都市伝説探偵イチ2 ~はじまりのイサキ~

菱沼あゆ

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呪いの(?)雛人形

なにかが憑いている車で湾岸沿いを走ってみました

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 問題の車はアンティークな感じの小型の車で可愛かった。

 もともとこういう、いい感じのスモークグリーンなのか。

 くすんでしまって、たまたまこんな色になってしまったのかわからないその車を見ながら、乃ノ子は思う。

 こんないい天気の日に、この車で海沿いの町まで走るとか悪くないな、と。

 運転席に乗り込むイチを見ながら、

 そういえば、こんな眩しい日差しの中で見るイチさんっていうのも結構レアだな、と気がついた。

 いつも黒っぽいスーツで。
 日に当たったことがないみたいな白い透明感のある肌で。

 大抵、夕暮れどきか、夜にしか会わなくて。

 またその状況が、驚くくらい綺麗なその顔に似合っているから。

 こんな明るい中でイチさんを見ると、そこはかとなく不安になる。

 この人、こんな明るい場所に居て、消えてしまわないのだろうかと。

 ぼんやり突っ立っている乃ノ子に気づき、イチが運転席から言ってきた。

「早く乗れ、乃ノ子。
 車の止め方と避け方、覚えてきただろうな」

「……止め方だけじゃなかったんですか。
 一個増えてますよ。

 っていうか、そんなこと言われたら、乗りたくなくなるんですけど」

 そう言いながらも、乃ノ子は助手席に乗り込んだ。

 乗ってみると、内装はナビもついていて今風だった。

 手入れがいまいちで、アンティークなデザインなだけで、そんなに古い車じゃないんだな。

 乃ノ子は後ろを振り向き、訊いてみた。

「何処に霊が乗ってるんですか?」

「二人乗りなのに、何処に乗るスペースがあるんだよ」

 いや、霊にスペース、必要なんですかね? と思いながら乃ノ子は言う。

「後ろのトランクに死体の霊が乗ってるとか」

「……死体の霊ってなんだ」
と言われてしまったが。



 イチはナビを湾岸沿いの地区に合わせ、車をスタートさせる。

 いい天気だ。

 車で二人きり。
 ちょっとデートっぽい。

 いや、何処にも甘い雰囲気などないのだが……。

 眩しい海を見ながら、湾岸沿いの道を走っていると、ナビが突然、喋り出す。

「およそ一メートル先に何か居ます」

「……何かってなんですか?」

 イチは答えない。

「六メートル先にも何か居ます」

「だから、何が居るんですか~っ」
と乃ノ子が叫んだとき、見た目に反して、最新の装備を備えているらしい車が、ぴぴぴぴ、と警告音を出しはじめた。

 なにも見えないが、この車的には、目の前をなにかが横切っているらしい。

「イチさんっ、前に何かが居ますっ」

 何が居るのかもわからず、乃ノ子は叫んだ。

「知ってる」
と前を見たまま、イチは言う。

 警告されずとも彼には初めからソレが見えていたようだった。

 今度は後方から警告音が聞こえはじめる。

 後ろに何か居るらしい。

「わ、我々は、今、何かを通り過ぎたのでは……?
 あるいはねたとかっ?」
と乃ノ子は恐る恐る振り返る。

 だが、変わらないスピードで走る車から見えるのは、湾岸沿いの鮮やかな海とアスファルトと山の緑だけだった。

「大丈夫だ。
 今居たそいつは車がぶつかる前から生きてない」

 そんな薄情なことをイチは言うが。

 確かに、こういう人は霊やあやかしをいちいち気にしていたら、まっすぐ歩けもしないだろうなと思う。

「向こうからしたら、なんか通り過ぎたな、と思うだけだ。
 俺も人から見えてないとき、よくすり抜けられるからわかる」

 そんなことをイチは言い出す。

 乃ノ子はちょっとギクリとしていた。

 ということは、こちらからイチさんが見えなくなっても、魂はまだそこにある、ということなのか。

 その瞬間、ふいに静の記憶が蘇った。

 壱と出会って、何度目かの冬。

 雪の中、手をつないでいたはずの壱の姿がいきなり消えた。

 そのときはまた現れてくれたのだが。

 いつも覚悟しているはずなのに。

 立ち尽くし泣きそうになっている静を、

 いや、私を、

 この人はそこに居て、なすすべもなく見下ろしていたのだろうか……?

 ちょっとしんみりしてしまったとき、イチが言った。

「そう、だから俺は見ていた。

 いつだったか、俺が消えたとき。

 見計らったように現れた潤一じゅんいちが、シズを抱き締め、慰めていたところも」

 ひっ、と乃ノ子は息を呑む。

「シズのせいではないし。
 お前はすでにシズではないが。

 いつか言ってやろうと思っていた」
と言われる。

 ……なんかあの。

 霊が現れたときより、凍りついてるんですけど、この車内。

 窓から燦々と降り注ぐ日差しを左肩の辺りに強く感じながらも、乃ノ子はひんやりとした車内の空気に固まっていた。


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