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アサシンは団長となる
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俺の頭なんていう最悪な場所に生けられたたんぽぽは、二階堂から俺へのプレゼントだったらしい。
その姿があまりにも似合わな過ぎてぞっとして、たんぽぽに申し訳なくなった俺は二階堂の頭に同じようにたんぽぽを挿し返してみる。
「うわ……似合いすぎてぞっとする」
「僕よりアサコの方が似合ってたよ」
「どこがだよ。 百人に聞いたら百人はお前の方が似合ってるって答えると思うぞ」
「その考え方なら九十九人が正解だね。 僕はアサコって答えるからさ」
お前は回答者枠に入ってねぇよ。
そう思ったけど口には出さなかった。それより二階堂の目からは一体俺がどういう風に見えてんのかがそろそろ真剣に気になる。
そのまま二階堂と一緒に帰った。
二人で帰るのは初めてのことで、途中で手を繋いで来ようとした二階堂を本気で拒否ると本気で泣かれかけた。
二階堂と手を繋いでるとこなんて誰かに見られたら終わりだ。
“僕は高級なハンドソープでしか手を洗ってないよ!?”とか言われたけど別にそういう問題ではない。
家に帰ると一日の疲れがどっと出てきて、俺はすぐにベッドへダイブした。
明日からしばらくの間は体育祭の準備で忙しくなることを想像すると、ゆっくり出来るのはもしかして今日――いや、昨日が最後だったのかもしれない。
中学の時とは大違いだ。部活辞めてからは好き放題だったし。
そう思うと、村咲学園に入ってからの日々は目まぐるしい。一日一日があっという間に過ぎて行く。
入学してまだ時間も経ってないってのに、もしかして俺はこのイカレ学園で――
「毎日充実……してるっていうのかコレ」
そんなワケないと思いながらも、最近は最初の頃みたいに朝憂鬱になることもなくなってるし。
今の悩みはもう男とか女とかじゃなくて二階堂がウザイ。それに限る。
「どうやったら俺が男だって信じてもらえんだろ……」
名前も見た目も見るからに男で、自分でも男とこれだけ主張しているのに、二階堂が全く俺を男だと思わないのはあいつが頭おかしいだけじゃなくて。
やっぱりこの学園のシステム的に本当のことをわからなくさせてるからってのもあるよなぁ……
心のどこかで“本当は女なんじゃないか”って信じること出来ちゃうし。
まぁあのバカ王子はそこまで深く考えずに俺のこと女って思ってるんだろうけど。
――俺が男ってわかったら、二階堂どんな反応すんだろ。
二階堂からもらった少ししおれてしまったたんぽぽを見て、そんなことを考えていた。
****
「えーっと、今日は今ここに集まった赤組のみなさんの中から団長を決める会議をすることになってます。進行はA組学級委員麻丘伸也と」
「……B組学級委員早乙女忍」
「以上の二人でお送りしまーすっ……おいオトメもっと愛想よくしろよ。友達増やすチャンスだろうが」
「何よそれ。男嫌い克服はする努力はするけど友達増やしたいなんて言った覚えないわよ。それよりシンヤがB組の可愛い子にもデレデレするのか見ものだわ」
「お前はいちいち可愛くねーことばっかり言うな……損だぞその性格」
「ふんっ。早く進めなさいよバカシンヤ」
今日は六限目に赤組、青組のチームごとで行われる初会議の日だった。
少し広めに作られた多目的室にA組とB組の生徒が集まっていて、俺とオトメはそのみんなの前で進行役をしていかなきゃならないっていうのにも関わらずオトメの無愛想すぎる態度。
小声で注意すれば倍の文句が返って来て、てかもしかしてこの前の委員会で校長相手に思春期男子丸出しにしちゃってた俺のことまだ怒ってんのかオトメの奴……
今までこういう役回りをしたことない俺は内心かなりテンパッていて、上の階の多目的室で会議中の東宮と河合の二人は東宮がいるからうまく進んでるんだろうなぁなんて思うと河合が羨ましくなった。
