クローバーをあげたくて

たみやえる

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 言いたいことでもあるのか、と洸夜は身構える。
だが、最初に声をかけてきたのは冬木ではなく、井出の方だった。
「洸夜君、一緒に行こ!」
 ぐい、無邪気に手をにぎられて洸夜は面食らった。
 周りにはうっそうと木が生い茂っている。黒い地面の上には木の根が這い凸凹している上にすべりやすい。森の中を歩きなれない自分達では無様に転ぶこと間違いなしだ。
 洸夜は無様にすっ転ぶ自分を想像し、ぎゅっと眉を寄せた。
 それは、自分にはあってはならないことだ。
自分はいつだって正しくて光り輝いていなければならないという思い込みが自分を縛り付けていることを小学生の洸夜は意識していない。
ただただその期待に応えなければならないと信じている。
 そして、期待に応えているかどうかジャッジするのは周りの人間だ。自分ではない。
自然、周りにいる他のグループの生徒の目が気になる。
「井出さん、ちょっと待って。冬木君も一緒に行かないと」
 常に周りに気を配る。うん、これが正しいことなのだ。
 井出がぐいぐい引っ張るのにブレーキをかけるようと洸夜は立ち止まる。
 そうすると五年と三年の体格差、というか力の差で、洸夜の手を離せばどんどん先に行けるのに離したくない井出は前に行こうとしても進むことができない。
 井出が頬をふくらませて洸夜を振り返った。
「何で西條君は名前で呼んで私は苗字なの~」
(え? そっちなの?)
と、洸夜はまたも面食らってしまう。
無理やり足を止めさせたことではなく、呼び方に対しての不満を投げかけられるとは思ってもいなかった。
「ごめん、ごめん。えっと……」
「さおりだよ!」
「あー、さおりちゃんね……」
井出の名前を口にした途端、チク、とした視線を感じた。
 顔を上げると、よそのクラスの蜷川環奈がこちらを睨みつけていた。
 五年の中では飛び抜けて可愛いと評判の美少女。そして、洸夜のカノジョでもある。
環奈とはこの春告白されてなんとなく付き合いはじめて半年経つ。
 付き合う……とはいっても休みの日に一緒に買い物に出かけたり、手を繋いで歩く……程度のことしかしていない。世の中のカレカノがどんなことをしているのかぼんやりと知っているつもりだが、小学生の自分たちがどこまで進むべきなのか、洸夜には判断できない。
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