左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ

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旧校舎の購買部 後日譚――

消えた購買部

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 ある日の休み時間。

 廊下にいた菜乃のもとに、スミ子が隣のクラスの吉田とともにやってきた。

 例のスミ子が好きな同級生だ。

 会長に、

「お前のことが好きな子、お前の周りでよく消しゴムを落としてるらしいぞ。

 けなげでいじらしい子らしいから、ちょっと考えてみてやってくれないか?」
と言われて、ようやく、スミ子のことがわかったらしい吉田は、ちょうど自力でなんとかしようと話しかけてきたスミ子と、前よりちょっと仲良くなったようだった。

 まだ、そんなに進展があるわけではないようだが……。

 でも、あれは『恋がはじまる消しゴム』なので。

 これから、ゆっくりはじまっていくのかもしれないな、と菜乃は思う。

「ねえねえ。
 そういえば、旧校舎の地下に購買部ができるんだって。

 知ってた?」
とスミ子が言ってくる。

「えっ?」

「それ、ヒミツの購買部じゃなくてか」
とどこからともなく現れた涼太が横から顔をのぞけてくる。

「違うよ。
 そういう七不思議的なやつじゃなくて。

 ほんとうにできたんだって、購買部。

 ちょっとした文房具とか、名札とか、生徒手帳とか売ってるらしいよ」
と吉田が言う。

「……山に落ちてた文房具とかじゃなく?」
と涼太と声を合わせてきいてしまい、

「なにそれ」
とふたりに言われてしまった。



 菜乃と涼太は旧校舎の地下に行ってみた。

 先生たちが腕組みして廊下に立っている。

 あのヒミツの購買部ではなく、普通の購買部がそこにはあった。

 廊下の白い壁のところではなく、階段横の空き部屋のところにだが――。


 先生たちがこちらに気づき、

「おいおい。
 まだ店は開店してないぞ。

 今、まだ準備中だから。
 ああ、休み時間に買いに来いよ。

 授業中は売らないからな」
と言う。

 とりあえず、臨時で雇われたという、さわやかなお兄さんが販売員らしく、
「オープンしたら、よろしくね」
と笑っていた。

「……怪しさのカケラもないね」

「そりゃ、普通の購買部だからな」

 これから購買部になるという場所をながめながら、涼太とふたり、ぼんやり呟く。

 そして気づいた。

 近くのゴミ箱にあのお札が捨てられているのを。

 ぐしゃっと丸められたそれを拾うと、涼太が言う。

「まだいるのか? それ。
 雑誌のフロクだったやつなんだが」

「あ、やっぱり、そうなんだ……?」

 そう返事しながら、菜乃はお札を手の内に隠し、教室まで戻った。



 13日の金曜日じゃない雨の日――。

 菜乃は放課後。
 新校舎の地下に下りてみた。

 掃除道具やいらない机などが置いてある倉庫しかない地下。

 階段を下りてすぐの真っ白な壁に、菜乃は、あのお札を貼ってみた。

 紙なので、アイロンはかけられないけれど。

 手の熱で伸ばせるだけ伸ばしてみていた。

 左、左、左、右、右、左、左。

 菜乃は廊下を通り、階段を上って下りて一周する。

 すると、さっきまで明るくこうこうと地下の廊下を照らしていた蛍光灯が青白い光を放ちはじめた。

「おかえり」

 白い壁の向こうに、にじみ出してくるようにヒミツの購買部が現れる。

 相変わらず、棚にはなにもない。

 カウンターの向こうで、ヒョウが笑っていた。

「よくまた店に通じる道を見つけられたな」

「前と同じルートをたどれば、あやかしの世界につながるのかなと思ってやってみたの。

 ヒョウさん、まだまだ供物がつみ上げられてるって言ってたから。

 店はまだどこかでやってるんだろうと思って」

「ほんとうにモノ好きだな」
とヒョウが笑う。

 木製のカウンターに手を置くと、まぼろしではない、確かな古い木の手ざわりが感じられた。

「……そういえば、わたし、15になったんですよ」

 菜乃が言うと、ヒョウは、ほう、と言う。

「でも、15までに1度でもこの店に来て、ここを見てたら。
 きっとずっと来られるんですよね? 会長みたいに」

「そうだな。
 そう信じたら、そうなるだろう」

 そう信じたら、そうなる――。

 お札を貼り、ヒョウに聞いた通りのルートをたどれば、ヒミツの購買部につながると菜乃は信じた。

 15をすぎても、わたしはここに来られるはずだ。

 菜乃はまた、それも信じた。

 だから、ここに来られたのだ。

 あのお札は、ほんとうにただの雑誌のフロクだったのだろう。

 だが、これがあれば店に行けると菜乃が信じたときから。

 ただの紙切れが、あやかしの店に通じる入り口としてのチカラを持ったのだ。

「さあ、お次の品はどうだい?」
とヒョウがカウンターを叩く。

 ちょっと灰色っぽいトイレットペーパーがあらわれた。

「こいつは、呪いのトイレットペーパーだ。
 使おうとすると、イラッとする感じにブチブチ切れる」

「それ……ただの安いトイレットペーパーでは」

 っていうか、これが現れたということは、売れたんですか。

 『未来がわかる手帳とカレンダー』……。

 まあ、今年のだから、まだ使えるよな、と菜乃が思ったとき、うしろで声がした。

「じゃあ、それ、もらおうか」

「見えてないし、聞こえてないし。
 なんだか全然わからないが、もらおうかっ。

 ヒミツの購買部、再開店記念にっ」

 会長と涼太が言う。

 バナナの叩き売りのように、ヒョウが勢いよくカウンターを叩いて笑う。

「おかえり。
 毎度あり――!」

                                    完

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