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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
郷愁花⑦
しおりを挟むフォンゼルは母失った悲しい過去を思い出すと、片目からポロリと涙をこぼす。
それを映像水晶で見ていたティオボルドが、察したように目を細め悲しい表情を浮かべた。
「フォンゼルさん……泣いてるんですか?」
フォンゼルがしばらく黙り込んだと思いきや、涙を流し始めたことに驚くシャオラン。姿が幼いことも相まってか、より切なげで庇護欲を駆り立てるような表情だった。
フォンゼルはシャオランの問いかけにハッとした表情を浮かべ、慌てて涙を拭い笑みを浮かべる。
「あかんわ、昔のこと思い出すとすぐこれや。湿っぽいのはやめよか」
「……大丈夫ですか?」
シャオランが心配そうに尋ねると、フォンゼルはニコッと笑みを浮かべ頷く。
「大丈夫ちゃうから、なぐさめてくれへん?もっかいチューしよや」
冗談混じりにそう言って笑うフォンゼル。
「……冗談言えるぐらいなら平気ですね。心配して損しました」
シャオランは真顔になり溜息を吐く。
「郷愁花って、感傷的になる作用でもあるのか?」
セオドアがシャオランにそう問いかけると、シャオランは首を傾げる。
「その点はあまり解明されてませんね。摂取し姿を変えることをきっかけに、色々と思い出してしまうから感傷的になるのかもしれませんし。
セオドアさんのように乗り越えて自力で治せる方もいれば、薬に頼らなければ全く治せない方もいます」
「なるほどな。まぁ、頭脳まで過去に戻る訳でもないし、魔力も変わらないとみた。服のサイズしか弊害がなさそうだけど、問題は……おおっと!!あぶねっ」
城の中は時折トラップがあるため、二人を抱えて動くセオドアの状況は良いとは言えない。
善意で“正体不明の毒に侵されたお姫様”のところまで運ぶとは言っても、子供を二人抱えた状態では容易ではなかった。
そして、前に進むセオドアの目には信じられない光景が現れる。
「おいおい、どうなってんだこの城……」
城の中だというのに崖のような場所に辿り着き、箒にでも乗って飛ばなければ目の前の最上階へ続く扉に行くことが出来ない状態だったため、セオドアは顔を引き攣らせた。
しかも、その扉は小さな木に塞がれ、枝には三つの錠がぶら下がっている。
「三つ……鍵……ウロボロスの木?くそ、遠くてよく分からん」
セオドアは目を細めて向こう岸の扉を睨む。
「アレもトラップちゃう?」
フォンゼルは首を傾げた。
「セオドアさんの言う通り、ウロボロスの木が錠の周りを囲んでいますが、あれはどう言う仕組みなんでしょうか。しかしまぁ、ミネルウァは希少な魔法植物を惜しみなく用意するあたり、よほど気合が入ってますね……」
シャオランは訝しげに扉を見つめる。
「さすがに二人抱えて飛ぶのは無理だな」
セオドアは、二人を降ろしてしゃがみ込みさらに続ける。
「……錠が三つあるってことは、さっき俺らが手に入れた鍵を使うってことだろうな」
「おそらくは。しかし問題があります」
「問題?」
「僕もフォンゼルさんも、あちら側に無事に行けないかもしれませんね」
「体が小さくなっただけで、箒が使えないわけじゃないだろ?」
郷愁花の作用は、印象的なマイナスマインド地点への若返り。本人の記憶はそのまま、魔力までは低下しないため、セオドアは困った表情を浮かべたシャオランに問いかける。
「そうですが、体が……魔力回路が成長途中に戻ってるんです。杖は魔力回路に起因した物を使いますよね?今持っている杖で上手く操作できるか怪しいです」
「じゃあ早く元の姿に戻ってくれ」
セオドアがそういうと、シャオランは無理難題を押し付けられたような表情を浮かべた。
「申し訳ありませんが、こればかりは無理ですよ……よっと」
シャオランはそう言って、近くにあったオブジェの花瓶を崖に向かって投げる。
すると花瓶は真っ暗な底から這い上がる木の根に絡みとられ、あっという間に吸い込まれていった。
「上手に避けて飛ばないと、あの花瓶のようになりますね」
シャオランは困った顔でそう言うと、セオドアは杖を箒に変えた。
「いちかばちかだけど、俺の箒にお前らを乗せて飛んでみようか?箒は結構うまいんだぜ俺」
セオドアはニカッと笑ってそう提案すると、シャオランは顔を引き攣らせる。
「僕の説明聞いてました?いくら上手くても、リスクには変わりありません」
「じゃーどーすんだよー」
「セオドアさん、貴方もひとが良い方なんですね。僕達から鍵を奪って一人であちら側に行くと言う選択肢もあるんですが」
シャオランは真顔でセオドアを見上げる。
「俺がそんなゲスい男に見えんの?たしかにライバルだけど、あの扉はどう見ても団体戦だろ」
セオドアはそう言って振り返り扉を見上げて指をさす。
「団体戦?」
「そ。俺達の本当の勝負はお姫様に会ってからだ。じゃなかったら最終的に同じ道筋になるか?錠を三つ用意した一つの扉しかないんだ、アレは一人じゃ開けられないはずだ」
「まさか……」
シャオランは目を見開く。
「ちょっと確かめてくる」
セオドアはそう言って箒に跨ると、トラップを避けつつ一度扉の前まで飛んだ。
自分が持つ金色の鍵を、金色の錠に一度嵌め込み会場した後引き抜いてみたが、その周辺のウロボロスの枝が一瞬消え失せてすぐに再生し、扉は開かない。
「……やっぱりな」
