先だった。

 買うときに、つい、今日食べなくても大丈夫なものを選んでいたからだ。

 余計な心配だったな……と思いながら、葉名はビーフシチューのパッケージを眺めた。

 最近は、封を切らずに、底を広げて立たせるだけで、レンジにかけられるものが多いので、便利だが。

 上手く広げないと、倒れるときがある。

 小心者なので、

『必ず、立たせてレンジにかけてください』

 などと書いてあると、気になってしょうがない。

 葉名の頭の中では、何故か、ビーフシチューが倒れたせいで、レンジごと爆発していた。

 それをレンジにかけようとして、葉名は手を止めた。

 なんとなくインターフォンの方を見る。

 が、それが鳴ることはなかった。

 キッチンカウンターから、ざっくり片付けた部屋の中を見ながら、葉名は思う。

 散らかっているせいだとは限らないけど。
 確かに運気が下がっているかも知れないな。

 よし。
 いよいよ、あれを片付けるか、と葉名はビーフシチューを置いて、普段はあまり開けない小部屋を見た。


 


 ……大惨事だ。

 五分もしないうちに、葉名はそれを始めたことを後悔していた。

 いや、ハサミを入れた瞬間にもう後悔していた。

 葉名も部屋の中も雪が降り積もったように真っ白になっている。

 そのとき、ピンポン、と呼び鈴が鳴るのが聞こえた。

 今、居ませんっ、と葉名は心の中で叫んだが。

 ピンポン、とたいして間を置かずに、また鳴る。

 ……社長か、集金の人か、と葉名は身構えた。

 よく考えたら、集金は全部引き落としにしているので来るはずなかったのだが、准である可能性を排除したいがために集金人にしたい気持ちになっていた。

 葉名は慌てて、全身をガムテープでペタペタやった。

 身体中にまとわりついているそのふわふわした白い物をはがすためだ。

 ピンポン、ピンポン、ピンポンッとすごい勢いで呼び鈴が連打され始める。

 はいはいはいはいはい、と葉名は慌ててインターフォンに出た。

 まだガムテープで全身をペタペタしながら。

 「はい」
と言ったが、ロビーに居る准は、何故か周囲を見回している。

 だが、葉名が黙って自分を見ているのに気づいたらしく、ようやく、
「開けろ、葉名。
 あるいは、今後、このような面倒がないよう、鍵を寄越せ」
といつものように威嚇してきた。

 はいはい、と葉名は玄関のロックを開けながら、全身をペタペタしていたが。

 ふと見ると、床の上にも転々と白いふわふわが落ちている。

 指で取ろうとすると、指や服に吸い付き、そこからまた取れない。

 ひーっ、と玄関を窺いながら、更にガムテープを引き出し、ペタペタやる。

 エレベーターで上がってきた准が玄関でまたピンポンとやるまでの時間を計測しながら、葉名は急いでその白いふわふわを片付け、ガムテープをゴミ箱に突っ込んだ。




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