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お前にそう言われてみたい ~クワズイモ~

いい人にはなりたくないんだけどね

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「捨てときゃよかったと思わないか? そんなもの」
と准は朝の商店街で誠二に愚痴る。

「こいつ、生意気にも、俺に向かって、可愛いだけじゃんとか言いやがったんだぞ」

 言ってません。
 書いただけです……と思いながらも、
「申し訳ございません」
と葉名は今日何度目かの謝罪をした。

「大丈夫です。
 今は可愛くないですよ」
と言って、

「……いや、余計悪いだろ、それ」
と言われてしまったが。

 この商店街に、早朝から開いているパン屋さんがあると聞いていたので、焼きたてパンを買いに来たら、もうお花屋さんも開いていたのだ。

「っていうか、パントリーに毛布があるところから間違ってるよねー」
と店の前を掃いていた誠二が言う。

「そういえば、うちの親に聞いたんだけどさ。
 大じいじが妙なこと言ってるらしいよ」
と言って、誠二は例の金印の話をしてきた。

「何処にあるんだろうね、その金印」
と言う誠二に、准は、莫迦だな、と言う。

「ほんとにそんなもので決めるわけないだろうが。
 っていうか、今までコツコツ社長業をやってきたのに、そんな阿呆なことで、跡継ぎが決まってたまるか」

 ま、そりゃそうだよなー、と思いながら、葉名は小さな木の椅子の上に並べられ、百四十円で売られている小さな観葉植物を見た。

 ハートの形の葉っぱが可愛い。

「あ、それ、クワズイモだよ。
 可愛いでしょ。

 生きた加湿器とも言われているから、乾燥した季節には持ってこいだよ。

 それ、まだ小さいけど、あっという間に成長するよ。

 だから、別名、出世イモって言われて――」
と言いかけ、誠二は准を見て、葉名を見た。

「准と別れたら売ってあげるよ」

 ……どんな花屋だ。

 ああでも、と葉名は足許の青いバケツに入った榊を見ながら言った。

「運気を上げるなら、こういうのの方が、すぐ効きそうですよね」

「いや、それは、またなにか違わない?」
と苦笑いして、誠二が言う。

 まあ、確かに。
 榊で祓ったら、この人自体が消えてなくなりそうだが……。

「ほら、葉名。
 早く戻って食べないと遅れるだろ」
と言いながら、准は、さっさと歩き出す。

 が、開店の準備をしているお肉屋さんに呼び止められ、結局、足を止めて話していた。

 その横顔を見ながら誠二に言う。

「ありがとうございます。
 社長に、金印の話してくださって」

 わざわざ敵にそんなこと教える必要もなかったのに。

「いや、大じいじの戯言《ざれごと》だとは思うけど。
 僕だけが知ってて黙ってるって気持ち悪いじゃない」
と言う誠二に笑う。

「……いい人ですね、誠二さん」

「いい人にはなりたくないんだけどね」
と言い、誠二は眉をひそめた。

「あれ?
 いい人になって、運気を上げるんじゃなかったんですか?」
と葉名が訊くと、

「でもさ。
 女の子は悪い男が好きじゃない。

 葉名さんも結局、あいつに引っかかっちゃったでしょ」
と言って、誠二は肉屋のおじさんと笑って話している准を見る。

 いや、引っかかったとか……

 そういうわけではないんですけどね、と思いながら、葉名は赤くなり、うつむいた。



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