「ま、まず最初に――今ここにいるA組とB組のみなさんは、体育祭では共に戦うチームであり、仲間です。力を合わせて打倒青組を目指しましょう」
「東宮に書いてもらったテンプレ読み上げてんじゃないわよ」
「うるさいな! じゃあお前が進行してみろよっ!」
「何であたしが! 言ったでしょあたしは書記の役するって!」
「お前さっきから何も書いてないだろ!」
「書くことないからでしょ!?」
「大体俺だって書記の方が――」
オトメの小言のせいでまた始まってしまったくだらない口喧嘩。そして途中で気付く。俺もオトメも小声で話すことを忘れて普通、いや何ならちょっと大きめの声量だったことに。
教室内を見ると真顔で俺達を見る赤組のみなさん。この静まり返った空気。
オトメもそれに気付いて急に黙って俯いた。おいこの空気を俺にどうにかさせようとしてるだろ。
無意味な咳払いをして、仕切り直そうとした時だった。
「……ははっ!」
教室の隅の方から、笑い声が聞こえた。
一人の笑い声につられるかのように周りも笑い出す。笑っているのはみんなB組の奴らだ。
一体何なんだ? 別に俺達今コントとかしたワケじゃあないんだけど?
「早乙女委員長って、そんな風に誰かと話したりするんだ!」
「思った! いつも話しかけないでオーラすごいから怖かったけど、新たな一面見た感じ!」
「それにA組の学級委員の人も早乙女にあんな言い返すとか怖いもの知らずかよ! 勇気ありすぎ!」
え? え?
「う……うるさいわねあんた達! 関係ない私語は厳禁なんだから静かにしなさい!」
B組生徒達から次々と発せられる言葉を聞いて、隣でオトメが顔を真っ赤にして叫ぶ。慌てたように言うオトメを見てB組の奴らはまだ楽しそうにしてるし。
あとこの中で一番関係ない私語してたのは多分俺達だと思うけど。
「何だよオトメ、お前クラスでも未だにあの怖い感じだったのかよ」
「怖いって何よ。関わりたくないから自分から関わろうとしなかっただけ」
「だからさ、それじゃ何も変わらないってば。今ちょっとクラスメイト達お前に対しての印象変わったんじゃないの? これを機に仲良くやっていけよ」
俺からしたらオトメの印象は最初と今じゃまるで違う。
仲良くなれば、オトメの最初の最悪な印象なんてどうでもよくなるくらいいい奴なんだけどな。全く素直じゃないけど。
「――シンヤが手伝ってくれるなら、考えるわ」
「お前なぁ、俺いないと何もしないつもりだろ」
「男嫌い克服するの協力してくれるって言ったでしょ……?」
「――ハ、ハイ。どこまでもお供させていただきます」
オトメに凄まれて、俺はあっけなく折れてしまった。
こんなこと言うのもあれだけど、凄む時の顔は兄妹そっくりだ。オトメのクソ兄貴に凄まれた時の恐怖が蘇る。今でも時々夢に出て来るくらいには怖かった。
「あー、じゃあちょっと仕切り直しさせてもらいます。とにかく今日は団長を決める会議なんで、最初は立候補者を募りたいんだけど、我こそは赤組の団長だーって人いたら手挙げてくださーい!」
随分時間をロスしてしまったので、ちゃちゃっと団長を決めてしまおうと本題に戻る。
学級委員を決める時にあれだけやりたいっていう熱血系が多かったうちのクラスだ――団長なんてやりたい奴だらけだろ。
そう思っていたのに、またもや静まり返る教室内。
「あ、あの? 立候補者いませんか?」
あれ、俺の声ってちゃんと聞こえてるよな? 集団シカトとかそういういじめじゃないよな?
誰一人として手を挙げないのは完全に予想外の事態だった。そのまま刻一刻と時間だけが過ぎて行く。
「――いやいや誰か立候補しろよ!? ちょっとA組のお前ら! 学級委員決める時はあんな盛り上がってたのに団長決める時は誰もやりたがらないってどういうこと!?」
しびれを切らした俺はクラスメイトに向かって必死の形相でそう訴えかけた。お前ら何ボーっとしてんだよ! ボーっとしてんのは担任のしののんだけで十分なんだよお前らまで伝染してんなよ!
