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俺は生まれ変わろうとしているのか
俺は生まれ変われなかった……
しおりを挟む「あれ?
もうギブアップですか?」
笑いながら琳が、ぼんやり庭を見ている自分に訊いてきた。
まだ明るいうちに店に入ったはずだが。
もう日もとっぷり暮れている。
「よく考えたら、仕事でもないのに頭使うの莫迦らしいな」
「そうですね。
宝生さん、お仕事で頭たっぷり使われてますから。
ここにいる間くらい、事件から離れてみるのもいいですよね」
いや、お前が言うかっ、と思ったが、琳は、
「はい。
お疲れのようなので、サービスです。
いつもありがとうございます」
とカフェラテを出してくる。
「あんまり甘くないやつです。
新製品です。
……業務用スーパーの」
だと思ったぞ。
お前が新メニュー開発とか、メニューの開発とか、やりそうにないからな。
人がいいから、みんなに迫られて。
モーニングセットがメニューに加わったりはするようだが、と琳の淹れてくれた――
いや、琳がお湯を入れてくれたカフェラテを飲む。
濃いめで甘くなく、ちょうどよかった。
「美味いな、最近のインスタント」
でしょ、と琳は笑う。
その笑顔を見ながら、もう一度、龍哉にもらった資料を見てみた。
コミュニティセンターの館内見取り図を眺めていると、琳が言う。
「1F部分だけ見たので大丈夫ですよ」
もう彼女には完全にわかっているようだった。
喜三郎がコミュニティセンターに入り浸っている理由が――。
「確かに、他の情報とつなぎ合わせるの、めんどくさいですよね。
自分が確かめたいことがバラバラに載ってるから。
……喜三郎さんが一番力を入れているのは、生け花。
あと、陶芸。
気もそぞろな、コーラス。
他にも行かれてるみたいなんですけど。
喜三郎さんって――」
「待った」
と将生は手を突き出して琳を止めた。
「自分で推理する」
そのとき、
「コーヒーとカレーね」
と言いながら、小柴が入ってきた。
所定の場所にノートパソコンと本を置いて座ろうとして、
「あ、そうだ。
わかったよ、琳ちゃん。
喜三郎さんがコミュニティセンターに入り浸ってるわけ」
と言う。
琳が、わーっという顔をした。
「こっ、小柴さんっ。
今、珍しく宝生さんが推理されてるのでっ」
へえ、と小柴は面白そうに笑ったあとで、
「そうなんだー?
でも、その顔じゃ進んでないね。
じゃあ、二人とも、言ったところでわからないだろうヒントをあげようか」
と言ってくる。
いや、二人とも聞いたところでわからないヒントを出す意味は?
と思ったのだが、お構いなしに小柴は言う。
「喜三郎さんは、宝生さんだったんだよ」
琳と二人、顔を見合わせる。
「……すみません。
わかりません」
と将生が言い、
「私は答えわかってるのに、ヒントの意味がわかりません」
と琳が言う。
だが、壁際の席で軽めの夕食を食べていた老夫婦は、
「わかった」
「そうなのか、喜三郎さん」
と笑い合っていた。
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