ネタバレすると、俺が男主人公なことは確定。

杏2唯

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思わせぶりな君へ、真心の愛を

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 学園の王子様と噂の二階堂亮との望んでなかった接触のせいで、結局俺は特番に間に合わなかった。

「おはよう! アサコ姫!」
「…………何してんのお前」
「嫌だなぁ! 一番におはようを言いたかったんだよ!」

 次の日、絶対に絡んで来るだろうと予想は何となくしていたけど、こんな朝っぱらから仕掛けてくるなんて思ってなかった俺は、登校してすぐ下駄箱の前で俺を待ち伏せていたであろう二階堂を見て言葉が出なかった。
 いや、だってホントに何してんだこいつ。あとアサコ姫ってやめろ今すぐにやめろ。

「残念ながら一番に俺におはようって言ったのは母さんだけどな」

 上履きに履き替えながら、二階堂を軽くあしらう。
 幼稚な返しをしたにも関わらず、俺のその言葉を聞いた二階堂はハッとした表情を見せた。相変わらずイケメンだ。

「――それって今日、僕を家に誘ってるのかな?」
「何でそうなるんだよ!?」
「だってアサコの家に今夜泊まれば、明日君のお母様より早く君におはようを言えるじゃないか!」

 その理屈はどうかと思うしそもそもさっきの俺の発言からどうしたらそこまで話を飛躍させられるんだよ。
 顔はイケメン、声もイケメン、その顔と声から発せられる発言はお粗末極まりない。

「イケメンの無駄遣いって、お前みたいな奴のこというんだろうな」
「無駄遣い……?」
「ちょっとでいいからお前のそのイケメン遺伝子もらいたかったぜ」

 俺だったらそんな遺伝子無駄遣いはしなかった。絶対に。確実に。間違いなくだ!

「アサコは今のままで十分魅力的だよ――それに」

 あ、何か嫌な予感する。

「いつかこの遺伝子はアサコと一緒に――」
「それ以上言うな気持ち悪い! しかもお前が言いそうな言葉を完全に予測できた自分も気持ち悪いわ!」
「え!? もう僕達って心が通じ合うまでに関係が発展していたんだね!?」
「してねーし今後もしねーよ! じゃあな!」

 先に自分の教室に着いた俺は勢いよく教室のドアを閉めた。
 たかが下駄箱から教室までの距離なのに、二階堂が隣にいるだけですごい注目を浴びてしまった気がする。
 いつもは誰からも視線を感じたりしないのに……今日も俺を見ていた奴は一人もいなかったんだろうけど。自分で言って悲しい。
 それにまだ授業どころか朝のHRすら始まってないのにこの疲れ。二階堂と同じクラスじゃなくてよかったと心の底から思った。
 一日中あいつの相手してたらどうにかなりそうだ。

「おはよう麻丘くん! あれ、どうしたの? 顔が疲れてる」
「おはよう佐伯……いや、朝から疲れることあって……でも佐伯の顔見たら癒された気がする」
「そうなの? 私の顔で癒されるなら好きなだけ見ていいからねっ!」

 天使佐伯の降臨で、二階堂によって吸い取られたエネルギーを少し取り戻せた。
 隣で佐伯が笑うこの空間。今やっと気付いた。この教室内がどんなに幸せな空間なのかを――


「アサコ! 会いたくなって来ちゃったよ!」
「俺の幸せ空間があぁぁああ!」

 気付いてすぐに俺の幸せ空間は壊されてしまった。
 時空の歪みによって残念イケメンが侵入してしまったからだ。

 一限目が終わって一息つく暇もなく目の前に現れた二階堂。
 絶対教室の前で待機してたとしか思えない早さなんですけどちゃんと授業受けてたのかこいつ。

「ごめんね? もっと幸せにしちゃったみたいで」
「逆だよ逆!」

 よくも俺の安らげるA組の教室を! お前は変人河合と共に頼むからC組から出て来るな!