「いやー、だって、なぁ?」
「うん。団長とか荷が重いってゆーか」
ふざけたことを抜かす俺のクラスメイト達。仲間と思ってたのに今日から敵になりそうだ。
俺は助けを求めようと佐伯を探す。佐伯なら俺とアイコンタクトで通じ合える仲だからきっと俺のピンチを救ってくれるような言葉をこのだらけてしまったA組の奴らに言ってくれる筈だ。
佐伯……俺の救世主佐伯……って、めっちゃ寝てるーーー!
椅子に座りながらこっくりこっくりしてるとかじゃなくて完全に寝てるーーー!
五限目終わる時に“麻丘くんと早乙女さんがボスしてる姿楽しみにしてるね!”って言ってたあの笑顔は嘘だったのか佐伯!
「ていうか、アサシンが団長するっていうのは?」
「――は?」
クラスメイトの内の一人がそんなことを言い出した。
ちょっと待て、いつものことながら何を言い出すんだよ。
周りは勝手にアサシン団長イイネ! みたいな空気になり賛成の嵐が巻き起こる。
「俺らA組は団長に麻丘伸也を推薦しまーす!」
「いや待てって! 勝手に推薦すんな! 大体俺学級委員の仕事もあんだぞ!?」
「でも学級委員が団長しちゃいけないって決まりはないんだろ?」
「そっ、それは……っ!」
そうだけどそうだけどそうだけどさぁ!? わかるだろ!? 学級委員もやって団長もやってってめんどくさいだろうが!
しかも俺が団長なんて冗談じゃない。団長ってアレだろ、目立つだろ? 学ランとか着て「フレーフレー」とか無駄にデカい声で叫ばされて喉痛めちゃうし無駄に変な応援合戦の振付とかして筋肉痛に苦しめられるし!
小学生の頃から団長やってる奴を見て、多少の羨ましさありつつも自分があのポジションをやるなんて考えたこともなかった。そもそも団長に選ばれる奴なんて学校でイケてるグループに属してるモテ男なんだよ。そいつが団長やることによって更にモテるんだよな……って、じゃあ団長やれば俺もモテるんじゃ? 男か女かわからない奴らに? 嬉しくねぇ! 長々言ったけどつまりは純粋にやりたくないんだよ!
「はーいわたし達B組も団長はA組学級委員の方を推薦しまーす」
「早乙女委員長に言い返す人だし相当強いと思うので異議はありませーん」
なっ!? B組の奴らまで――!?
「いやいやいやいや異議あり異議あり!」
必死の抵抗で手を挙げて異議を申し立てる。大体その理屈はおかしいだろ俺の方がオトメより強いみたいになってない?
すると後ろから黒板に何かを書く音。振り返るとオトメが黙々と“団長 麻丘伸也”と書いていた。
「ちょちょ! オトメ!? 何書いてんだよ!」
「何って、あたし書記って言ったでしょ。決定事項を書いてるだけだけど?」
「決定してないから! 推薦された本人が納得してないのに決定すんなよ! あと何いきなり書記の仕事全うしてんの?」
「あんた男なんでしょ? さっさと腹くくりささいよ。どうせこのままじゃ決まらないんだから犠牲になりなさいシンヤ」
目の前に鬼がいる。他人の犠牲を何とも思わない鬼が……オトメのことは味方と勝手に思ってたのに……俺今から女って名乗ってもいいかな。
佐伯の方を見ると相変わらず寝ていて、何故だか俺は佐伯にもオトメにも裏切られた気分になった。俺の味方はこの世界線には存在しないようだ。
悲しくなって一人うなだれていると、突然勢いよく教室のドアが開いた。
「アサコ! どうして僕と君が別のチームなんだ!」
開いて第一声にその言葉。
現れたのは二階堂。上の階から走って来たのか少し息が切れている。
「……な、何しに来たんだよお前」
今自分も会議中だろ? 会議飛び出してわざわざそれだけを言いに?
