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お前にそう言われてみたい ~クワズイモ~
さすがは俺の花嫁だ!
しおりを挟む手袋は必要なかった。
時計の内部に触れなくともよかったからだ。
扉が閉まっている状態では見えない下の方に、細長く古い木の箱がある。
准が手を伸ばし、それを取ると、中から、鈍く光る金の印鑑が現れた。
「……めちゃくちゃ適当に、ポン、とありましたね」
謎を解き足らない風に葉名は呟く。
彼女の頭の中では、これから振り子の裏に貼り付けてある暗号でも見つけて、謎を解くはずだったのだろう。
准は、その丸い金印を持ち上げ、印面を眺めている。
「左衛門商会……。
これだ。
丸印だし、実印かな?」
そう准は呟く。
会社の認印である社印は四角いことが多いからだろう。
「時計が狂わなかったから、今まで見つからなかったのか。
いや、誰か見つけたとしても、こんなところに昔の実印が転がしてあるとは思わないよな。
金だから、なにかオモチャっぽいし」
と准は言った。
それにしても、実印なかったら困ったんじゃ、と苦笑いする黛の目の前で、准は、いきなり、葉名を抱き上げた。
子どもを高い高いするように。
「でかした、葉名っ。
さすがは俺の花嫁だ!」
と大きな仕事が決まったときでも見せないような笑顔で、准は葉名に微笑みかける。
葉名は真っ赤になり、
「えっ、でも、社長、印鑑の力で、後継者にはなりたくないって言ってましたよね」
だから、余計なことかと思ったんですが、と先程までとは打って変わった、たどたどしさで准に言う。
「いや、お前が俺のために頑張ってくれたことが嬉しいんだ。
ありがとう、葉名」
と准は葉名を下ろすと、その頰に軽くキスしていた。
もう~、と言いながらも、葉名は赤くなる。
この子、やっぱり好きかな~、と思ったその瞬間に、瞬殺……。
ガックリとうなだれる黛は、柱の陰から、じっと自分を見つめる女が居ることには気づいてはいなかった。
お兄様もいいけど。
家柄が違い過ぎると反対されるかも。
黛さん、秘書に来るかもと社長と室長の話から、小耳に挟んだんだけど。
黛さんも悪くないわ~。
敦子も狙ってるみたいだけど。
私には誠二さんのところで買ったグリーンネックレスがついてるものっ。
そう思いながら、涼子は柱の陰から、ハンターのような目で黛を眺めていた。
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