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あやかしを探しています
普通、社内恋愛って、ひっそりやらないっ?
しおりを挟む課長、まだ落ち込んでいるようだ……と思いながら、萌子は社食で遠い目をしている総司を見ていた。
ダイダラボッチが消えた寂しさを一つ目小僧が癒してくれるかと思いきや。
一つ目小僧は、街中で会った可愛い子どもに、あっさり憑いていってしまったのだ。
「……週末、またあの穴を見に行こう。
また、新しいあやかしが湧いてくるかもしれん」
そう言う総司に、はあ、と言いながら、萌子は、
別に常にあやかしを憑けていなくてもいいんでは……と思ってはいたのだが。
自分もウリが消えたら寂しいだろうなと思うので、ちょっと気持ちはわからないでもない。
「課長、ウリ、貸してあげましょうか?」
と今も、どどどどっと社食の中を駆け回っているウリを視線で追いながら、萌子は言った。
「いい。
あいつが憑くと落ち着きがなくなりそうだから」
と総司もまたウリを見ながら言う。
理たちも隣にいるのだが、次のキャンプの話で盛り上がっていて、こちらのあやかしの話など、特に聞いてはいないようだった。
「やっぱ、オートキャンプ場がいいですかね?」
とめぐが言い、
「あら、グランピングはどう?」
と多英が言う。
「買って行かなくても、バーベキューの材料も全部用意してあるし。
他のお料理も出てくるし。
頼めば、焼いてくれたりもするよ」
「……それ、キャンプの必要なくない?」
と理に言われた多英は、
「でも、グランピングだとベッドで寝れるし、快適ですよ」
と言って、
「……最早、キャンプじゃないですよね?」
とサバイバル男、藤崎にも呟かれていた。
いや、女子は好きなんだがな、グランピング……と萌子は思う。
「俺はもっと、こう、サバイバルなところに行きたいんですけどね~」
と元自衛隊の血が騒ぐのか藤崎が言って、
「あんた一人で行ってきなさいよ」
と多英に言われていた。
そんな話を聞きながら、萌子は、
キャンプもいいですが。
課長のために、新しいあやかしを見つけて差し上げないと、
と思っていた。
できれば、あんまり害のないようなやつ。
……いや、害のないあやかしって、どんなのだろうな。
そうだ。
どうせなら、憑いたら、ラッキーになりそうなあやかしがいいかもっ。
「でもまあ、一番、いい運勢を運んできてくれるあやかしは、きっとウリですけどね」
と萌子はつい、声に出して言ってしまう。
「なんでだ?」
と総司が顔を上げて問う。
「だって……たぶん、ウリが課長との縁を結んでくれたから」
と萌子が俯き、照れながら言ったとき、
「……この二人は置いていこう」
と言う理の声が聞こえてきた。
さっきまで聞いていなかったはずの理たちが、けっ、という顔でこちらを見ている。
めぐが文句を言ってきた。
「なによ、もう~っ。
社内でも遠慮なくラブラブしちゃって~っ。
普通、社内恋愛って、ひっそりやらないっ?」
だが、総司は、
「ひっそりする必要が何処にある。
陰に隠れてなきゃいけないのは、別れるかもしれないと思っているからだ。
俺はこいつとは別れるつもりはないから、なにもコソコソする必要はない」
と言い切った。
「いや~、でも、世の中にはいろいろ不測の事態ってのがあると思うんだけどね……」
と理は言ったが、
「ない」
と侯爵様は、また言い切る。
もちろん、別れるつもりも予定もないのだが。
万が一、滝沢さんの言うように、なにかで揉め事が起こって別れかけても。
立て板に水な感じに、課長がなんだかわからない詭弁をまくし立て、結局、別れない気がする……とその様子を見ながら、萌子は思っていた。
言い切る総司に苦笑いしているめぐの横で、多英が、
「そんなこと、どうでもいいわよっ。
あんた、新しい御朱印書いてきなさいよっ。
そして、御朱印パワーで、早く私にも出世頭のイケメン様を連れてきなさいよ~っ。
ご利益あるんでしょうっ? あんたの神社っ。
そこのイケメン課長様を引き寄せたくらいだからっ」
と身を乗り出し、言ってくる。
いやいや。
だから、まず、参拝に来てくださいよ……。
この間、うちの近くでキャンプやったときにも、結局来てないですしね。
はは……と笑いながら、萌子は思っていた。
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