「アサコとチームが違うことについてどうしてかってずっと河合さんとあの眼鏡くんに説明を頼んでたんだけど、納得いく答えが返ってこなくて……決定事項だからってそんなのおかしいよ!」
「いやおかしいのはお前だよ」
「だから途中からはA組とC組を同じチームに出来ないのかって会議になってて……出来ないって言われたからこうやって飛び出してアサコのところまで来たんだ」
「お前が会議をブチ壊してたことだけはよく伝わった」
絶対に順調に進んでいると思っていた東宮河合の団長決め会議がまさかこの馬鹿のせいでそんなことになっていようとは。問題児過ぎるだろ二階堂亮。もう王子なんて呼び名剥奪するべきだ。
「どうして離ればなれにされるんだ……これじゃロミオとジュリエットだよ! 悲劇だ!」
「仕方ないだろ決定事項なんだから」
「アサコまでその言葉で済ますのか!? 僕と一緒じゃなくて寂しい気持ちはないと!?」
寧ろ喜びの気持ちしかなかったことは絶対に言えない。
てかさっさと戻ってくれ二階堂。正直今自分のピンチでお前の相手してる場合じゃないしお前とのやり取りクラス中に見られてるこの状況が悲劇なんだけど。
「しょうがないだろ。それにチームが違うからってダメってことないだろ?」
「……つまり、どういうこと?」
「ほら、敵同士の方が逆に燃える~みたいなことだってあるしさ!」
めんどくさい時は適当なことを言って二階堂を納得させるのが一番だということを俺は既に学んでいる。
「なるほど。アサコは好き合ってるのに敵同士っていう方が興奮するってことか」
「――いろいろとツッコみたいとこ満載だけどめんどくさいからもうその解釈でいいや」
「そうか! そうだったんだね! この試練を乗り越えられれば僕らもっと強い絆で結ばれると!」
誰もそこまで言ってないし元々絆もないけど勝手に納得してくれた二階堂は、黒板の文字を見て何か思いついたような反応を見せた。
「赤組の団長って、アサコがやるの?」
「え、いやそれはまだ決定事項じゃなくて」
「それならば! 青組の団長は僕がやるしかないじゃないか!」
「だから俺は団長やるかまだ決まって――」
「団長同士って更に燃えるよね!? うん、そうと決まれば今すぐ戻って立候補してくるよ!」
「人の話聞け!」
二階堂はいつものことながら俺の言葉に聞く耳を持たず自分の教室へ戻って行った。
これめちゃくちゃマズイ状況になったと思う気がするのは俺だけ? あの大馬鹿王子のせいで、逃れられなくなった気が――
「決定、ね」
オトメからトドメの一言。
教室内にいる全員も納得したように頷く。
それでも俺は団長をやりたくなかった。だってただでさえ体育祭は学級委員の仕事で忙しいのに団長もやるなんて死ねと宣告されているのと同じだ。
最後の悪あがきで、俺は佐伯の方を見た。
――起きてる!
