ネタバレすると、俺が男主人公なことは確定。

杏2唯

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学園の王子様は全力で恋をしたのでした

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 体育祭も終わり、激しい筋肉痛に襲われながら今日もイカレ学園へと登校する。
 あんなに全力疾走したのはいつぶりだろうか。あんなに身体を酷使したのも記憶に新しい。

 高校生になってから、“初めてのこと”と“久しぶりなこと”の連続だった。

 そして俺は今日――新たな“初めてのこと”を経験することとなる。

「――へ? 校長室?」
「そう~。早く行って~ダッシュダッシュ」
「え、何で!? 俺何かやらかした!?」
「行けばわかるからさぁ」
「ちょ、待てってしののん! 今行ったらHR間に合わな」
「行ってらっしゃ~い! さよなら~」
「…………」

 学校に着くなり、待ってましたと言わんばかりにしののんに捕まり、告げられたのは「校長室に今すぐ行って」という言葉だけ。
 急にそんなこと言われて、まるでイミが分からない俺の様子なんてちっとも気にせずに、会話を強制終了して去って行くしののん。

 え!? 何で!? 校長室!? 何で!?
 頭の中で自分の最近の行いを振り返った。何かマズイことをしてしまった記憶もなければ、自分で言うのもなんだけど最近はどちらかというと評価されてもいいんじゃね? っていうことの方が多い気が――あ、逆にそっち? 褒められる方だったり?

「あーっ! 考えても仕方ねぇ!」

 行けばいいんだろ行けば! あ、待てよ? 校長室に行けばもちろん校長に会えるってことだよな?
 朝からあのエロオーラ纏い主に会えるなんて、もしかしなくても最高にラッキーかもしれない。今日一日の活力が湧くってもんだ。
 俺の中に住む人格、エロシンが現れた。男はみんなどこかにエロの人格を抱えてるんだから仕方ない。


 初めて訪れる校長室を目の前に、緊張と不安と少しの期待でドキドキしながらドアをノックする。
 中から「どうぞ」という校長の声が聞こえ、俺は生唾をゆっくり飲み込み、校長室のドアを開いた。

「失礼しまーすっ……」

 恐る恐る足を踏み入れると、そこは――

「あれ、案外普通の校長室だな」
「フフ、どんなのを想像してたのかしら?」
「いやー、もうちょっとピンクな感じを……あ、いや! 何でもないです!」

 声に出てた。俺は校長室に何を期待してたんだろうと問いただしたくなるくらいそこは普通の校長室だった。
 でもエロ長先生はやっぱりいつも通りエロい。最近暑いからか、今日は髪をサイドで結んでいる。アプリゲームでSRを引いたような気分になった。レア長……!

「……えっと、ていうか俺何で呼ばれたんすかね?」

 俺がそう言うと、校長は一瞬驚いたような顔をして、その後すぐにニヤッといやらしい笑みを浮かべる。え、何これまさか本当にピンクな展開!?

「何にも察してないのね。アナタらしいわ」
「察すって……お、俺やっぱり何かしでかしちゃってました!?」
「フフ、そうじゃなくて――初のご指名よ、麻丘伸也クン」
「ご指名、って――」

 “指名”という言葉を聞いて、俺の脳裏にある可能性がよぎった。いや、でもまさか、そんなワケ――

「アナタに告白したいって生徒が、ここへ訪れたわ。ワタシはそれを許可したの。だから今からアナタにはその生徒に会いに行ってもらうわ」
「え、いやちょっと、ちょっと待って下さい!」

 そんなワケあった! ありまくった! 
 ていうかこんな急に呼び出されるのか!? こんな簡単に許可出ちゃうのか!? 
 それに俺は俺に告白しようとしている人物に思い当たる節しかない。そう思うと余計に気持ちがザワザワしだして、今すぐここから逃げたくなった。

「今から見る光景は、口外しちゃあダメよ?」

 心の準備が全然出来てない俺を無視して、校長は机の下に手を伸ばす。
 その瞬間、部屋の右側からゴゴゴ……と何かが動く音がして、まるでRPGのダンジョンのように、動いた本棚の間から上へと続く階段が現れた。全然普通の校長室じゃねえ。

「アナタを想ってる人は、先にもう上で待機してるわ」
「――これって、ドッキリとかじゃないですよね?」
「まさか。まぁワタシもこんなに早くこの階段を使うことになるとは思わなかったけど……私から見ても、“彼”のアナタへの想いは真実だと思ったのよ」

 やっぱり。
 今の校長の言葉で、確信へと変わる。このどこかへ続く階段の先にいる人物が。

「待ちくたびれてる筈よ。早く行ってあげて」
「……ったく、あのバカ」

 俺は意を決して、階段を一段、また一段と上る。
 変な汗が出てくる。顔を合わせたらまず一発殴りたい気分だ。どういう心境で、俺に告白なんてしようとしてるんだあいつは。

