歳上同居人のさよなら

たみやえる

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新堂洸夜の誕生会

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「お前の野心的なパートナーに言い聞かせてくれないか。社会人でもないくせにうちの会社のトップを取るつもりとわざわざ親父たちに言いにくるのは身の程知らずだと」



 黙ってしまったオレを焦れったそうに兄が睨みつけてくる。



「そもそも次に社長になるのはオレだ。お前の恋人じゃあない。洸夜……お前、俺の脚について聞いたな」


 顎を引いて頷くと、兄は「父さん達には怪我をしたせいと言っているんだが」と前置きした。

「これは病気だ。手足の自由がだんだん効かなくなっている……いずれ呼吸すらままならなくなればオレは死ぬだろう」



「兄さん、それって」



 頭に浮かんだ病名を慌てて打ち消す。

 まさか、いやそんな。



「オレの将来、死しかないと思うと猛烈に社長になりたくなってな……。俺が道を作ってやる。その後社長になるのは洸夜、お前だ。男なんてよせ。新堂の血を受け継ぐ子を生んでくれる女と結婚しろ。新堂の家を盛り立てられるのはお前だけだ」


 そう言った兄は少し遠くを見るような目つきになった。


「……そんな女性のアテがあるみたいな口ぶりだ」

と、オレが言うと兄は真顔になって、

「あぁ、そうだ。オレはお前にある女の人生を託したい」

と言った。



「そんなこと引き受けないよ、オレは。大体拒絶されるって分かっていて……そんなこと、言うな」


 ギリッと唇を噛んでオレは兄を睨む。


 無表情の兄がオレを見返した。



「お前は新堂の人間だ。最後は新堂の家のことを考えないわけにいかないだろう、恋人よりも」




「洸夜にそんな二者択一はさせません」

突然割って入ってきた声にオレは思わず立ち上がる。

リビングの入り口に冬木が立っていた。








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