さっきまで深い眠りの世界に落ちていた佐伯が、目を開けて俺の方を見ていた。
佐伯としばらく目線を交わしながら、心底団長をやりたくないから助けてくれという俺のSOSを佐伯に送る。
すると佐伯はにっこりと、俺がいつも癒されてる笑顔を見せながら口を開いた。
「赤組を優勝に導いてね! 麻丘団長!」
俺の気持ちは全く届いていなかった。
でもいつも俺はこうなんだ。佐伯に笑顔で言われると、ついつい調子に乗りたくなるんだ。
「――おう、任せろ」
あれ、学級委員決める時もこんなんだった気がする。
俺が観念したことにより大いに盛り上がる教室内。
もうどうでもいい。何でもやってやる。全員地獄へ道連れだこの野郎。
俺はこの瞬間に、学級委員兼赤組団長の麻丘伸也として生まれ変わった。
そして青組団長は、二階堂に決まったということを放課後東宮と河合から聞いた。
――体育祭の日、風邪でも引いてくれないかな俺の身体。
その姿があまりにも似合わな過ぎてぞっとして、たんぽぽに申し訳なくなった俺は二階堂の頭に同じようにたんぽぽを挿し返してみる。
「うわ……似合いすぎてぞっとする」
「僕よりアサコの方が似合ってたよ」
「どこがだよ。 百人に聞いたら百人はお前の方が似合ってるって答えると思うぞ」
「その考え方なら九十九人が正解だね。 僕はアサコって答えるからさ」
お前は回答者枠に入ってねぇよ。
そう思ったけど口には出さなかった。それより二階堂の目からは一体俺がどういう風に見えてんのかがそろそろ真剣に気になる。
そのまま二階堂と一緒に帰った。
二人で帰るのは初めてのことで、途中で手を繋いで来ようとした二階堂を本気で拒否ると本気で泣かれかけた。
二階堂と手を繋いでるとこなんて誰かに見られたら終わりだ。
“僕は高級なハンドソープでしか手を洗ってないよ!?”とか言われたけど別にそういう問題ではない。
家に帰ると一日の疲れがどっと出てきて、俺はすぐにベッドへダイブした。
明日からしばらくの間は体育祭の準備で忙しくなることを想像すると、ゆっくり出来るのはもしかして今日――いや、昨日が最後だったのかもしれない。
中学の時とは大違いだ。部活辞めてからは好き放題だったし。
そう思うと、村咲学園に入ってからの日々は目まぐるしい。一日一日があっという間に過ぎて行く。
入学してまだ時間も経ってないってのに、もしかして俺はこのイカレ学園で――
「毎日充実……してるっていうのかコレ」
そんなワケないと思いながらも、最近は最初の頃みたいに朝憂鬱になることもなくなってるし。
今の悩みはもう男とか女とかじゃなくて二階堂がウザイ。それに限る。
「どうやったら俺が男だって信じてもらえんだろ……」
名前も見た目も見るからに男で、自分でも男とこれだけ主張しているのに、二階堂が全く俺を男だと思わないのはあいつが頭おかしいだけじゃなくて。
やっぱりこの学園のシステム的に本当のことをわからなくさせてるからってのもあるよなぁ……
心のどこかで“本当は女なんじゃないか”って信じること出来ちゃうし。
まぁあのバカ王子はそこまで深く考えずに俺のこと女って思ってるんだろうけど。
――俺が男ってわかったら、二階堂どんな反応すんだろ。
二階堂からもらった少ししおれてしまったたんぽぽを見て、そんなことを考えていた。
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「えーっと、今日は今ここに集まった赤組のみなさんの中から団長を決める会議をすることになってます。進行はA組学級委員麻丘伸也と」
「……B組学級委員早乙女忍」
「以上の二人でお送りしまーすっ……おいオトメもっと愛想よくしろよ。友達増やすチャンスだろうが」
「何よそれ。男嫌い克服はする努力はするけど友達増やしたいなんて言った覚えないわよ。それよりシンヤがB組の可愛い子にもデレデレするのか見ものだわ」
「お前はいちいち可愛くねーことばっかり言うな……損だぞその性格」
「ふんっ。早く進めなさいよバカシンヤ」
今日は六限目に赤組、青組のチームごとで行われる初会議の日だった。
少し広めに作られた多目的室にA組とB組の生徒が集まっていて、俺とオトメはそのみんなの前で進行役をしていかなきゃならないっていうのにも関わらずオトメの無愛想すぎる態度。
小声で注意すれば倍の文句が返って来て、てかもしかしてこの前の委員会で校長相手に思春期男子丸出しにしちゃってた俺のことまだ怒ってんのかオトメの奴……
今までこういう役回りをしたことない俺は内心かなりテンパッていて、上の階の多目的室で会議中の東宮と河合の二人は東宮がいるからうまく進んでるんだろうなぁなんて思うと河合が羨ましくなった。
「ま、まず最初に――今ここにいるA組とB組のみなさんは、体育祭では共に戦うチームであり、仲間です。力を合わせて打倒青組を目指しましょう」
「東宮に書いてもらったテンプレ読み上げてんじゃないわよ」
「うるさいな! じゃあお前が進行してみろよっ!」
「何であたしが! 言ったでしょあたしは書記の役するって!」
「お前さっきから何も書いてないだろ!」
「書くことないからでしょ!?」
「大体俺だって書記の方が――」
オトメの小言のせいでまた始まってしまったくだらない口喧嘩。そして途中で気付く。俺もオトメも小声で話すことを忘れて普通、いや何ならちょっと大きめの声量だったことに。
教室内を見ると真顔で俺達を見る赤組のみなさん。この静まり返った空気。
オトメもそれに気付いて急に黙って俯いた。おいこの空気を俺にどうにかさせようとしてるだろ。
無意味な咳払いをして、仕切り直そうとした時だった。
「……ははっ!」
教室の隅の方から、笑い声が聞こえた。
一人の笑い声につられるかのように周りも笑い出す。笑っているのはみんなB組の奴らだ。
一体何なんだ? 別に俺達今コントとかしたワケじゃあないんだけど?