「きゃああ! 王子どうしてA組に!?」
「今まで一回も来たことなかったよね!?」
「こんな近くで王子見たの初めて! 写メ写メ!」

 そんな俺の気持ちとは裏腹に、突然A組に現れたサプライズプリンスにクラスメイト達が歓喜の声を上げ始める。
 他の奴にとっては今のA組の方がどうやら幸せ空間と呼ぶに適しているらしい。
 でも周りが騒いでくれたおかげで俺自身があまり二階堂と関わらずに済んだ。
 さすがだクラスメイト達よ! これがチームワークというものだ! 

 しかし俺の考えは甘かった。
 次の休み時間もその次も、二階堂は俺の元へやって来た。
 何度も来るとさすがにクラスメイト達もそれが当たり前になってしまう。ひたすら俺は二階堂のどうでもいい話を聞き流して休憩時間の筈なのに全く休憩した気分になれなかった。
 そしてもちろん――昼休みも自然に俺と佐伯とオトメの輪の中に“そいつ”はいた。

「アサコは学食なんだね! 僕も今日は学食なんだ。僕のエビフライをあげよう。ほら、口を開けて」
「――シンヤ、どうしてこいつがここにいるワケ? 昨日の今日で何があったの?」
「いや、偶然助けられちゃって運命感じられちゃったっていうか」
「イミわかんない! ていうかこいつうるさいんだけど動きも含めて」
「君がどうしてそんなにカリカリしているのか僕には理解不能なんだけど、よかったら場所変わってくれないかな? この位置じゃアサコにあーんするのが大変で」
「……キモッ」

 オトメ、それは俺も思ったけどそんな顔で言ったらダメだ。ブスに見えるぞ。
 今俺達が座っている位置を説明すると、俺の目の前に佐伯、隣にオトメ、そして佐伯の隣に二階堂がちゃっかり座っている。
 二階堂的にはオトメがいる俺の隣に来たいみたいだけど、オトメとはどうも相性が悪いらしく交渉は決裂していた。正直オトメグッジョブ。

「あ、それなら君が変わってくれない? えーっと……」
「佐伯那智です。よろしくお願いします!」
「佐伯さん。どうも二階堂亮です。で、お近づきのしるしに場所変わってもらっていいかな?」
「どうぞどうぞ~」
「は!? いやいや」

 そんなお近づきのしるしがあってたまるか!
 俺は移動しようと立ち上がった佐伯の手を思わず握った。行かないでくれという気持ちを込めて。
 驚いた顔で俺の方を見る佐伯の目を見ながら、俺は言う。

「目の前で、佐伯の顔見ながら飯食いたいから……そのままそこにいてほしい、です」
「――!」

 だってそうだろ! いくらイケメンでも何で二階堂の顔見ながら飯食わなきゃなんねーんだ!
 しかもあーんなんて死んでもされたくない。初あーんが二階堂なんて絶対に嫌だ。

 しばらくの間無言で佐伯とにらめっこをしていたが、突然佐伯がストンと椅子に座った。
 そして俺の手を両手て包み込んでニコッと笑う。

「私もやっぱり麻丘くんが美味しそうにご飯食べてるとこ真正面から見てたい!」
「――佐伯!」

 嬉しすぎる言葉を言ってくれた佐伯に感動して俺ももう片方の手を佐伯の手に重ねる。
 そしてお互い微笑み合ってうんうんと頷いた。

「バッカみたい」

 隣からオトメの呆れた声が聞こえるけど気にしない。
 どうだ見たか二階堂! 俺と佐伯の絆はこの学園でも一、二を争うほど固いんだ! お前如きが乱入して壊れる絆じゃないんだよ!

「さすがアサコ! 僕みたいな世界遺産レベルの整った顔よりもこんな地味な顔を見ながらの方がいいなんて……なんて謙虚なんだ! やっぱり他の人間とは器が違うよ」

 だからどうしてそうなるんだよ!
 それに佐伯が地味な顔だと!? 失礼なこと言いやがって可愛いだろ普通に! 地味な顔っていうのはもっと東宮みたいな奴のことをいうんであって……

「そんな素敵なプリンセスにはまるごとプレゼントしてあげる」

 満面の笑みで俺の皿に自分のエビフライを乗せる二階堂。
 エビフライに罪はないのでこれは有難く頂戴することにする。

「ねぇ、二階堂くんはどうしてアサコって呼ぶの?」

 佐伯がふと、実は俺も気になっていたことを二階堂に聞いた。

「ああ、麻丘って名前だからアサコ。その方が女性的で可愛いだろ?」
「は……何あんたシンヤのこと女と思ってんの?」
「そうだけど何かおかしいかな? こんなに可愛らしい人僕は初めて出会ったよ」
「……っ……あはははは!」

