歳上同居人のさよなら

たみやえる

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新堂洸夜の誕生会

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「お兄さん、家族でもっと話さなきゃダメです。お父さん、お母さんと……それから、彼女と」



 冬木が兄に近寄り、ポケットから一枚のハンカチを取り出す。



 怪訝な顔でそれを見た兄がサッと顔色を変え信じられないものを見る目つきで冬木の顔を凝視し、叫び声をあげてそのハンカチをひったくった。



 そしてそのハンカチを鼻に押し当て(兄の手はみっともないくらいに震えていた)、

「なんでお前がこれを持っている」

と叫んだ。





 その時、母が一人の女性を伴って部屋に入ってきた。その後ろから父が。


 女性は青白い唇を振るわせ、兄のことを睨んでいる。


 彼女が一歩近づくたびに兄はうなだれ、逃げるように顔を背けた。

 オレの前を彼女が通った時覚えのある香りがした。一週間前、帰宅した冬木がまとわり付かせていた香水の匂いだ。


 オレがそれに気づくのと、パチンと音がしたのはほぼ同時だった。


 女性が兄の頬を張ったのだ。


「あなたは、私をバカにしているんですか」

「君の将来を守るためだ」

「わたしの未来は私のものです。勝手に貴方が決めるものじゃないわ……私の気持ちを、何だと思っているの!」





「ご両親と外に出たら、彼女がいたんです。ずいぶん立っていたみたいですよ。お兄さんに会いたくて。可哀想なくらい震えながら」

と言った冬木にうちの兄が、

「俺は君の兄ではない。家族ヅラするな」

と言う。うなり声に近い低音は、部長として社員の肝を寒からしめてきた必殺の技なのだろう。だか、冬木の表情は微動だにしない。


(こいつの肝の太さは小学生の頃から変わっていないな……)とつい口元が緩んでしまう。
 石橋を叩いて叩いて、叩いてたたきこわすくらい臆病者なオレの嘘で冬木を傷つけた幼い頃の記憶がよみがえった。
 思えば小学生だったあの頃……すでにオレは冬木に陥落していた。


「すみません……じゃあ、浩暉こうきさん」


 冬木は悪びれずに兄の下の名前を呼んだ。

 兄がギロリと冬木を見る。

 視線と視線がぶつかり合う。


 だが兄は、母に肩を抱かれて立つ彼女に目を向けると、いからせていた肩をがくりと落とし、

「……お兄さんでいい」

と言った。



 冬木の口角がゆるく持ち上がる。
 短いやり取りで二人の間でなんらかの勝敗が決したらしいことはわかったのだが、それがなんについての勝ち負けなのか、オレはさっぱり分からなかった。
 様子を見ていた母がカラカラと笑った。父が片手をあげると様子を見ていたお手伝いさんが、いそいそと近づいて女性のコートやバッグを受け取った。



 兄が盛大に舌打ちし、女性の手を取る。


「まだ君とのことを受け入れたわけじゃない」

 苦々しく言う兄に、

「往生際が悪いわよ」

と、母。兄は多分反論しようとしたのだろう……口を半開きにして……また閉じた。






 母は機嫌が良いし、父はいつも通りの泰然自若な雰囲気で余計な質問をするのはためらわれた。兄はすっかり不貞腐れ……でも玄関で会った時のわざとらしい、見せかけだけの機嫌の良さはなくなっていた。






 こうして、オレの二十三歳と言う中途半端な年に行われた誕生会はお開きになった。


 なぜならこの後彼女を交えて急遽家族会議をすることになったからだ。







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