ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~

菱沼あゆ

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俺は生まれ変わろうとしているのか

俺は生まれ変われなかった……

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「あれ?
 もうギブアップですか?」

 笑いながら琳が、ぼんやり庭を見ている自分に訊いてきた。

 まだ明るいうちに店に入ったはずだが。

 もう日もとっぷり暮れている。

「よく考えたら、仕事でもないのに頭使うの莫迦らしいな」

「そうですね。
 宝生さん、お仕事で頭たっぷり使われてますから。

 ここにいる間くらい、事件から離れてみるのもいいですよね」

 いや、お前が言うかっ、と思ったが、琳は、
「はい。
 お疲れのようなので、サービスです。

 いつもありがとうございます」
とカフェラテを出してくる。

「あんまり甘くないやつです。
 新製品です。

 ……業務用スーパーの」

 だと思ったぞ。

 お前が新メニュー開発とか、メニューの開発とか、やりそうにないからな。

 人がいいから、みんなに迫られて。

 モーニングセットがメニューに加わったりはするようだが、と琳の淹れてくれた――

 いや、琳がお湯を入れてくれたカフェラテを飲む。

 濃いめで甘くなく、ちょうどよかった。

「美味いな、最近のインスタント」

 でしょ、と琳は笑う。

 その笑顔を見ながら、もう一度、龍哉にもらった資料を見てみた。



 コミュニティセンターの館内見取り図を眺めていると、琳が言う。

「1F部分だけ見たので大丈夫ですよ」

 もう彼女には完全にわかっているようだった。

 喜三郎がコミュニティセンターに入り浸っている理由が――。

「確かに、他の情報とつなぎ合わせるの、めんどくさいですよね。
 自分が確かめたいことがバラバラに載ってるから。

 ……喜三郎さんが一番力を入れているのは、生け花。

 あと、陶芸。

 気もそぞろな、コーラス。

 他にも行かれてるみたいなんですけど。

 喜三郎さんって――」

「待った」
と将生は手を突き出して琳を止めた。

「自分で推理する」

 そのとき、
「コーヒーとカレーね」
と言いながら、小柴が入ってきた。

 所定の場所にノートパソコンと本を置いて座ろうとして、

「あ、そうだ。
 わかったよ、琳ちゃん。

 喜三郎さんがコミュニティセンターに入り浸ってるわけ」
と言う。

 琳が、わーっという顔をした。

「こっ、小柴さんっ。
 今、珍しく宝生さんが推理されてるのでっ」

 へえ、と小柴は面白そうに笑ったあとで、

「そうなんだー?
 でも、その顔じゃ進んでないね。

 じゃあ、二人とも、言ったところでわからないだろうヒントをあげようか」
と言ってくる。

 いや、二人とも聞いたところでわからないヒントを出す意味は?
と思ったのだが、お構いなしに小柴は言う。

「喜三郎さんは、宝生さんだったんだよ」

 琳と二人、顔を見合わせる。

「……すみません。
 わかりません」
と将生が言い、

「私は答えわかってるのに、ヒントの意味がわかりません」
と琳が言う。

 だが、壁際の席で軽めの夕食を食べていた老夫婦は、
「わかった」
「そうなのか、喜三郎さん」
と笑い合っていた。


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