 堪えるなら最後までちゃんと堪えろオトメ。笑いたくなる気持ちはわかる。

「どうしてシンコじゃなくてアサコなの? 麻丘くんは伸也が名前なのに」
「シンコって響きが卑猥だろう?」
「お前の考えが卑猥だ馬鹿それと俺の名前はアサコでもシンコでもなく伸也だ!」

 結果、昼休みも満たされたのは腹だけで、学園の問題だらけ王子様のせいで俺は全く休めた気にならなかった。


****

 あの日から登校して二階堂の顔を見ない日はなかった。
 周りからも最早俺あるところに二階堂ありのように思われている始末だ。
 相変わらず二階堂はウザイ。最近は毎日メールも送ってくる。ウザイ。

「アサコは好きな花とかある?」

 休み時間に突然、今日はそんなことを聞いてきた。

「花? 俺全然花の種類とか知らないし……つーかそんなの聞いてどうするんだよ」
「当り前さ! アサコに花を贈りたくてね!」

 マジでいらねぇ。どうして俺が花を誰かに贈るんじゃなくて贈られなくちゃいけないんだよ。しかも男に。

「何にもないなら、薔薇の花束を贈りたいんだけど――」

 薔薇!? 二階堂に薔薇って、うわ、想像しただけでも似合いすぎて殴りたくなる。
 でもそれより薔薇の花束なんてもらったら困る。家にそれを持って帰るのも嫌だし持ってる自分も嫌だ。
 生憎俺は二階堂と違って薔薇の花束が似合うような男ではない。

「あー薔薇はちょっとあんまりっていうか――あ、たんぽぽ! 俺たんぽぽ好きだわ!」
「たんぽぽ?」
「そ、そう! たんぽぽ! 黄色くて可愛いじゃん!」
「――うん、そうか、アサコらしくていいね」

 よくわからないけど俺のたんぽぽという答えに二階堂は納得してくれたみたいだ。
 別にたんぽぽが好きなワケじゃないけどたんぽぽなら小さいしプレゼントされても薔薇の花束みたいな事態にはならないだろ。

「じゃあ今日の放課後、僕が教室に迎えに行くまでアサコは教室で待っててね!」
「えっ!? 今日!?」
「少し待たせるかもしれないけど、いい子で待ってるんだよ。それじゃあ!」
「おい待てって二階堂! 俺今日は委員会――」

 自分の言いたいことはベラベラと話すのに、人の話は全く聞かないんだなあいつ。
 逆に俺の方が終わるの遅いと思うって言いたかったんだけど――まぁいいか。もしかしたら勝手に帰ってくれるかもだし。

 しかも今日の委員会は、一筋縄ではいかないだろう。
 なぜなら、今日は遂に東宮が胃を痛めていた、校長参加の学級委員会の日だからだ――


「で、ででででは、これより学級委員会を、はっ、はじめたいと、お、おもいっ、ます!」
「フフ、そんなに緊張しないでいいのよ? みんなもいつも通りな感じでいいんだからね?」
「は、はひ! す、すみまへ!」

 こんな情けない東宮を見ることになるとは、案の定緊張しまくっているであろう東宮は委員会開始早々まともに話せてもいない。
 そんな東宮の様子を見て、俺とオトメと河合は三人無言で目線を送り合う。
 今日は全員で東宮のフォローをしていかないとマズイな……とりあえず俺は東宮に一度深呼吸して気持ちを落ち着かせるように言った。
 河合もいつもみたいに余計なことを言い出すかと思ったら校長を前だからかさすがに大人しくしている。少し意外だった。

 しかし校長がいるだけで、教室内は異様な雰囲気が漂っているのは間違いない。
 入学式以来にちゃんと校長を見て、こんな近くで見るのは初めてで、なんつーか――

 目のやり場に困る。

 だって相変わらず校長のクセに白衣着てるし!? でもインナーは深いVネックで完全に胸の谷間とやらが主張してますし!?
 それに美人だ。何というかこれが大人の魅力か……と実感しまくる。思春期男子高校生なんてこんなお姉さんに憧れまくっているお年頃でしかないワケで。
 異様な雰囲気ってより校長自身から色気が出過ぎている。ピンクオーラ全開っていうの!?
 ていうかこの人何歳なんだ!? 二十代後半にしか見えないけどその若さで校長なんてと思うし、噂の美魔女ってヤツ?

