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ソテツには毒があります
バナナの花言葉
しおりを挟む「危うく、幻のお宝を求めて旅立つところでした」
あんなところにあったとは、と仕事帰り、花屋の店先で葉名は言う。
横に立つ准が熱々のコロッケの入った紙袋を手に、
「葉名の俺への愛が、金印を見つけたんだな」
と深く頷いていたが、誠二は、
「いや、葉名さんの妙な趣味のおかげだろ」
と素っ気なく言う。
いや、妙な趣味って……。
いけませんか?
全国埋蔵金の本が愛読書では。
っていうか、きっと、前の日もお片づけで運気を上げたせいですよ、と思う葉名の前で、准が誠二に言っていた。
「近いうちに、葉名をうちの母親に会わせようかと思う。
それでだいたい紹介したことになるから、もう結婚してもいいだろう」
いや、私の許可は? と思ったのだが、まあ、今更、反論はない。
「グランマには?」
と誠二に言われ、
「それは最後だ。
というか、あの植物園で式を挙げたい。
いいか?」
と准は何故か、まず、誠二に訊いた。
「……まあ、いいだろう」
と誠二が許可を出すと、准は、こちらを向いて、
「いいか?」
と確認してくる。
いや、確かに植物園で式の話、一度頷きはしましたけど。
なんだか順序おかしいです、と思いながらも、女にはわからぬ男の友情があるのだろう、と思い、はい、と葉名は頷いた。
すると、誠二は大仰に溜息をついてみせる。
「葉名さんはなかなか素敵な人だと思ってたのに」
いや、貴方、今、おかしな趣味の人だと言いましたよ、と葉名が思っていると、
「こんな悪い虫に引っかかるとは」
と准を見て言ってくる。
「誰が虫だ」
と言う准に誠二は手にしていた水スプレーをかけながら、
「アブラムシ、ダンゴムシ、ナメクジ、シノノメジュンにご注意ください」
と言い出した。
やめろっ、とわめきながら、准は誠二の手のスプレーをはたき落とす。
なんだろう。
平和だな……、と思いながら、葉名は二人のやりとりを見ていた。
そして、近くにあった南国風の木に、ふと気づき、しゃがんでを見ていると、誠二が後ろから、
「あ、それ、バナナだよ」
と言ってきた。
「あー、何処かで見た形だと思いました」
と葉名は答える。
サイズは小さいが、そういえば、確かにバナナだ。
「いいですね、バナナの木。
なにか夢がありますね」
と葉名は笑った。
子どもの頃、いろんな果実がなる木がないかな、とか。
いろんなジュースが出てくる水道がないかな、とか。
そんな妄想に耽っていた葉名は、今もなんとなく実のなる木が好きだ。
いや、まあ、バナナはバナナしかならないとは思うが……。
家の中にそびえるバナナの木。
素敵だ、とマンションの天井につくほど伸びたバナナの木を妄想していると、
「ま、正確には、バナナの木じゃなくて、バナナの草だけどね」
と誠二が言ってきた。
「バナナって、実は、草なんだよ。
木じゃなくて」
「ええっ?
でも、でっかいですよっ?」
「うん。
でも、バナナは年輪もないし、数年で枯れるから木じゃないんだよ。
そして、これは家庭用に改良された奴だから、1~2メートルくらいにしかならないよ。
でも、ちゃんと実もなるんだよね」
へえ、と葉名は、今はまだ小さなバナナの草を見つめる。
「バナナの花言葉はね、『風格』」
と身を屈め、一緒に覗き込みながら、誠二が言ってきた。
「どっしりしてますもんね、草なのに」
と葉名が笑うと、
「果物系のものにも、いろいろ花言葉があるんだよ。
ちなみに、みかんの花言葉は、『花嫁の喜び』」
とバナナからのつながりでか教えてくれる。
「ま……准と結婚することが喜びかは知らないけどね」
と余計な一言を付け加えながら。
「そして――」
と誠二は飾りとして置いてある、つやつやとした偽物のリンゴを手のひらに載せ、葉名の前に差し出した。
「リンゴは『誘惑』」
そう言い、笑うと、その横にある木でできた飾りのスイカを取り、
「で、スイカは、『かさばったもの』」
と言う。
「そのまんまですね……」
と言ったとき、准が後ろから誠二の首筋に水スプレーをかけた。
「アブラムシ、ダンゴムシ、ナメクジ、セイジにご注意ください」
やめろっ、莫迦っ、と揉め始める二人を見て、葉名は苦笑いする。
この人たち、きっと、子どもの頃からずっとこんな感じなんだろうな~と思いながら。
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