「早乙女委員長って、そんな風に誰かと話したりするんだ!」
「思った! いつも話しかけないでオーラすごいから怖かったけど、新たな一面見た感じ!」
「それにA組の学級委員の人も早乙女にあんな言い返すとか怖いもの知らずかよ! 勇気ありすぎ!」
え? え?
「う……うるさいわねあんた達! 関係ない私語は厳禁なんだから静かにしなさい!」
B組生徒達から次々と発せられる言葉を聞いて、隣でオトメが顔を真っ赤にして叫ぶ。慌てたように言うオトメを見てB組の奴らはまだ楽しそうにしてるし。
あとこの中で一番関係ない私語してたのは多分俺達だと思うけど。
「何だよオトメ、お前クラスでも未だにあの怖い感じだったのかよ」
「怖いって何よ。関わりたくないから自分から関わろうとしなかっただけ」
「だからさ、それじゃ何も変わらないってば。今ちょっとクラスメイト達お前に対しての印象変わったんじゃないの? これを機に仲良くやっていけよ」
俺からしたらオトメの印象は最初と今じゃまるで違う。
仲良くなれば、オトメの最初の最悪な印象なんてどうでもよくなるくらいいい奴なんだけどな。全く素直じゃないけど。
「――シンヤが手伝ってくれるなら、考えるわ」
「お前なぁ、俺いないと何もしないつもりだろ」
「男嫌い克服するの協力してくれるって言ったでしょ……?」
「――ハ、ハイ。どこまでもお供させていただきます」
オトメに凄まれて、俺はあっけなく折れてしまった。
こんなこと言うのもあれだけど、凄む時の顔は兄妹そっくりだ。オトメのクソ兄貴に凄まれた時の恐怖が蘇る。今でも時々夢に出て来るくらいには怖かった。
「あー、じゃあちょっと仕切り直しさせてもらいます。とにかく今日は団長を決める会議なんで、最初は立候補者を募りたいんだけど、我こそは赤組の団長だーって人いたら手挙げてくださーい!」
随分時間をロスしてしまったので、ちゃちゃっと団長を決めてしまおうと本題に戻る。
学級委員を決める時にあれだけやりたいっていう熱血系が多かったうちのクラスだ――団長なんてやりたい奴だらけだろ。
そう思っていたのに、またもや静まり返る教室内。
「あ、あの? 立候補者いませんか?」
あれ、俺の声ってちゃんと聞こえてるよな? 集団シカトとかそういういじめじゃないよな?
誰一人として手を挙げないのは完全に予想外の事態だった。そのまま刻一刻と時間だけが過ぎて行く。
「――いやいや誰か立候補しろよ!? ちょっとA組のお前ら! 学級委員決める時はあんな盛り上がってたのに団長決める時は誰もやりたがらないってどういうこと!?」
しびれを切らした俺はクラスメイトに向かって必死の形相でそう訴えかけた。お前ら何ボーっとしてんだよ! ボーっとしてんのは担任のしののんだけで十分なんだよお前らまで伝染してんなよ!
