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そこらで勘弁してくださいっ
白い薔薇の花言葉は……
しおりを挟む「……小さめのは選んでないんですよ。
でも、なんだか肋骨が折れそうです」
「普段ゆるゆるの服ばっかり着てるからそう感じるんでしょー」
と水色のミニのドレスを着た陽子が横から言ってくる。
次の日曜日、真っ白でシンプルなウエディングドレスを着た葉名は植物園に立っていた。
だが、気分的には、石膏像にでもなった感じだ。
身動きがしづらい。
此処は宇宙だろうか。
なにか呼吸がしにくいんだが、いろいろと締まりすぎてて、と思っていると、その石膏になった葉名に向かい、父、龍彦が言ってきた。
「おお、葉名。
綺麗だぞ。
私にそっくりで――」
いや、そこは、若い頃のお母さんに、でしょうが。
私は貴方のような邪悪な顔はしていませんが、と思ったのだが。
今日、このめでたい席で揉め事を起こすのもなんなので、葉名は真っ白な薔薇のブーケを握り締め、ぐっと耐えていた。
瑠璃子が作ってくれた生花の可愛らしいブーケだ。
白い薔薇の花言葉は、「純潔」。
そして、「私はあなたにふさわしい」。
葉名は、白い薔薇のブーケを手に、チラと誠二たちと話している黒いタキシード姿の准を見る。
今日は悪王子というより、黒王子だな。
どちらにせよ、格好いい。
でも、所詮、私はモンキーの石膏像。
王子様にはふさわしくありません、すみません。
などと考えていたとき、葉名の母、佳恵がやってきた。
その手には花嫁のベールがある。
「あげてもいいんだけど、貸してあげるわ。
いるんでしょ? サムシングボロード。
『なにか借りたもの』が」
と言い、佳恵は、ベールを葉名の頭にかけてくれた。
佳恵が昔使ったものだそうだ。
……嬉しいが、ちょっと縁起が悪い気もするんだが、と葉名は、後ろで揉めている龍彦と室田先生を横目に見ながら思っていた。
佳恵が言う。
「サムシングフォーっていうのはね、祈りよ。
幸せになってね」
すると、准の母、瞳もベールを手に現れた。
既に頭にかかっているベールを見ながら、無言で豪奢なベルギー製のレースを差し出してくる。
「あ、ありがとうございます」
と葉名は瞳に向かい、頭を下げた。
瞳がベールをかけてくれる。
……二重につけてみました。
「どうした、葉名。
頭が重そうだが」
と二人が去ったあと、准が言ってきた。
「いえ、ちょっと愛情が重たいだけです」
と二重のレース、しかも結構長い、に耐えながら、葉名は苦笑いして答える。
サムシングフォーっていうのはね、祈りよ、という母の言葉を思い出しながら、葉名は植物園の中を見回した。
「でも、幸せなことですよね。
大切な思い出の詰まった植物園にみなさんに集まっていただいて、みなさんに借りたり、いただいたりしたものを身につけて結婚するとか。
サムシングフォーって、みなさんの幸せを分けていただくってことなんですね」
そう言い、葉名は微笑んだ。
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