 上った先には、青空が広がっていた。どうやらこの階段は屋上に繋がっているらしい。
 確かに、校内の案内をされた時屋上に続く階段が見当たらないなとは思っていたけど……そういうことだったのか。

 そして、青空の下にいたのは。

「――何してんだよ、二階堂」

 屋上でたたずむ姿が憎いくらい絵になる、予想通りの二階堂だった。

「アサコ!」

 俺の声に反応して、二階堂は嬉しそうに振り返った。

「来てくれたんだね。嬉しいよ」
「強制的だっつーの」
「どうして呼ばれたかなんて、わかりきってると思うけど……僕の気持ちを聞いてくれないか?」

 二階堂があまりに真剣な顔で言うもんだから、俺は頷くことしか出来なかった。何なんだこの状況。

「アサコとは、出逢った時から運命を感じてたんだ。それに他の人とは違うってこと。僕はアサコに出逢ってから今まで経験したことのないような感情でいっぱいになった。今までは自分は喜びを与えるだけの人間と思ってたけど、僕は初めて誰かから喜びをもらったんだ」
「…………」
「そしてこの前の体育祭で、僕の気持ちは決まった。アサコが最後に僕にかけてくれた言葉……あれは反則だよ。好きにならないわけがないじゃないか」

 やべぇ。何言ったか全然覚えてない。

「僕は“大勢の僕を愛する人のもの”から“たった一人のもの”になる覚悟を決めた! ――好きだよ、アサコ。僕を君だけのプリンスにしてくれないか?」

 ……えーっと。
 イケメンでイケボ。性格は難ありだけど、二階堂に告白されて嬉しくない奴なんてこの世に存在するのだろうか。するのである。
 二階堂の気持ちは嬉しい。真剣なんだなということは当事者の俺が今一番感じていることだ。でもそれより虚しい気持ちが勝っている。何故かって? 決まってるだろそれは俺が――

「男だから」
「……アサコ?」
「お前の気持ちはさ、嬉しいよ。全世界のお前のファンに火あぶりにされても文句言えないなって思うけど、俺……男だから」

 俺は二階堂の顔の前に、自分の生徒手帳を掲げる。麻丘伸也、性別、男。ハッキリとそう記された生徒手帳を。
 二階堂はじっとそれを見つめた後、ひったくるように俺の手から生徒手帳を奪い、生徒手帳とキスするんじゃないかくらい顔を近づけて見ている。穴が開きそうだ。

「そっ、そんな! 何かの間違いだ……だってアサコは、僕の運命の女性……!」
「いやだから俺男だって最初から言ってたよな!? つーか真実なんだから認めろよ! 俺は男だからお前のプリンセスにはなれないしそもそもプリンスは募集してないんだよ!」
「ハッ!? もしかしたら僕が女性だったりするのかもしれない! 確認してみてくれないか!?」

 相当テンパッてるのか元々おかしいのに更に頭のおかしい発言をしながら、二階堂は震えながら俺に自分の生徒手帳を渡した。
 開くとイケメンすぎる二階堂の顔写真の横に記されているのは、二階堂亮、性別、男。

「男だよ! てか自分の性別なんだからわかるだろアホか!」
「待って、待ってくれ。本当に? 本当にアサコは男なの?」
「残念ながら、真実だ」
「真実……」

 二階堂の瞳から、すぅっと一筋の涙か零れた。そんなドラマみたいに綺麗に涙流せるのかよ。
 それに泣きたいのはこっちだ。人生初の告白が男だったなんて……悲しすぎるだろ俺! 

「……じゃあアサコは、僕と付き合えないのか?」
「……ごめんなさい。つーか男でもいいの? どういうこと?」
「……う、うぅっ……」

 二階堂はよっぽどショックだったのか、肩を震わせながら泣いている。何この悪者気分……勘弁してくれ。

「あのさ、二階堂」

 泣きじゃくる二階堂に、俺は声をかける。

「お前とは付き合えないけど――でもさ、俺、今までずっと、男の“親友”がいなかったんだ」
「…………」
「お前変人だけど、いい奴だっていうのはわかってる。こんなこと言うの、厚かましいかもしれないけど――」
「…………」
「俺の唯一無二の、“親友”になってくれませんか?」

 めちゃくちゃ恥ずかしいし、何言ってんだ自分って思ってる。
 けどこれが、俺の二階堂に対する、真剣な気持ちだった。

 俺の言葉を聞いて、今まで下を向いて泣いていた二階堂が顔を上げる。

「――そういえば、僕も今までいなかったみたいだ」
「――二階堂」

 涙を流しながらも、その顔は笑っていて、笑顔のまま二階堂は言う。

「君の唯一無二になれるなら、喜んで」

 そして俺の手を取った。

「改めてよろしく。マイベストフレンド、アサオ!」

 いやそこはもう伸也でいいだろ!
 そうツッコミたくなったけど、今はこの綺麗すぎる涙と笑顔に免じて許してやろう。

「ああ、よろしくな」

 俺と二階堂は固く握手をし、カップルとしてではなく、親友としての日々を歩むことを誓い合った。


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