「いやー、だって、なぁ?」
「うん。団長とか荷が重いってゆーか」
ふざけたことを抜かす俺のクラスメイト達。仲間と思ってたのに今日から敵になりそうだ。
俺は助けを求めようと佐伯を探す。佐伯なら俺とアイコンタクトで通じ合える仲だからきっと俺のピンチを救ってくれるような言葉をこのだらけてしまったA組の奴らに言ってくれる筈だ。
佐伯……俺の救世主佐伯……って、めっちゃ寝てるーーー!
椅子に座りながらこっくりこっくりしてるとかじゃなくて完全に寝てるーーー!
五限目終わる時に“麻丘くんと早乙女さんがボスしてる姿楽しみにしてるね!”って言ってたあの笑顔は嘘だったのか佐伯!
「ていうか、アサシンが団長するっていうのは?」
「――は?」
クラスメイトの内の一人がそんなことを言い出した。
ちょっと待て、いつものことながら何を言い出すんだよ。
周りは勝手にアサシン団長イイネ! みたいな空気になり賛成の嵐が巻き起こる。
「俺らA組は団長に麻丘伸也を推薦しまーす!」
「いや待てって! 勝手に推薦すんな! 大体俺学級委員の仕事もあんだぞ!?」
「でも学級委員が団長しちゃいけないって決まりはないんだろ?」
「そっ、それは……っ!」
そうだけどそうだけどそうだけどさぁ!? わかるだろ!? 学級委員もやって団長もやってってめんどくさいだろうが!
しかも俺が団長なんて冗談じゃない。団長ってアレだろ、目立つだろ? 学ランとか着て「フレーフレー」とか無駄にデカい声で叫ばされて喉痛めちゃうし無駄に変な応援合戦の振付とかして筋肉痛に苦しめられるし!
小学生の頃から団長やってる奴を見て、多少の羨ましさありつつも自分があのポジションをやるなんて考えたこともなかった。そもそも団長に選ばれる奴なんて学校でイケてるグループに属してるモテ男なんだよ。そいつが団長やることによって更にモテるんだよな……って、じゃあ団長やれば俺もモテるんじゃ? 男か女かわからない奴らに? 嬉しくねぇ! 長々言ったけどつまりは純粋にやりたくないんだよ!
「はーいわたし達B組も団長はA組学級委員の方を推薦しまーす」
「早乙女委員長に言い返す人だし相当強いと思うので異議はありませーん」
なっ!? B組の奴らまで――!?
「いやいやいやいや異議あり異議あり!」
必死の抵抗で手を挙げて異議を申し立てる。大体その理屈はおかしいだろ俺の方がオトメより強いみたいになってない?
すると後ろから黒板に何かを書く音。振り返るとオトメが黙々と“団長 麻丘伸也”と書いていた。
「ちょちょ! オトメ!? 何書いてんだよ!」
「何って、あたし書記って言ったでしょ。決定事項を書いてるだけだけど?」
「決定してないから! 推薦された本人が納得してないのに決定すんなよ! あと何いきなり書記の仕事全うしてんの?」
「あんた男なんでしょ? さっさと腹くくりささいよ。どうせこのままじゃ決まらないんだから犠牲になりなさいシンヤ」
目の前に鬼がいる。他人の犠牲を何とも思わない鬼が……オトメのことは味方と勝手に思ってたのに……俺今から女って名乗ってもいいかな。
佐伯の方を見ると相変わらず寝ていて、何故だか俺は佐伯にもオトメにも裏切られた気分になった。俺の味方はこの世界線には存在しないようだ。
悲しくなって一人うなだれていると、突然勢いよく教室のドアが開いた。
「アサコ! どうして僕と君が別のチームなんだ!」
開いて第一声にその言葉。
現れたのは二階堂。上の階から走って来たのか少し息が切れている。
「……な、何しに来たんだよお前」
今自分も会議中だろ? 会議飛び出してわざわざそれだけを言いに?
