左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ

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見知らぬ客

4時44分の怪

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「……この白い紙は」
と菜乃は、あやかしからとりあげた白い紙を見る。

「これは、人間がもっともおびえるモノと聞いた」

 いいモノを拾ったので、いつか人をおどかすのに使おうと思い、とっていた、と言う。

「いやあ……これでは人間はおびえないと思いますね。

 これ、わたしにくださいませんか?

 かわりに、今度、『人間がおびえる、おそろしいモノ』をもらってきてあげますよ」

「人間よ。
 約束をたがえるなよ」

 そう言って、手のあやかしはトイレの中に消えていった。

 別にトイレの中に住んでいるわけではなく、あのあやかしの人間界への出口がここなのだろうかな?

 菜乃は、しんとなり、普通のトイレに戻ったトイレを覗き込みながら、そう思う。

 今はいない、手のあやかしに向かって言った。

「……大丈夫ですよ。
 あなたの求めるおそろしいモノはすぐに涼太によって、生成せいせいされますから」

「退治したのか? 今のあやかし」
と横からおそるおそる覗き込んで、花子さんがきいてくる。

「いいえ。
 でも、花子さん。
 これ、あげますよ」

 菜乃は赤い腕時計をはずし、花子に渡した。

「いきなりだから、おどろくんですよね。
 そろそろ4時44分だって身構えてたら、きっとおそろしくないですよ」

「いいのか?」
と花子さんは手のひらにのせられた腕時計を見ながらきいてくる。

「大丈夫です。
 これ、こどものとき、縁日で買ってもらったやつなんで」

 花子さんは上目づかいに菜乃を見上げて言う。

「でも――

 思い出の品なんじゃないのか?」

 腰をかがめて目線を花子さんに合わせ、菜乃は微笑む。

「花子さんの方が似合いそうです」

「……そうか。
 では、礼にこれをやろう」

 花子さんはポケットから、むんずとつかんだ人形の首を出してきた。

 ざんばらの金色の髪。

 今にも『ワタシ、リ○チャンヨ』と言い出しそうな顔は、黒くすすけていた。

「け、けっこうですっ」

「人形を妹とわけあって持ってるんだ」

 何故、わけあいましたっ?

 つなげてあげてくださいっ、と思いながら菜乃は叫ぶ。

「妹さん、いらっしゃるんですかっ?」

「ああ。
 ここにはいないが。

 お前にこれを感謝のしるしとしてやろう」

「けっこうですーっ」
と菜乃はまた叫ぶ。

 今日、1番のホラーだ。

 トイレから出てくる手よりも――。



 花子さんのトイレを出たあと、本日閉店中の購買部の前を通り、菜乃は階段を上がっていく。

 一階から差し込む夕陽のせいで、階段の途中までが明るい。

 真っ暗な地下から上がっていくと、どんどん光の中に――

 現実に戻っていくかのようだった。

 一番上まで上がり、振り返った地下は真っ暗で、なにも見えない。

 まぶしいグラウンドに出ると、ちょうど会長が息を切らせてやってくるところだった。

「遅れてすまない。
 大丈夫だったか?」

 外部の模試だったのか。

 会長はグレーの半袖シャツに黒いパンツという私服で来ていて。

 いつもより、大人っぽい感じがした。

「大丈夫でしたよ。
 会長、模試、お疲れさまです。

 いいモノあげます」

 菜乃は手に持っていたそれを会長に差し出した。

 もちろん、人形の首ではない。


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