歳上同居人のさよなら

たみやえる

文字の大きさ
5 / 27
新堂洸夜の誕生会

しおりを挟む
 オレがあげた声に冬木が戻ってくる。


 冬木の顔にはもう、さっきのちょっと悲壮なくらいな真剣さはなくなっていたので、オレもなんでもないふうで声をかけることができた。


「冬木、次の水曜日なんだけど……」


「え、もちろん空けてますよ。だってクリスマスイブでしかも洸夜の誕生日……」


「実家に行くことになった」


 かぶせるように言う。つい緩みそうになった口元に力を入れて平静を装った。だって(誕生日を一緒に過ごしたいと思うくらいにはまだ好きでいてくれるのか)って、素直に嬉しくて、さ。


 我ながら単純で恥ずかしい。
 こんなふうに嬉しくなる相手は冬木だけなんだよ、ホントに。


「家族水入らずってことですか。それなら俺はゼミの飲み会に参加しようかな……誘われてたし」


 背中を丸めた冬木がテーブルの箸置きを回収して行こうとする。

(おいおいおい!)とオレは慌てた。

 実はその話(ゼミの飲み会)なら、大学の後輩からこっそり聞いていた。冬木狙いの女子達がてぐすね引いて待ち構えているやつだ。だいたい、なんでイブに合コンするんだよ。お持ち帰りする気満々じゃないか。

 オレの横をすり抜けようとしていたヤツのシャツの裾をはっしと掴む。


「バカ、最後まで聞けって。お前も一緒に行くんだよ」

 わ、と驚いた声を出した冬木がオレの胸の中に倒れ込んでくる。
 男二人分の体重を受け止めてオレの座っている椅子がきしりとちょっと心配になるような音を出したが、まぁ、大丈夫だった。


「俺も、ですか」


 大きな背中に自分の体を張り付ける。黒髪の後頭部、ざらざらした生え際とうなじの匂いをすんすん嗅いでしまったことは内緒だ。

 後ろからだから、多分気づかれてないよな、多分。


 冬木とは長い付き合いで、なんならオレは冬木の実家に何度も遊びに行ったことがあるけれど、その反対は今までなかった。うちの両親は忙しすぎるので冬木と会う機会がなかったのはともかくとして、ウチを見せて冬木に妙な遠慮をして欲しくなかった。言っておくけど、オレは冬木ん家の大股で三歩歩けば反対側の壁につく広さとか、夕飯にお呼ばれした時一週間前と献立が同じだったとか、そんな近しい距離感とおおらかさがすごく好きだ。ウチみたいにだだっ広くていつも知らない人間が出入りしているのとは全然違うから。


 まぁ、とにかくそういうことでオレの両親に直接冬木を紹介する機会がこれまでなかったのだ。


 (ちょうどいい)とオレは思った。


 以前から付き合っている人間がいる、同居しているとは伝えてある。大切な生涯一緒にいたい人だ、とも。それが同性だということも。

 今回の招待状はオレがそこまで入れ込んでいる同棲相手を見聞したいってことなんじゃないか。

 そして親に会わせることで冬木の外堀を埋められる。退路を経ってコイツのパートナーの座はオレしかいないとアイツと自分の家族に知らしめたい。


 そこまで考えて我ながら(イッてるな……)と苦笑いせざるを得ない。

 冬木の意思に反してまで、それって……どうなんだ? と。


急に至近距離で目を丸くする恋人(別れようって言われてないからまだ恋人のはずだ。同居だって継続中だし)にムラムラしたオレは、恥ずかしながらウマヅラハギみたいに唇を突き出した。


 何って……キスのおねだりだよ。


 最近距離を感じて寂しかったし残業続きでシてなかったから。(呆れられるかも……)と少し怖かったけど、オレはコイツが欲しかった。


 結果、冬木はオレの誘惑にのってこなかった。



「あ、水が出しっぱなしだ」

と言うなりキッチンへ小走りで行かれたオレの虚しさといったら……。



 オレはあぜんとその背中を眺め……、抱きつく形のに上げていた両腕を下ろした。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...