総務部人事課慰労係

たみやえる

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 さっきから、ちょっ、ちょっ、と聞こえているのは、デスクに両肘ついて自分の顔を支えている私が舌打ちしてるから。

(フン。なんかさ、先輩と課長ばっかりずるくない?)

 まず、課長と先輩の二人ばっかりレンについての情報を手に入れてたことが面白くない。おかげで私は午前中ずっとぶーたれていた。私にはそういうこと調べる方法も伝手もナーンにもないのに。「リーダーどうする?」なんて言われてもさぁ! 案もなければ策もない。気づけば昼時になっていた。今日はお弁当作ってこなかった。仕方ない。私は社食に行くことにした。
 
 

(A定食、今日は鯖の煮付けか。B定食は豚の生姜焼き……)

 食堂に入ってすぐ、積み重ねられた焦茶のトレイをとって列に並んだ。ステンレスのカウンターの向こうには割烹着を着たおばちゃんが注文を受けている。私に順番が回ってくるまであと三人。魚にするべきか肉にするべきか。
 いつの間にか私、唸っていたみたい。

「伊豆川ちゃん、ウンウン言ってどうしたの?」

って、突然後ろから声をかけられた。振り返ると、

「久しぶり。研修旅行以来ね」

と相手が軽く私に手を振ってきた。

「あー……、丸山さん?」

 記憶を辿ってしぼりだした私の返事が、疑問形の、尻上がりな発音になってしまったは許して欲しい。ほぼ八ヶ月ぶりの再会だったんだもの。慰労係に配属が決まってからは、例の誓約書(課の業務内容は他言無用、秘密厳守ってやつ)を遵守すべく同期とはあまり関わらないようにしていた。はじめのうちは同期から飲みの誘いを受けることもあったけれど……。酔った勢いでうっかり何か言っちゃうんじゃないかって不安で(実際は大した仕事してなかったけどさ)、あと……ふところも寂しかったし……何度か断っているうちにすっかり声がかからなくなった。ぐすん。だって絶対そういう話題になるでしょ。仕事内容についての愚痴とか、面倒くさい指示ばかりする上司の悪口とか。

「ね、一緒に食べよ? いろいろ話したいし」

「う、うん。ありがと」

 ぎこちなく返事をしていると、カウンターの向こうのおばちゃんが(で? 何食べんの? アンタ)と視線で催促してきた……。



 空いたテーブルを見つけて座るなり、丸山さんは、

「……上司がさ、朝からネチネチすっごく嫌な感じなんだよねー」

と、声を潜めて言ってきた。

 私に声をかけたのは愚痴る相手が欲しかったからか。へぇ、と相槌を打つと「そうなの!」と丸山さんが前のめりに顔を近づけてくる。

「作成した書類の保管の仕方がなってないとか、社内報に載った誰それの写真の顔の向きがよくないとか。どーでもいいことばっかり」

 相当不満が溜まっているみたい……。

 勢いに飲まれた私が咄嗟に返す言葉を見つけられずに、とりあえずご飯を食べようと茶碗を手に取ると、

「伊豆川ちゃんの方は、どお?」

って、また丸山さんが聞いてきた。どおって言われてもなぁ……。

 うーん。

 いざ愚痴るとなると、何を愚痴ればいいのか全然思い浮かばない。

 課長は優しいし、氷雨先輩は意地悪だけど、別に嫌いな訳じゃないし。

 仕事内容についての愚痴は言うわけにいかないしさ。

 結局、

「んー。そもそも、私この会社に合っているのかな? いて良いのかな? ってね……」

と、入社以来ずぅっと胸の中に抱えていた弱音を吐いてみた。


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