「アサコとチームが違うことについてどうしてかってずっと河合さんとあの眼鏡くんに説明を頼んでたんだけど、納得いく答えが返ってこなくて……決定事項だからってそんなのおかしいよ!」
「いやおかしいのはお前だよ」
「だから途中からはA組とC組を同じチームに出来ないのかって会議になってて……出来ないって言われたからこうやって飛び出してアサコのところまで来たんだ」
「お前が会議をブチ壊してたことだけはよく伝わった」
絶対に順調に進んでいると思っていた東宮河合の団長決め会議がまさかこの馬鹿のせいでそんなことになっていようとは。問題児過ぎるだろ二階堂亮。もう王子なんて呼び名剥奪するべきだ。
「どうして離ればなれにされるんだ……これじゃロミオとジュリエットだよ! 悲劇だ!」
「仕方ないだろ決定事項なんだから」
「アサコまでその言葉で済ますのか!? 僕と一緒じゃなくて寂しい気持ちはないと!?」
寧ろ喜びの気持ちしかなかったことは絶対に言えない。
てかさっさと戻ってくれ二階堂。正直今自分のピンチでお前の相手してる場合じゃないしお前とのやり取りクラス中に見られてるこの状況が悲劇なんだけど。
「しょうがないだろ。それにチームが違うからってダメってことないだろ?」
「……つまり、どういうこと?」
「ほら、敵同士の方が逆に燃える~みたいなことだってあるしさ!」
めんどくさい時は適当なことを言って二階堂を納得させるのが一番だということを俺は既に学んでいる。
「なるほど。アサコは好き合ってるのに敵同士っていう方が興奮するってことか」
「――いろいろとツッコみたいとこ満載だけどめんどくさいからもうその解釈でいいや」
「そうか! そうだったんだね! この試練を乗り越えられれば僕らもっと強い絆で結ばれると!」
誰もそこまで言ってないし元々絆もないけど勝手に納得してくれた二階堂は、黒板の文字を見て何か思いついたような反応を見せた。
「赤組の団長って、アサコがやるの?」
「え、いやそれはまだ決定事項じゃなくて」
「それならば! 青組の団長は僕がやるしかないじゃないか!」
「だから俺は団長やるかまだ決まって――」
「団長同士って更に燃えるよね!? うん、そうと決まれば今すぐ戻って立候補してくるよ!」
「人の話聞け!」
二階堂はいつものことながら俺の言葉に聞く耳を持たず自分の教室へ戻って行った。
これめちゃくちゃマズイ状況になったと思う気がするのは俺だけ? あの大馬鹿王子のせいで、逃れられなくなった気が――
「決定、ね」
オトメからトドメの一言。
教室内にいる全員も納得したように頷く。
それでも俺は団長をやりたくなかった。だってただでさえ体育祭は学級委員の仕事で忙しいのに団長もやるなんて死ねと宣告されているのと同じだ。
最後の悪あがきで、俺は佐伯の方を見た。
――起きてる!
さっきまで深い眠りの世界に落ちていた佐伯が、目を開けて俺の方を見ていた。
佐伯としばらく目線を交わしながら、心底団長をやりたくないから助けてくれという俺のSOSを佐伯に送る。
すると佐伯はにっこりと、俺がいつも癒されてる笑顔を見せながら口を開いた。
「赤組を優勝に導いてね! 麻丘団長!」
俺の気持ちは全く届いていなかった。
でもいつも俺はこうなんだ。佐伯に笑顔で言われると、ついつい調子に乗りたくなるんだ。
「――おう、任せろ」
あれ、学級委員決める時もこんなんだった気がする。
俺が観念したことにより大いに盛り上がる教室内。
もうどうでもいい。何でもやってやる。全員地獄へ道連れだこの野郎。
俺はこの瞬間に、学級委員兼赤組団長の麻丘伸也として生まれ変わった。
そして青組団長は、二階堂に決まったということを放課後東宮と河合から聞いた。
――体育祭の日、風邪でも引いてくれないかな俺の身体。
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そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
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