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「犯人は十中八九、北条工業内の人間でしょう。固く閉めた鍵も内側からなら開けるのは容易い。研究棟の鍵を手に入れることのできる人間なら……。私が犯人なら疑われないよう素知らぬふりで出社する」
「……っ」
やっぱり、って落胆でうちのめられそう。
——社長である氷雨先輩が守ろうとしている社員たち。その中に裏切り者がいるなんて、考えたくなかったのに……。
うなだれた私の肩に煤影さんの手が。慰めるようにポンポンってされた。
「ニケメティの社長、マイケル氏は豪華客船を貸し切ってクルーズの最中なのですが、今日この港に寄港するという情報を得ました」
「は、……凄っ」
もはや金持ちのスケールが凄すぎて訳がわからない。クルーズ船を貸し切り!? って、いくらかかるんだろ……と余計な心配をしてしまう。
「各界の著名人を招待してパーティを行うとか。単なる顔繋ぎで行うのではなくマイケル氏の誕生祝いだそうです。盛大にやるのでしょう」
……はぁー。へぇー。ほぅー。
「きっと船の上で、データを渡す気です。元データを取られたら、抗議しようにも、こちら側の説得力が弱まる。訴えを起こしたとしても勝つことは難しい」
と、そこまで厳しい顔で話した煤影サンだったけど、フッと表情を和らげて、
「それでは準備にかかりましょう。伊豆川さん、覚悟はいいですね?」
って、聞いてきたんだ!
「え? え?」
話の先が読めないんですけど!? 鯉みたいに口をパクつかせる私の頬を煤影さんの両手が挟む。そのまま顔を上向かされ……。
(キャー、キャー、キャー!)
瞳を覗き込んでくる彼の視線の勁さったら! 首を横になんか振れるもんじゃない。
「大丈夫です。ひとりにはしません」
って、お互いの鼻が触れ合いそうな至近距離。変に意識してしまいそうな緊張感。そんなの私に耐えられるはずもなく……ただただ、頷いてしまったんだ。
夜になった。船上から対岸を見る。屋台の灯りがずらりと並んでいるおかげで花火を見物している人たちがよく見えた。風に乗って流れてくるどよめきと歓声。火薬と煙の匂い。いいなぁ。私も浴衣に下駄であっちが良かった。
未練がましく対岸を見たい衝動を抑えて、煤影サンの差し出した腕に自分の腕を絡めた。なんだよ、船上パーティなら花火が見られたのに……。招待客をチェックしているのか船内へ向かう通路の入り口にはガタイのいいお兄いさんが立っていた。招待客らしく見えるように精一杯余裕のあるふりで微笑んでおく。
じろっと見てくるからめっちゃ緊張したけど、あっさり通してくれた。
うわ、拍子抜け……パーティだから警備が緩いの? なんてわざと心の中で軽口叩いてみる。
だって、心臓が飛び出てるかと思うくらいドキドキしてる。
ここから先はもう引き返せない。
まるで海からビルが生えているかのような白い船体の中はまるでホテル。ダンスホールの中心ではダンサーたちがクルクルと情熱的にルンバを披露している。赤い照明の中ダンサーのスパンコールがギラギラと幻惑するように妖しく煌めいてあまりにオトナな雰囲気で、私はひっくり返りそうになるのを懸命にこらえた。
何もかも綺麗で豪華で、素敵。でも……。
私たちは周りにいる人たちの顔をチラチラ見ながらマイケル社長の姿を探してホールの奥へと移動していく。
時折、シャンパングラスをたくさん乗せたお盆片手に回遊するボーイや、他の招待客がチラッと視線が合う。その視線に意味はない、単に彼らが目線を動かした先に私がいただけ。わかってる。でも、それでもその度、私のか弱い心臓は生まれたての子鹿並みに震えるんだ。
「あの……私、変じゃありません?」
実はさっきから何度も同じ質問してその都度煤影サンに「綺麗ですよ」って言わせてる……だって、落ち着かないんだもん。
周りを見回せばテレビや映画で見たことがある芸能人やモデルやらがシャンパングラス片手にそこら中にいて私以外、みんなこのオトナな空間に馴染んで見えた。
私、浮いてない? いや、浮いてるよねっ!?
