侯爵様と私 ~その後~

菱沼あゆ

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あやかしを探しています

なんとなくご利益がありそうな猪目神社

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「でも、いいなあ、ラブラブでー。
 あー、俺も可愛い彼女が欲しいなあ」

 社食を出たあと、自動販売機から缶コーヒーを取り出しながら、理が言う。

「……ひとりに絞ったら、彼女、できるんじゃないですかね?」
と藤崎が言っていた。

 タラシの霊の後遺症なのか、理はすっかり気が多くなってしまっていた。

 最早、瀬尾せのおと大差ない感じだ。

「でもまあ、俺たちも、そんなにラブラブではない」
と紙コップのき立て珈琲を手に総司が言う。

「あれから、たいして進展もしていない。
 いつでもなんでもしていいと思ったら、かえって緊張してしまってな」
と遠い目をする総司を見ながら、

 いや、いつでもなんでもしてよくはないです……と萌子は思っていた。

「前はなんの感慨もなく、お姫様抱っこできたのに」
と呟く総司に、

「なんの感慨もなくされるの嫌です」
と萌子は言い、

「普通、気がなくても、なんの感慨もなくはできません……」
と藤崎が言った。

 やはり、恐ろしい人だ、田中侯爵……という目で理たちが見ていた。




 とりあえず、この二人、くっつきはしたわけだから。
 なんとなくご利益がありそうな猪目神社に行こう、とみんなが言い出し。

 週末、神社を参拝してから、いつものキャンプ場に行くこにとなった。

 出てきた兄、司を見て、多英が叫ぶ。

「やっぱり、此処は恋愛成就の神社ねっ。
 こんな素敵な人が私を待っているだなんてっ。

 私、司様でいいわっ」

「いや、『様』なのに、『でいいわ』ってなんなんですかね……?」

 巫女装束に着替えた萌子は、多英たちのために御朱印を書きながら、そう呟いた。

「そうですよっ、多英さんっ。
 そういう心構えでは駄目ですっ。

 私は、『司様が』いいですっ」
と祈るように手を合わせ、めぐが言い出した。

「言葉尻とらえて、ごちゃごちゃ言ってんじゃないわよっ、小娘っ。
 司様は私の物よっ」

 今、会ったばかりですよね、多英さん……。

 っていうか、悪役キャラっぽくなっちゃってますけど、と萌子が苦笑いしたとき、遠くから、いきなり参戦してきた者がいた。

「なに言ってんのよっ。
 司は、うんと昔から私のものなんだからっ」

 真凛まりんだ。

 いつの間にか来ていたようだった。

 鳥居の辺りから叫んでいる。

「行けっ、吉之輔きちのすけっ」
と真凛は、めぐではなく、多英の方に柴犬の仔犬をけしかける。

 こっちの方が厄介だ、と判断したらしい。

 ぎゃーっ、可愛いーっ、と多英が叫び、めぐが、
「こっちにもお願いしますーっ」
と懇願する。

 吉之輔きちのすけ砲は、喜ばれているようだった。

「……あの、真凛さん、俺は?」
と連絡先を交換しているにも関わらず、まるで無視されている理が寂しく呟く。

「やはり、あちこち手を出してちゃ、影が薄くなるんじゃないですかね……?」

 藤崎が、ははは……と笑って言っていた。



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