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先生、事件ですっ!
こんな日に限って、次々萩で事件が起きるとはっ
しおりを挟む「……わかりました。
信じて待ちます」
と重々しく言う坂根のおじさんの頭には、走って自分のところに戻ってくる愛猫との感動的な再会のシーンが浮かんでいるようだった。
その様子に、土産に魚の干物とか与えられて、すぐには戻ってこなかったらどうするんだろうな、とちょっと不安になってしまったのだが……。
「ご心配なようでしたら、知り合いにペット専門の探偵がおりますよ」
と桂はさすがにそれだけでは不親切だと思ったのか、名刺入れから名刺を一枚取り、坂根に渡した。
「よろしかったら、お電話を。
ああ、事務所は港区ですが、今はご家族の誰かが電話かけ放題とかにされてることも多いでしょうから大丈夫ですよね?」
いや、飛行機乗り放題はないだろうから、来てもらったら相当金がかかると思うのだが……。
まあ、どのみち、坂根は猫を信じて待つことにしたらしく、名刺を手に、深々と頭を下げていた。
ではっ、と桂は急いで発進する。
「先生。
先生は急いでいると、名探偵になるんですね」
と坂根の方を振り返りながら夏巳は甚だ失礼なことを呟いたが、桂は、
「そんなことより、早く萩を出るんだっ。
怪盗Xたちが追いかけてきたらどうするんだっ」
と叫び出した。
「こんな日に限って、次々萩で事件が起きるとはっ。
俺はどうしても津和野にたどり着きたいんだっ。
事件を探すためにっ」
「いや……もう萩で起こってるんならいいんじゃないですかね?」
何故、津和野にこだわるんだ。
萩殺人事件じゃ、語呂が悪いからか……?
と思ったそのとき、道の脇にパトカーがとまり、人が集まっているのが見えた。
寛太たちも居る。
「先生、事件ですっ」
「気のせいだっ」
だが、今度は肉屋のおじさんが何故か血まみれの包丁を持ったまま、すごい形相で道を走っている。
「先生、大事件じゃないですかっ?」
「……大丈夫だ、事件じゃない」
という桂の顔はその美しさも相まって、鬼気迫っている。
この人、きっと今、空から大量の1万円札とか脅迫状とか降ってきても、事件じゃないと言い張るだろうな、と思いながら、夏巳は雑誌の付録の可愛いクーラーバッグをごそごそやり、
「飲みますか?」
と缶コーヒーを差し出した。
「……もらおうか」
と前を見たまま桂は言う。
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