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新堂洸夜の誕生会
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オレがあげた声に冬木が戻ってくる。
冬木の顔にはもう、さっきのちょっと悲壮なくらいな真剣さはなくなっていたので、オレもなんでもないふうで声をかけることができた。
「冬木、次の水曜日なんだけど……」
「え、もちろん空けてますよ。だってクリスマスイブでしかも洸夜の誕生日……」
「実家に行くことになった」
かぶせるように言う。つい緩みそうになった口元に力を入れて平静を装った。だって(誕生日を一緒に過ごしたいと思うくらいにはまだ好きでいてくれるのか)って、素直に嬉しくて、さ。
我ながら単純で恥ずかしい。
こんなふうに嬉しくなる相手は冬木だけなんだよ、ホントに。
「家族水入らずってことですか。それなら俺はゼミの飲み会に参加しようかな……誘われてたし」
背中を丸めた冬木がテーブルの箸置きを回収して行こうとする。
(おいおいおい!)とオレは慌てた。
実はその話(ゼミの飲み会)なら、大学の後輩からこっそり聞いていた。冬木狙いの女子達がてぐすね引いて待ち構えているやつだ。だいたい、なんでイブに合コンするんだよ。お持ち帰りする気満々じゃないか。
オレの横をすり抜けようとしていたヤツのシャツの裾をはっしと掴む。
「バカ、最後まで聞けって。お前も一緒に行くんだよ」
わ、と驚いた声を出した冬木がオレの胸の中に倒れ込んでくる。
男二人分の体重を受け止めてオレの座っている椅子がきしりとちょっと心配になるような音を出したが、まぁ、大丈夫だった。
「俺も、ですか」
大きな背中に自分の体を張り付ける。黒髪の後頭部、ざらざらした生え際とうなじの匂いをすんすん嗅いでしまったことは内緒だ。
後ろからだから、多分気づかれてないよな、多分。
冬木とは長い付き合いで、なんならオレは冬木の実家に何度も遊びに行ったことがあるけれど、その反対は今までなかった。うちの両親は忙しすぎるので冬木と会う機会がなかったのはともかくとして、ウチを見せて冬木に妙な遠慮をして欲しくなかった。言っておくけど、オレは冬木ん家の大股で三歩歩けば反対側の壁につく広さとか、夕飯にお呼ばれした時一週間前と献立が同じだったとか、そんな近しい距離感とおおらかさがすごく好きだ。ウチみたいにだだっ広くていつも知らない人間が出入りしているのとは全然違うから。
まぁ、とにかくそういうことでオレの両親に直接冬木を紹介する機会がこれまでなかったのだ。
(ちょうどいい)とオレは思った。
以前から付き合っている人間がいる、同居しているとは伝えてある。大切な生涯一緒にいたい人だ、とも。それが同性だということも。
今回の招待状はオレがそこまで入れ込んでいる同棲相手を見聞したいってことなんじゃないか。
そして親に会わせることで冬木の外堀を埋められる。退路を経ってコイツのパートナーの座はオレしかいないとアイツと自分の家族に知らしめたい。
そこまで考えて我ながら(イッてるな……)と苦笑いせざるを得ない。
冬木の意思に反してまで、それって……どうなんだ? と。
急に至近距離で目を丸くする恋人(別れようって言われてないからまだ恋人のはずだ。同居だって継続中だし)にムラムラしたオレは、恥ずかしながらウマヅラハギみたいに唇を突き出した。
何って……キスのおねだりだよ。
最近距離を感じて寂しかったし残業続きでシてなかったから。(呆れられるかも……)と少し怖かったけど、オレはコイツが欲しかった。
結果、冬木はオレの誘惑にのってこなかった。
「あ、水が出しっぱなしだ」
と言うなりキッチンへ小走りで行かれたオレの虚しさといったら……。
オレはあぜんとその背中を眺め……、抱きつく形のに上げていた両腕を下ろした。
冬木の顔にはもう、さっきのちょっと悲壮なくらいな真剣さはなくなっていたので、オレもなんでもないふうで声をかけることができた。
「冬木、次の水曜日なんだけど……」
「え、もちろん空けてますよ。だってクリスマスイブでしかも洸夜の誕生日……」
「実家に行くことになった」
かぶせるように言う。つい緩みそうになった口元に力を入れて平静を装った。だって(誕生日を一緒に過ごしたいと思うくらいにはまだ好きでいてくれるのか)って、素直に嬉しくて、さ。
我ながら単純で恥ずかしい。
こんなふうに嬉しくなる相手は冬木だけなんだよ、ホントに。
「家族水入らずってことですか。それなら俺はゼミの飲み会に参加しようかな……誘われてたし」
背中を丸めた冬木がテーブルの箸置きを回収して行こうとする。
(おいおいおい!)とオレは慌てた。
実はその話(ゼミの飲み会)なら、大学の後輩からこっそり聞いていた。冬木狙いの女子達がてぐすね引いて待ち構えているやつだ。だいたい、なんでイブに合コンするんだよ。お持ち帰りする気満々じゃないか。
オレの横をすり抜けようとしていたヤツのシャツの裾をはっしと掴む。
「バカ、最後まで聞けって。お前も一緒に行くんだよ」
わ、と驚いた声を出した冬木がオレの胸の中に倒れ込んでくる。
男二人分の体重を受け止めてオレの座っている椅子がきしりとちょっと心配になるような音を出したが、まぁ、大丈夫だった。
「俺も、ですか」
大きな背中に自分の体を張り付ける。黒髪の後頭部、ざらざらした生え際とうなじの匂いをすんすん嗅いでしまったことは内緒だ。
後ろからだから、多分気づかれてないよな、多分。
冬木とは長い付き合いで、なんならオレは冬木の実家に何度も遊びに行ったことがあるけれど、その反対は今までなかった。うちの両親は忙しすぎるので冬木と会う機会がなかったのはともかくとして、ウチを見せて冬木に妙な遠慮をして欲しくなかった。言っておくけど、オレは冬木ん家の大股で三歩歩けば反対側の壁につく広さとか、夕飯にお呼ばれした時一週間前と献立が同じだったとか、そんな近しい距離感とおおらかさがすごく好きだ。ウチみたいにだだっ広くていつも知らない人間が出入りしているのとは全然違うから。
まぁ、とにかくそういうことでオレの両親に直接冬木を紹介する機会がこれまでなかったのだ。
(ちょうどいい)とオレは思った。
以前から付き合っている人間がいる、同居しているとは伝えてある。大切な生涯一緒にいたい人だ、とも。それが同性だということも。
今回の招待状はオレがそこまで入れ込んでいる同棲相手を見聞したいってことなんじゃないか。
そして親に会わせることで冬木の外堀を埋められる。退路を経ってコイツのパートナーの座はオレしかいないとアイツと自分の家族に知らしめたい。
そこまで考えて我ながら(イッてるな……)と苦笑いせざるを得ない。
冬木の意思に反してまで、それって……どうなんだ? と。
急に至近距離で目を丸くする恋人(別れようって言われてないからまだ恋人のはずだ。同居だって継続中だし)にムラムラしたオレは、恥ずかしながらウマヅラハギみたいに唇を突き出した。
何って……キスのおねだりだよ。
最近距離を感じて寂しかったし残業続きでシてなかったから。(呆れられるかも……)と少し怖かったけど、オレはコイツが欲しかった。
結果、冬木はオレの誘惑にのってこなかった。
「あ、水が出しっぱなしだ」
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