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先生、事件ですっ!
どうしたことだっ
しおりを挟む「先生っ。
早くしないと、港についている大型クルーザーに先着1名様って書いてありますがっ」
「そういう怪しい商法にはひっかからない」
桂は前を向いたまま、そう呟く。
いや、いつもなら真っ先に引っかかりそうなんだが……。
「第一、先着一名様だとお前が乗れないじゃないか」
と桂は言う。
先生……とちょっと感激しそうになったが、
「お前が来ないと事件が起こらない気がするんだよな」
と言い出した。
「……いや、先生が居るだけで、いつでも何処でも事件、起こってますよね」
事件じゃなくても事件にしますしね、と夏巳が思ったとき、また誰かが車の窓を叩いた。
「先生っ、うちの猫が行方不明になりましたっ。
探してくださいっ」
平川の近所の坂根のおじさんだ。
そういえば、最近、猫を飼い始めたようだった。
坂根の必死の形相に、桂は仕方なく窓を開けて訊く。
「いつからですか?」
「一昨日から帰ってこないんですっ。
夜帰らないことは度々あったんですが、もう三日目なので」
「お宅の猫は、最近、道向こうの音田さんちのグレーの猫とよく一緒に居ますよ。
音田さんちに泊まってることもあるのでは?
首輪をしていないようなので、もしかしたら、音田さんも自分が飼ってるつもりなのかもしれませんよ」
あるな、そういうこと……。
あまり家に居つかない飼い猫だと思っていたら、よそのうちでも飼われてたりとか。
あっちで餌、こっちで寝床。
まるで港港に女を作る船乗りのようだ、と夏巳は思う。
そこから桂は切れ目なく一気に言った。
「そういえば音田さんの奥さんを木曜日コンビニの化粧品売り場のところで見ましたよ。もしかしたら化粧品のお泊まりセットを買っていたのでは? 音田さんちは金曜夜か土曜朝から旅行に行かれてるんじゃないですか? だったらグレーの猫と一緒に鍵がかかった音田さんちの中に居ると思います」
「あ~、そういえば、土曜の早朝、ウォーキングしてるときに、音田さんちの方から、バタンバタンと車のドアを開け閉めする音が聞こえてたなあ」
と坂根は呟く。
朝早く車に荷物を詰め込んで出かけたのだろう。
「今日には音田さんも帰ってこられるでしょうから。音田さんに訊いてみられてもいいしそこまでしなくとも音田さんがドアを開けた瞬間に走って帰ってくるかもしれませんよ」
とまた桂は一息に言う。
どうしたことだ。
名探偵か。
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