「麻丘くん? 聞いてる?」
「えっ! あ、ゴ、ゴメン。何だっけ?」

 東宮に声をかけられて我に返る。いけない。東宮のフォローしようって決めたばっかなのに校長のお色気作戦にまんまと嵌ってしまうなんて。

「今日は、学園で最初の大きな行事である体育祭について念入りに話し合うっていうのがテーマだから、何か盛り上がる案とかあればどんどん出してほしいんだけど……」
「そう! みんなの意見じゃんっじゃん言ってね! 村咲学園初の体育祭なんだから! ワタシが許可すればどんな案もオーケーにするわ」

 校長が一番体育祭を楽しみにしてそうだな。今もウキウキとした感じが伝わってくる。でもどんな案もオーケーって……結構な無茶ブリしても許可しそうで若干怖い。変な案出すなよ。特に河合。

「とりあえず今決まっているのは学園側が考えてくれた大まかな流れと競技。あとチーム分けに関してはA組、B組が赤組、C組、D組が青組っていうので決定してるけど、ここまでは大丈夫かな?」
「えートーグーと同じチームとか負けそ~~」
「ボ、ボクだって河合さんとは嫌だけどこれは決定事項だから仕方ないよっ!」

 あからさまにお互い嫌そうな東宮と河合。ってことは俺はオトメと同じチームか……佐伯も一緒だし、これはチーム的には最高なんじゃないのか!? 
 それにこのチーム分けだとあの変態王子とは違うチームだ! やばいそれが一番嬉しいかもしれない!

「そこまで決まってるなら、念入りに話し合うことなんてあるの? 後決めたらいいのって各組の団長とかだけど、あたし達だけで話し合えることでもないし……」
「あ、早乙女さん、団長に関しては来週ある赤組、青組で集まって話し合う時間を設けてるからそこで各組ごとで決めるって予定だよ」
「体育祭の実況は放送委員に頼むことになってるから放送委員との話し合いも必要になるんだよな?」
「あ~そっかぁ! へきるそのこと忘れてた。アサシンにしてはちゃんとしたこと言うんだね?」

 一言余計だ。
 その後も体育祭のことについて、みんなできちんとした意見を出しながら話し合った。
 競技や流れは決まってるものの、準備をするのが基本俺達学級委員になるみたいでこれは体育祭まで結構なハードスケジュールだぞ……休む暇あるかな俺……

「みんな素晴らしいわ!」

 体育祭までの今後の流れも決まり一通り話し合いが終わったところで、今まで黙って聞いていた校長が拍手をしながら高らかな美声を発した。

「まだ入学してから時間もそんなに経ってないのに、四人のチームワークがここまでとは思わなかったわ。アナタ達を学級委員に選んだワタシの目に狂いはなかったようね」
「あっ……そのことなんですけど、何で俺が――いや、俺達が選ばれたんですか?」

 今では当たり前のようにこなしている学級委員なんていうポジションだけど、そういえば元はと言えば校長が俺達四人を指名したからなんだよな。
 東宮は学園一の成績だったらしいから納得だけど、俺やオトメや河合に関しては全くわからない。この機会にそのエロ美声で教えてください校長!

「面白そうだったから」
「「「「えっ」」」」

 校長の返事にそれはもう物凄く綺麗に俺達四人の声が揃った。多分今が一番チームワーク発揮出来た瞬間かもしれない。

「お、面白そうって……?」
「そのまんまよ。ワタシが面白そうだなーって思った子達を推薦したの。フフ、大当たり」

 困惑した俺の顔見て校長は微笑みながら長い人差し指で俺の唇をちょんっとつついた。
 その瞬間ボンッと湯気が出てるんじゃないかと思うくらい顔が熱くなるのがわかる。俺は今のシーンを多分家に帰って何回も思い出すだろう。夢にまで出そうな破壊力……!

