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#2-②
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数時間も経たずに迎えに来たクルート公爵とともにアーシェンは馬車に乗り、皇宮に向かう。静かに揺られること数分、権力を誇示するかのような大きな門をくぐった。
謁見の間には末端までの臣下がずらりと並び、それでいて不気味なほどにしんと静まり返っていた。
「クルート公爵でございます。陛下にはご機嫌麗しく」
「よく来た、ヘルゼン。アーシェン嬢もご苦労だった」
「アーシェン・クルート、陛下にご挨拶申し上げます。…もったいないお言葉にございます」
「何を言うか」
ハッハッハ、と実に快活に笑った皇帝は、近くに控えていた宰相に合図をした。宰相は書状を取り出し、声を張る。
「ヘルゼン・クルート公爵並びにアーシェン・クルート公爵令嬢、此度の狼藉者の捕縛及び確固たる証拠を献上したことに対し、帝国の太陽、皇帝の名のもとに褒美をとらす」
つらつらと口上を並べていたが要約すれば、ロゼットラス侯爵の領地のおよそ半分を公爵領とし、慰謝料はロゼットラス侯爵から必ず払わせ、さらに皇室からも褒賞金として半年分の俸禄の上乗せという内容だった。
「臣下として、私がしたことは当然のこと。しかしながら陛下の温情、ありがたく頂戴いたします」
クルート公爵に合わせアーシェンは頭を下げる。書状は筒にしまわれ、宰相がクルート公爵に渡す。それですべての用件が済んだ…はずだった。
「ところでアーシェン嬢よ。此度の騒動で婚約を解消せざるをえなかったな。わしはそれがほんにいたわしいと思う。不憫じゃ。…時に、隣国のパルテン王国から第二王子との婚約の打診がきておる。どうじゃ、受けてみらんか」
「…陛下のご配慮に恐縮するばかりです。ですが、わたくしには過ぎたることと存じます」
「そんなことはない。アーシェン嬢は帝国一の淑女ではないか」
だから早く受けると言え。アーシェンにはそう言っているように聞こえた。実際そのつもりで言葉を選んでいるのだろう。
パルテン王国の第二王子といえば、国境をまたいだ帝国にもその醜聞が聞き及ぶほどの王子だ。女遊びが激しく、勉強もせずに酒に溺れ異母兄弟の王太子とは似ても似つかない酷い性格をしていると。噂には尾ひれがつくのは世の常であるし、どこかしら誇張されて伝わっているだろうが、それでも火のない所に煙は立たない。
そんな王子と婚約を? 何か裏があると考えるに容易い。
「わたくしは公爵家の令嬢に過ぎません。わたくしが決断するには荷が重く思います」
その言葉に嘘はない。いくつか選択肢はあるものの、自らの口から言うのはためらわれた。知識や能力のありすぎる令嬢は、早いうちに目を付けられる。要はクルート公爵に丸投げしたのだ。
「そうかそうか。…なら、クルート公爵。そなたはどう思う」
「身に余る光栄かと存じます。しかしながら、受けるか否かはかの国からの書簡をお見せいただいてからでも遅くはないかと。よろしいでしょうか」
「ほう、前向きに考えてくれるか! うむ、よかろう。この場は終いじゃ。クルート公爵とアーシェン嬢よ、執務室に来るがいい」
皇帝は生き生きと立ち、皆は恭しく頭を下げた。
誰が前向きに考えるなど言った。臣下たちの印象を操作したかったのだろうが露骨すぎるだろう。それでもかなしいかな従うしかないのがあくまで臣下の公爵だ。
謁見の間には末端までの臣下がずらりと並び、それでいて不気味なほどにしんと静まり返っていた。
「クルート公爵でございます。陛下にはご機嫌麗しく」
「よく来た、ヘルゼン。アーシェン嬢もご苦労だった」
「アーシェン・クルート、陛下にご挨拶申し上げます。…もったいないお言葉にございます」
「何を言うか」
ハッハッハ、と実に快活に笑った皇帝は、近くに控えていた宰相に合図をした。宰相は書状を取り出し、声を張る。
「ヘルゼン・クルート公爵並びにアーシェン・クルート公爵令嬢、此度の狼藉者の捕縛及び確固たる証拠を献上したことに対し、帝国の太陽、皇帝の名のもとに褒美をとらす」
つらつらと口上を並べていたが要約すれば、ロゼットラス侯爵の領地のおよそ半分を公爵領とし、慰謝料はロゼットラス侯爵から必ず払わせ、さらに皇室からも褒賞金として半年分の俸禄の上乗せという内容だった。
「臣下として、私がしたことは当然のこと。しかしながら陛下の温情、ありがたく頂戴いたします」
クルート公爵に合わせアーシェンは頭を下げる。書状は筒にしまわれ、宰相がクルート公爵に渡す。それですべての用件が済んだ…はずだった。
「ところでアーシェン嬢よ。此度の騒動で婚約を解消せざるをえなかったな。わしはそれがほんにいたわしいと思う。不憫じゃ。…時に、隣国のパルテン王国から第二王子との婚約の打診がきておる。どうじゃ、受けてみらんか」
「…陛下のご配慮に恐縮するばかりです。ですが、わたくしには過ぎたることと存じます」
「そんなことはない。アーシェン嬢は帝国一の淑女ではないか」
だから早く受けると言え。アーシェンにはそう言っているように聞こえた。実際そのつもりで言葉を選んでいるのだろう。
パルテン王国の第二王子といえば、国境をまたいだ帝国にもその醜聞が聞き及ぶほどの王子だ。女遊びが激しく、勉強もせずに酒に溺れ異母兄弟の王太子とは似ても似つかない酷い性格をしていると。噂には尾ひれがつくのは世の常であるし、どこかしら誇張されて伝わっているだろうが、それでも火のない所に煙は立たない。
そんな王子と婚約を? 何か裏があると考えるに容易い。
「わたくしは公爵家の令嬢に過ぎません。わたくしが決断するには荷が重く思います」
その言葉に嘘はない。いくつか選択肢はあるものの、自らの口から言うのはためらわれた。知識や能力のありすぎる令嬢は、早いうちに目を付けられる。要はクルート公爵に丸投げしたのだ。
「そうかそうか。…なら、クルート公爵。そなたはどう思う」
「身に余る光栄かと存じます。しかしながら、受けるか否かはかの国からの書簡をお見せいただいてからでも遅くはないかと。よろしいでしょうか」
「ほう、前向きに考えてくれるか! うむ、よかろう。この場は終いじゃ。クルート公爵とアーシェン嬢よ、執務室に来るがいい」
皇帝は生き生きと立ち、皆は恭しく頭を下げた。
誰が前向きに考えるなど言った。臣下たちの印象を操作したかったのだろうが露骨すぎるだろう。それでもかなしいかな従うしかないのがあくまで臣下の公爵だ。
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