眠らせ森の恋 おまけ

菱沼あゆ

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私、おそろしいものを手に入れてしまいました……

まだ離婚しないのか

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「離婚しないのか」

 昨日はなんだかすっかり騙されましたー、とつぐみが昨夜のことを思い出し、赤くなりながら、廊下を歩いていると、後ろから西和田の声がした。

 は? と振り返る。

 そして、誰に言ってるんだろうな? と思い、周囲を見回した。

 誰か夫婦の問題で悩んでいる人でも居たのだろうかと思ったのだが、社長室へと続く廊下には自分しか居なかった。

 西和田さん、今、なんと? と思いながら、その秘書室のホープの顔を見ると、
「まだ離婚しないのか」
と言ってくる。

 まだって……。

 まるで、離婚すること前提のような感じなのですが。

 つぐみに追いついた西和田は、
「どんなに好き好き言ってても、すぐにクソ亭主とか言い出すもんだぞ」
と言い捨てて、先に社長室に入っていってしまった。

 十把一絡じっぱひとからげにしないでください、西和田さん…、と思いながら見送った。



 機嫌悪いな、と思いながら、奏汰は入ってきた途端、明日の会議の手順で変わったところの説明を始める西和田の顔色を窺う。

 話し終えたあと、西和田は自分が背広の下に着ているあのセーターに目をとめ、言ってきた。

「それ、頻繁に着てますね」

 ……いけないのか。

「あまり同じものを着用されますと、あそこの社長は金がないのかと言われ。

 いずれ、それが、あそこの会社は金がないになり、あそこの会社は危ないらしいとなって、株価が下がりますよ」

 そんな莫迦な……と書類を手に固まっていると、
「噂話から潰れかけた銀行もあるでしょう?」
と言ってくる。

 そりゃそうなんだが。

 何故、俺が愛妻の作ってくれた、

 いや、半分は俺が作ったんだが――

 セーターを着ているだけで、会社が倒れる? と思いながら、
「……つぐみにもう一枚編めというのか。
 あいつに頼んだら、いつ出来上がるかわからないぞ」
と答える。

 つぐみは今、料理に夢中だからだ。

 また図書館に踊らされ、今度は海軍さんが作った料理とやらにはまっている。

 やはり、図書館にお袋の味の特集をしてくれとリクエストに行くべきか、と思っていると、西和田は鼻で笑い、

「まあ、ご夫婦の愛のあかしもいいですけど。
 毛糸は引っ張るだけで、解けますよ」
と言い出した。

 何故お前は、夫婦で積み上げてきたものを解かせようとする……と思っている間に、
「失礼します」
と言って出て行ってしまった。

 入れ違いに入ってきたつぐみを西和田はチラと見て行く。

 つぐみが閉まった扉を振り返り、
すさんでますね~、西和田さん」
と苦笑いしていた。

 つぐみもなにか言われたのだろうか、と思いながら、

「……見合いのせいかな。
 専務は親切で言ったんだろうにな」
と椅子に背を預け、溜息をついた。

 まあ、力関係のせいで、見合いをしてしまったら、もう断れないだろうが。

 あとはただ、相手が断ってくるのを祈るのみだ。

「俺から専務に言っておくよ」
と言うと、つぐみも、

「そうしてあげてください」
と言っていた。

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