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見知らぬ客
カウントダウン
しおりを挟む4時43分。
菜乃は花子さんのトイレの扉を開けた。
4時43分15秒。
ポケットから取り出したゴム手袋を両手にはめる。
4時43分45秒。
左から3番目のトイレのドアが開き、落ち着かなげに花子さんが出てきた。
外へっ、と手で指さすと、花子さんが頷く。
4時44分まで、あと、5
4……
3……
2……
1!
「あかいかみ~……」
菜乃は低い男の声が聞こえたトイレのノブをつかみ、一気に引き開けた。
「お前かーっ!」
ひいいいいいっとトイレの中に出ていた手が引っ込もうとした。
「待ったっ」
と菜乃はその手をつかむ。
よかった。
トイレだから、なんとなく、ゴム手袋をしていて、と菜乃は思う。
「捕まえたのか、すごいな」
という声が背後でした。
腕組みして立っていたのは、会長ではなく、花子さんだった。
「花子さんが4時44分になると、飛び出してきてたのは、このあやかしが4時44分に現れてたからなんですね?」
「そうだ。
わたしは、こいつの声が嫌いでな。
ゾワゾワッと来るのよ。
人間がトイレにいて、おどかされてくれれば、わたしも冷静でいられるのだが」
わかります、と菜乃はうなずく。
「人があわてると、こっちは、すっと冷静になりますよね」
菜乃はトイレから覗いている手が菜乃にとらえられ、うなぎのような暴れるのを見ながらつぶやいた。
「ところで、今の怪異のつづきなんでしたっけね?
あかいかみ……」
「赤い紙はいらんか? じゃなかったか?」
と花子さんが答える。
あ、そうそう、と菜乃はうなずいた。
「赤い紙はいらんか? 青い紙はいらんか? ってありましたね」
「赤い紙はなんだったか?
赤い血が降るとか?」
「誰の血だ」
とトイレの手が言う。
「降らせるほどの血、集めるの大変だろ?
赤い紙を差し出すんだよ」
「……差し出されても、ちょっと使いたくないですね。
青い紙だと外に出られるんでしたっけ?」
と菜乃が言うと、
「真っ青になって死ぬんじゃなかったか?」
と花子さんが言う。
「それ、誰が殺すんだよ。
青い紙って言うやつ、いちいち殺してたら、大変だろ?
ただ、青い紙を差し出すんだよ」
と言うトイレの手を見て菜乃は言った。
「……この人、べつに怖くないみたいなんですけど」
紙が切れてるときには助かりそうだし、と菜乃は言ったが、花子さんは、
「わたしはこいつの声が嫌いなんだよ。
いつの間にか、ことわりもなく、隣の部屋に住み着きおってっ」
と文句を言う。
このトイレは賃貸マンションみたいな感じになっているのだろうか……。
「人間がいないときにおどかすのやめろっ」
「4時44分になると、自動的にやってしまうんだよっ」
花子さんとトイレの手はもめている。
ご近所トラブルというやつか。
菜乃は話をまとめようとして言った。
「わかりました。
今日のところは、わたしがおどろかされますので。
しばらく、それでおとなしくしていてください」
「ほら、ちゃっちゃっとおどかせっ。
せっかく人間がおどろいてくれると言ってるんだからっ。
赤い紙、青い紙、すぐに終わるだろ?」
そんな花子さんにトイレの手が言い返す。
「なにを言うっ。
わたしの恐怖はそんなことでは終わらないぞ。
人間よ、よく聞けっ」
トイレの手は花子さんがおどろいて逃げ出すほどのおどろおどろしい声で言い出した。
「赤い紙はいらんか~?」
手のあやかしは、トイレの中から血に濡れたような赤い紙をつかんで出てきて、左右に振る。
「青い紙はいらんか~?」
今度は、不吉なまでに青い色の紙を振る。
「白い紙はいらんか~?」
次に手は文字の書かれた白い紙を振った。
「一個増えただけじゃないか」
おもしろくもない、というように花子さんは言ったが、菜乃はふたたび、あやかしの手をつかんでいた。
「それだーっ」
ひいいいいいいっ、と手のあやかしが悲鳴を上げる。
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