言われるままドレスに着替えて、いつの間にか手配してくれてたメイクさんに施してもらった化粧のおかげで私史上最高にきれいにしてもらって、鏡を見たときは感動しちゃったけどさ。
煤影サンが用意してくれたこのドレス、体に張り付いてストンと落ちるデザインで私の貧相な体のラインがモロわかり。そのうえ背中はこれでもかってパックリ割れていてかなり際どい。
これじゃ、私みたいな一般人が有名人やモデルの人たちと張り合おうとしてるって思われそう+場違いな場所に迷い込んじゃった感、増し増しだもん。どれだけ綺麗にしてもらっても私はただの一般人。やっぱり恥ずかしい。どこかに穴があれば、今すぐ飛び込みたい。
そんな私の気も知らず、
「データを盗んだ犯人を見つけて元データを回収しましょう」
と、煤影さんのささやき。
「……っ」
やっぱり、って落胆でうちのめられそう。
——社長である氷雨先輩が守ろうとしている社員たち。その中に裏切り者がいるなんて、考えたくなかったのに……。
うなだれた私の肩に煤影さんの手が。慰めるようにポンポンってされた。
「ニケメティの社長、マイケル氏は豪華客船を貸し切ってクルーズの最中なのですが、今日この港に寄港するという情報を得ました」
「は、……凄っ」
もはや金持ちのスケールが凄すぎて訳がわからない。クルーズ船を貸し切り!? って、いくらかかるんだろ……と余計な心配をしてしまう。
「各界の著名人を招待してパーティを行うとか。単なる顔繋ぎで行うのではなくマイケル氏の誕生祝いだそうです。盛大にやるのでしょう」
……はぁー。へぇー。ほぅー。
「きっと船の上で、データを渡す気です。元データを取られたら、抗議しようにも、こちら側の説得力が弱まる。訴えを起こしたとしても勝つことは難しい」
と、そこまで厳しい顔で話した煤影サンだったけど、フッと表情を和らげて、
「それでは準備にかかりましょう。伊豆川さん、覚悟はいいですね?」
って、聞いてきたんだ!
「え? え?」
話の先が読めないんですけど!? 鯉みたいに口をパクつかせる私の頬を煤影さんの両手が挟む。そのまま顔を上向かされ……。
(キャー、キャー、キャー!)
瞳を覗き込んでくる彼の視線の勁さったら! 首を横になんか振れるもんじゃない。
「大丈夫です。ひとりにはしません」
って、お互いの鼻が触れ合いそうな至近距離。変に意識してしまいそうな緊張感。そんなの私に耐えられるはずもなく……ただただ、頷いてしまったんだ。
夜になった。船上から対岸を見る。屋台の灯りがずらりと並んでいるおかげで花火を見物している人たちがよく見えた。風に乗って流れてくるどよめきと歓声。火薬と煙の匂い。いいなぁ。私も浴衣に下駄であっちが良かった。
未練がましく対岸を見たい衝動を抑えて、煤影サンの差し出した腕に自分の腕を絡めた。なんだよ、船上パーティなら花火が見られたのに……。招待客をチェックしているのか船内へ向かう通路の入り口にはガタイのいいお兄いさんが立っていた。招待客らしく見えるように精一杯余裕のあるふりで微笑んでおく。
じろっと見てくるからめっちゃ緊張したけど、あっさり通してくれた。
うわ、拍子抜け……パーティだから警備が緩いの? なんてわざと心の中で軽口叩いてみる。
だって、心臓が飛び出てるかと思うくらいドキドキしてる。
ここから先はもう引き返せない。
まるで海からビルが生えているかのような白い船体の中はまるでホテル。ダンスホールの中心ではダンサーたちがクルクルと情熱的にルンバを披露している。赤い照明の中ダンサーのスパンコールがギラギラと幻惑するように妖しく煌めいてあまりにオトナな雰囲気で、私はひっくり返りそうになるのを懸命にこらえた。
何もかも綺麗で豪華で、素敵。でも……。
私たちは周りにいる人たちの顔をチラチラ見ながらマイケル社長の姿を探してホールの奥へと移動していく。
時折、シャンパングラスをたくさん乗せたお盆片手に回遊するボーイや、他の招待客がチラッと視線が合う。その視線に意味はない、単に彼らが目線を動かした先に私がいただけ。わかってる。でも、それでもその度、私のか弱い心臓は生まれたての子鹿並みに震えるんだ。
「あの……私、変じゃありません?」
実はさっきから何度も同じ質問してその都度煤影サンに「綺麗ですよ」って言わせてる……だって、落ち着かないんだもん。
周りを見回せばテレビや映画で見たことがある芸能人やモデルやらがシャンパングラス片手にそこら中にいて私以外、みんなこのオトナな空間に馴染んで見えた。
私、浮いてない? いや、浮いてるよねっ!?
言われるままドレスに着替えて、いつの間にか手配してくれてたメイクさんに施してもらった化粧のおかげで私史上最高にきれいにしてもらって、鏡を見たときは感動しちゃったけどさ。
煤影サンが用意してくれたこのドレス、体に張り付いてストンと落ちるデザインで私の貧相な体のラインがモロわかり。そのうえ背中はこれでもかってパックリ割れていてかなり際どい。
これじゃ、私みたいな一般人が有名人やモデルの人たちと張り合おうとしてるって思われそう+場違いな場所に迷い込んじゃった感、増し増しだもん。どれだけ綺麗にしてもらっても私はただの一般人。やっぱり恥ずかしい。どこかに穴があれば、今すぐ飛び込みたい。
そんな私の気も知らず、
「データを盗んだ犯人を見つけて元データを回収しましょう」
と、煤影さんのささやき。
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