歳上同居人のさよなら

たみやえる

文字の大きさ
25 / 27
西條冬木

[8] イブ当日

しおりを挟む


 イブの日……つまり洸夜の誕生日はすぐにきた。


 今日は洸夜の実家で彼の誕生パーティーを開いてくれるのだそうだ。そしてそれに俺も呼ばれている。


 洸夜のご両親は俺とのことを許してくれているけれど、こうやって呼ぶことで俺を値踏みしようとしているんじゃないかと勘繰ってしまう。


 不安でしかなかった俺は数日前洸夜の友人の高藤さんに頼んで、ひと通りのテーブルマナーを教えてもらっていた。手土産はどうしようとか、おめかししなくちゃいけないだろうかと考え出すとキリがない。結局、まだ学生なんだし気を使いすぎないことにしようと、洸夜とのデート仕様の私服に袖を通す。


 新堂家に来るのは初めてで、あまりの豪邸っぷりに正直めまいを覚える。出迎えてくれた浩暉さんに俺は光森さんの涙を思い出した。


 食事の後、ご両親に誘われて出た夜の散歩……、お父さん自慢の庭園を見ていた時、ガサリと物音がしてそちらを見ると信じられないことに光森さんが立っていた。


 俺は思わず彼女に駆け寄った。
 どこをどうかいくぐってこの家の敷地内に潜り込んだものか、庭の外灯に照らされている彼女は擦り傷だらけだった。クリスマスだからだろうか……こうなる前は綺麗だったろうと想像できる髪やコート、その下のワンピースにも枯れ葉や木の枝のかけらをくっつけている。

「どうしたんですか。というかなぜここに?」

と言っていると、俺に追いついた洸夜お父さん……浩太さんが彼女に、

「君は誰だ」

と、聞いた。浩太さんの後ろからお母さん……美月さんも駆け寄ってくる。

「私、新堂部長の下で働いております、光森四つ葉と言います。今日はどうしても、このハンカチを……部長にお返ししたくて」

 差し出された手に握られているのは、光森さんが俺を訪ねて大学に来てくれた時持っていたハンカチだった。

「なんとかここまで来ましたけど……直接お返しする勇気が出なくて。西條さん、お願いします」

と、俺にハンカチを握らせてくる。サッと踵を返して走り出そうとする背中に寂しさが滲み出ていた。(このまま光森さんを帰していいのか……)と迷った時、

「待ちなさい。せっかくきたんだから少し上がっていくといい」

浩太さんが彼女に声をかけた。





 その後……。

 家に戻るとリビングで(本当に広いんだ)洸夜と浩輝さんが話し込んでいた。

 あんなに広い部屋なのに二人の話が聞こえたのは、部屋に洸夜とお兄さんの二人きりで他に物音がなかったからだろうか……。

 廊下にいた俺たちは、その会話の深刻さに驚いて足を止めた。俺は後ろを振り返った。


 家に入る前、美月さんの手を借りて一応の身だしなみを整えた(くっついていた葉っぱをとり、髪を整えた程度だが)光森さんの顔色は蒼白だった。その背後にはお父さんとお母さんがやはり硬い表情で立っている。



ーーこれは病気だ。手足の自由がだんだん効かなくなっている……いずれ呼吸すらままならなくなればオレは死ぬだろう。


 先週、光森さんは新堂部長……つまり洸夜の兄である浩輝さんが彼女に別れを告げた理由を教えてほしいと俺を訪ねてきた。藁にもすがる思いで……。でも俺は聖さんとは初対面で、彼女の欲しい答えは持っていなかった。


 そして今日、この家に忍び込んできた彼女……。

 
 多分これが彼女の疑問の答えだ……。



ーーあぁ、そうだ。オレはお前にある女の人生を託したい。



〈ある女〉……きっとそれは、光森さんのこと……。



 キリキリっと、光森さんの唇が引き結ばれ.目が見開かれた。



「ゆっ、許せません……」



 そう言って飛び出そうとする光森さんを引き止める。


「どうして」


と、彼女が眉をひそめて俺を見上げる。(今日は泣かないんだな)



「俺だって許せません。俺の洸夜を目の前から掻っ攫うようなこと、させるわけにはいかない。悪いが、先に文句を言わせてください。あなたの番を奪うわけではないから」


そうして頷きあい、俺はリビングの中に足を踏み入れた……。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

出戻り王子が幸せになるまで

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
初恋の相手と政略結婚した主人公セフィラだが、相手には愛人ながら本命がいたことを知る。追及した結果、離縁されることになり、母国に出戻ることに。けれど、バツイチになったせいか父王に厄介払いされ、後宮から追い出されてしまう。王都の下町で暮らし始めるが、ふと訪れた先の母校で幼馴染であるフレンシスと再会。事情を話すと、突然求婚される。 一途な幼馴染×強がり出戻り王子のお話です。 ※他サイトにも掲載しております。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

処理中です...