セオドアは再び危険を冒して箒で元の場所に戻ると、軽く笑って鍵を見せながら口を開いた。
「同時に解錠しないと開かない仕組みだったよ。三人であの場に行く必要がある」
「!」
シャオランは目を見開き、懐から赤い鍵を取り出した。
「そうですか……」
「再生の木をうまいこと使うてるんやね。ボク達が同時に解錠して消失するギミックにしとるってことやし、イケメン君の言う通りここは三人であっちに行かなあかん」
ウロボロスの木は通称”再生の木“とも呼ばれ、枝を折ってもすぐに再生する。解錠することで枝が消える仕組みだが、同時に全て消失しなければすぐに再生するようになっているため、仮にセオドアが鍵を持っていても、手が三本でもなければ同時に開くことは難しかった。
では二人であれば解錠できるかと言うと、大きな扉の周囲にある錠と錠の距離は近い訳ではなく、三人が必要な構造をしている。
「やっぱお前ら二人とも元に戻ってくれ」
セオドアがキッパリそう言うと、シャオランは大きな溜息をついた。
「申し訳ない……僕も頑張ってるんですけどね」
元に戻る気配のないシャオランは、必死に思考を巡らせ過去の後悔を思い出し克服したかのように暗示をかけるが、全く上手くいかず頭を抱える。
「フォンゼルはどうだ?」
セオドアの問いかけに、フォンゼルは笑みを浮かべ自身のお腹をさすった。
「うん。ええよ。ちょうど中で解毒草ができそうやわ」
「は!?」
フォンゼルの発言に、二人は目を見開き口をあんぐりと開けた。
「おぉ、ええ反応。変化草の特徴そのニィ、毒草を食べた場合、体内で解毒草を生成して自動解毒してくれるんや」
「なんだよその特殊な能力!チートすぎんだろ!?」
セオドアは驚きのあまり顔を引き攣らせる。
「まあ、ボクはポンコツやから、歴代の継承者よりもちょっと時間かかるけどなァ……リコリス家は、西では”毒一族“って言われとって、いろんな体質が生まれるんやけど、いちおー変化草が最強って言われてるんよぉ」
ニッと歯を見せて笑うフォンゼルは、解毒の作用が効いたのか、徐々に体が元に戻っていく。
「きたきたぁ」
フォンゼルはゆらりと猫背気味で立ち上がって首を回し、元に戻ったことを改めて確認するように手や足を動かす。
「戻った。異国の魔法植物は倍時間がかかったわー」
「まじかよ(リコリス家、はんぱねー!)」
「アハハ。とりあえず、ここまで連れてきてくれて感謝やで、イケメン君」
「おう。あとは……」
大きい姿に戻った二人は、小さいままのシャオランを見下ろした。
「う……プレッシャーをかけないでくださいよ」
シャオランは二人を見上げ顔を真っ青にする。
「……うーん。ボクが治してあげよか?」
フォンゼルはシャオランを見て手を伸ばす。
「え?治す……?」
フォンゼルはそっとシャオランを抱き上げると、お姫様抱っこする体勢で見下ろしニマニマと満足げな笑みを浮かべた。
「ちょっと……一体何を」
シャオランは狼狽えた表情を浮かべると、フォンゼルが怪しげな笑みを浮かべてシャオランに顔を近づける。
「せやから、ボク、おさげくんのこと治せるけど、どうする?」
「……え?」
「自力じゃ治らへんのやろ?ボクの中にある解毒薬で君を治せるで」
フォンゼルの提案に、シャオランは目を見開く。
「そんなことが可能なんですか?」
「できるで。1回分ぐらいは。君がいいならやけど」
「……なにか引っかかる言い方ですね」
シャオランは怪しんだ目でフォンゼルを見上げていると、セオドアがとある異変に気付き先ほど通ってきた道の方向を見る。
何かが迫ってくる音、そして気配。
「何か来る」
セオドアの緊張感のある声色に、シャオランは慌てた表情を浮かべた。
「何かって何ですか!」
「分かんないけど、絶対良くない物だ!フォンゼル、治せるならとっととシャオランを治してくれ!早く飛ぶぞ!」
セオドアは箒にまたがりフォンゼルに必死にそう指示すると、フォンゼルはシャオランを見つめる。
「ええの?」
「いいですよ!早くしてください!」
「ほんなら遠慮なく。子供相手にするのは気が引けるんやけどね」
フォンゼルはそう言って幼い姿のシャオランをの唇を奪うと、舌を入れて魔法を発動させる。
「!?ん、んんー!?」
フォンゼルの舌がシャオランの咥内に入り込むと、体内で生成された解毒薬がシャオランの中へ流れ込んでいった。
シャオランは突然の事に目を丸くしつつも、解毒薬の作用で体に熱を帯び始める。
「マジか……口移ししないとダメなんだな」
セオドアはそれを間近で見てしまい、思わず目を逸らして顔を赤らめる。
「ぷはっ……げほっげほっ!ちょっと、こういうことなら最初に言ってください!」
口を離したシャオランは激しく咳き込んだ後、体が徐々に元に戻っていくのを感じながらも、顔を赤らめてフォンゼルに文句を言う。
フォンゼルはシャオランを床に立たせ、目を細めて笑みを浮かべた。
「シャオラン君、キス下手くそ?」
「なっ……!?」
完全に元に戻ったシャオランは、フォンゼルの言葉に羞恥を煽られ顔を顰めるも、セオドアは緊張した面持ちで口を開く。
「早く飛ぶぞ!何でかしらねぇけど、多分来た道からウロボロスの枝が迫ってる!!!」
「「!?」」
三人は無我夢中で箒に乗り扉の目の前に降り立つと、セオドアの「せーの!」という掛け声の後に鍵を挿入して右に回した。
すると、錠が床に落ちる音が三回響き、ウロボロスの木は一気に消滅する。
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