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あやうく、わらしべ長者になるところでした ~パキラ~

どうしたら、俺を好きになってくれるんだ?

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「うちのばあさんと植物園に居るときのような安らぎを覚えたんだ」

 そう言う准を、葉名は、

 いや、ばあさんって……、と微妙な顔をして聞いていた。

 だが、准は、

「今は、運命の恋だ! まで到達してるんだが、お前はどうだ?」
と訊いてくる。

 いや、それより、ばあさんが気になる。

 私と一緒に居るのは、おばあさまと一緒に居るのと変わりないってどういうことだ。

 単に、そのくらい安らげると言いたかったのかもしれないが。

 もっといい表現はなかったのだろうか。

 そんなことを考えている間にも、准は語り出す。

「この十年……確かにお前のことを忘れていたかもしれないが」

 ……忘れてたんだ、やっぱり。

「だが、俺は、この先、何十年とお前を忘れない自信がある!」

 いや、そりゃまあ、私、貴方の会社に居ますからね、クビにならない限り……。

「いや――

 お前を愛する自信があるっ」

 そう言い直し、准は葉名を見下ろした。

 ソファの背に手を置くと、身を乗り出し、言ってくる。

「なんでだろうな……。
 理屈じゃないんだ」

 そう言い、そっとキスしてきた。

 なんでだろうな……。

 あんまり逃げる気にならないな。

 葉名は強くクッションを握りしめながらも、逃げなかった。

 だが、そこのところの微妙な感じは、まったく准には伝わってはいなかったようで、准は、葉名を逃すまいとするように、ソファについていない方の手で、葉名の右手首をつかみ、言ってきた。

「葉名。
 ……どうしたら、俺を好きになってくれる?」

 真っ直ぐに自分を見つめ、言ってくる准に、迷いがないな、と思っていた。

 仕事中は、短く、明確に意志を伝えるという准だが、それは恋でも同じなようだった。

 だからこそ、少し不安になる。

 本当に好きだったら、こんなにストレートに言ってこれるものかな、と思って。

 少なくとも私は言えないな、と思ったとき、スマホにメールが入った。

「す、すみません、ちょっと」
と准から逃げるようにローテーブルの上のそれを取る。

「誰だ?」

「母です」

 黙って読んでいると、
「どうした?
 深刻な話か?」
と准は訊いてくる。

「いえ、持ってきて欲しいものがあると」

「持ってきて欲しいもの?」

「入院してるので」
と言うと、

「そうなのか。
 じゃあ、ご挨拶とお見舞いに行かねばな」
と言ってくる。

 いや……遠慮してください。

 なんだか嵐を呼んできそうなので、と思ったが、この人行くと言い出したら、きかないんだろうな、とも思っていた。



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