「また参加させてちょーだいね。それじゃあ」

 教室にピンクオーラを少し残したまま、校長は教室から出て行った。

「面白いからって、可愛いからの間違いでしょ~? へきるは一番可愛いから選ばれたんだも~ん! そう思うでしょトーグー!?」
「そうだね。河合さんって別に面白くないし」
「ハァ!? お前の方が面白くないだろーがこのガリ勉芋野郎が!」
「……今日はちゃんと校長の前で大人しくしててくれたから河合さんに何言われても許すことにするよ」

 肩の力が一気に抜けた様子の東宮は、河合に文句言われながらも一仕事終えた後みたいな清々しい表情をしている。
 俺も緊張が解けて、背伸びをすると一気に肩が軽くなった。そういえば二階堂を待たせてるんだっけ……待ってるんだっけ……まぁどうでもいい。

 いつもの流れでオトメも一緒に帰ろうと誘おうとすると、オトメはさっさと鞄を持って教室から出ようとしていた。
 あれ? 先に帰ろうとしてる感じかこれ?

「オトメ? 今日は一緒帰れないのか?」
「…………」
「オトメ?」

 振り向いたオトメから、ピンクじゃなくてどす黒いオーラを感じた。

「終始デレデレしてみっともない! エロシンヤ!」
「は!? お、おい待っブファッ!」

 追いかけようとしたところで思い切りドアを閉められて顔面を強打。あれ、似たようにドアを閉めらたことちょっと前にもあったな、なんて――

「大丈夫……? 麻丘くん」
「エロシ~ン? ひゃひゃひゃ! 顔が今度はさっきと別の意味で真っ赤!」

 頼むからエロシンっていう呼び名だけはやめてくれ。



 東宮に心配、河合に笑われながら自分の教室に戻ると、そこに二階堂の姿はなかった。
 やっぱり先に帰ったか、と思うとタイミングよく携帯に二階堂からメッセージが届く。

“もう少しだけ待ってて。迎えに行くからお姫様♡”

「世界で一番嬉しくないハートマークってこれか……」

 ゾッとした俺はそのまま返事をせず携帯をポケットにしまった。

「にしても、まだ時間かかるって何してんだよ二階堂の奴」

 先に帰るとそれはそれでめんどくさいし、今日は特に早く帰る理由もない。
 俺は自分の席に座って、大人しく二階堂を待つことにした。
 隣の席を見ながらここに佐伯がいたらなーなんて考えていたら、いつの間にか眠くなってきて、俺はそのまま自分の席で眠ってしまった。


「――お待たせアサコ。待たせてごめんね。あれ、寝てるの?」
「可愛いなぁ。アサコは寝顔も可愛いんだね」

 二階堂の声がする。望んでないのに夢にまで出てきやがって。

「君にたんぽぽを渡したくて校舎内を探したんだ。すぐ見つかると思ったんだけど結構苦戦しちゃって……僕のファンの子達が手伝うって言ったんだけどね、僕だけの力で探したかったから断ったんだよ。偉い? 褒めて? ふふ」

 たんぽぽ? あぁ、休憩時間話してた……

「アサコはたんぽぽの花言葉は知ってた? ――たんぽぽの花言葉はね、真心の愛……あと、思わせぶりっていうのもあるんだ。僕は前者だけど、アサコはどっちなの? 後者なら僕みたいな人間を翻弄するなんてとんだ小悪魔だな、なーんてね」

 花言葉なんて俺は知るワケないだろ。小悪魔って、気持ち悪いこと言うな……って何してんだよ! お前俺の頭に何かしただろ? てか俺眠いんだから夢の中でくらい寝かせてくれよ。

「おやすみアサコ、もう少しだけ、いい夢を……」

 はいはい。おやすみ。お前もさっさと寝ろよ二階堂。

 ――あれ?

「……俺、どんくらい寝てたっけ」

 さっきまで二階堂の夢見て、それで……あれ? どっからどこまで夢だった?

 目の前には芸術品かと思うくらい綺麗な顔で寝ている二階堂がいて
 教室の窓ガラスに映る俺の頭には、一輪のたんぽぽの花が挿してあった。

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