最初のオトコ

たみやえる

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 体をひねって振り返り荒木を軽く睨むと、だってさ、と目を逸らされた。心なし荒木の頬も赤く見え、こま子は息をのんだ。
以前まえシたときはさぁ、俺も初めてだったから、どうしたらいいか手探りだったわけよ。まぁ、俺も歳とって成長したってわけ……」
 鼻の下を指の背でこすりながらそう言った荒木の顔はあまりにも自慢げで、こま子は手の甲で口を押さえるのだけれども指の間から笑いがこぼれ出るのを止められない。
「うそ!? あんた、初めてだったの?」
「うん。コマコマあの後俺のこと、ずぅーっと避けてただろ。俺、よっぽどヘタだったのか、って落ち込んだんだぞ」
 あの夜のことを引きずっていたのは自分だけではなかった。すっかり静かになったこま子の額に張り付いた前髪を耳に向かって撫でつけながら、
「今度はヨかっただろ」
と再度囁かれる。思わず首を縦に振ってしまってこま子は狼狽えた。
「や、だ、言わないでそーゆーこと。お互い、いい歳なんだから!」
 荒木の胸に顔を埋める。だってそれしか顔を隠す方法がなかったのだ! 荒木が機嫌良い笑い声を上げる。
「楽しいことに歳が関係ある?」
「そっちは恥ずかしくなくても、私は恥ずかしい!」
「もっかい、シよ?」
「……ばかっ」


「結婚して欲しい」
と、言われたのは夕食を終えてソファに座ったときだった。
 荒木の仕事はバイヤーだ。だが、駒子が想像していたのとは違って、単に商品を買付するだけでは終わらないようだった。話していると、商品企画や広告も彼の仕事の範囲内で、土日関係なく日本中、必要があれば海外にも出張していく。恋人らしく二人で週末を過ごせるのはとても貴重なことだ。
 久しぶりに荒木を部屋に迎え入れ、離れていた時間を埋めるための甘い時間を楽しもうとしていたこま子は、急に思えるそのプロポーズに、戸惑いを隠せなかった。
「待って。恋人と夫婦は違う。この歳で結婚なんて」
「おかしい?」
 眉をひそめた荒木に、こま子は舌で唇を湿しながら慎重に言った。
「荒木は東京に住んでいるから気にしないだろうけど」
「習平って呼んで。いつも、言ぅてるやん」
と目を怒らせなじってくる荒木に、(あぁ、ほんとに私のこと好きなんだ、この人)と目の奥が熱くなる。
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