9 / 9
9
しおりを挟む
荒木がこま子を中心にぐるりと歩く。観察する視線。新しい珍獣が来たとでも思っているのだろうか。この一年間、荒木に会うか会うまいか悶々と過ごしてきた自分がまるで馬鹿みたいに思えて腹が立ってきた。
「はぁ……見たところ若くはないようで……」
荒木の標準語に悲しくなってくる。
「そうでしょうとも」
——もう、四十三なんだから。
「や、やる気はあるんですか」
——そうじゃなかったら、誰が仕事辞めて、マンションも売って、のこのこくると思ってんのよ!
いっそ、荒木の顔を引っ叩いてやりたかったけれど、何しろ彼とは〈初対面〉なのだ、と我慢する。かわりに、
「ここに骨を埋める決心ですから」
と返す。
以前の荒木なら、ここで機嫌よく笑ってくれただろう。でも、今の彼は、目を見開いてこま子を見ただけで何も言ってはこなかった。
——あんたはね、覚えてないだろうけど、ずぅーっと……二十年以上私に首っ丈だったのよ。今にそれを思い知らせてやるんだから。
野菜を育てる、生命を膨らませるための、肥えた土地の上に立っているからだろうか。こま子の心にふつふつと闘争心めいた感情が湧いてきていた。
〈了〉
「はぁ……見たところ若くはないようで……」
荒木の標準語に悲しくなってくる。
「そうでしょうとも」
——もう、四十三なんだから。
「や、やる気はあるんですか」
——そうじゃなかったら、誰が仕事辞めて、マンションも売って、のこのこくると思ってんのよ!
いっそ、荒木の顔を引っ叩いてやりたかったけれど、何しろ彼とは〈初対面〉なのだ、と我慢する。かわりに、
「ここに骨を埋める決心ですから」
と返す。
以前の荒木なら、ここで機嫌よく笑ってくれただろう。でも、今の彼は、目を見開いてこま子を見ただけで何も言ってはこなかった。
——あんたはね、覚えてないだろうけど、ずぅーっと……二十年以上私に首っ丈だったのよ。今にそれを思い知らせてやるんだから。
野菜を育てる、生命を膨らませるための、肥えた土地の上に立っているからだろうか。こま子の心にふつふつと闘争心めいた感情が湧いてきていた。
〈了〉
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる