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「課長!」
息を吸い込んで鋭く呼びかけたら、毛ホッと咳き込んでしまった。先輩がこれからどうするのかをリードしているこの状況で私から声をかけられるなんて予想外だったのか、課長が、
「は? はぁい?」
と、魔の抜けた返事をする。
「手が塞がっているところ、大変申し訳ありませんが、この怪我人をよろしくお願いします」
ツン、と顔を背けて、肩に回っていた先輩の腕を外して壁に手をつかせてやる。先輩はあっけに取られているのかなんにも言わない。それを少し残念に思いながら先輩の腕を括って後ろに身を引いて踵を返す。
直後、獣か何か、うなり声のような咆哮。ギクッと振り返ったら、さっきまで立っていた床に亀裂が入るところだった。
そこにはまだ先輩が!
三歩引き返した私が手を伸ばすのと、先輩が飛び込んでくるのとが同時だった!
先輩の体重を支えきれない。私は先輩もろとも後ろに吹っ飛んだ。
床に叩きつけられて一瞬息が詰まった。
浅い呼吸を何度か試みると、ようやく息ができてホッとする。
「痛ぁ……」
ほら、声も出る。
良かったぁ。生きてるよ~(泣)。
飛びかかってくる先輩が目に入った瞬間とっさに顎を引いて衝撃に備えていなかったらまた失神してたかもしれない。結局、反動で床に後頭部を打ちつけたんだけど。うー、痛い。船の床よ? ご存知でしょうけど、めっちゃ硬いんだからね! 頭かち割れたかと思ったじゃん!
そして……今気づいたけど、私の体に覆い被さるように倒れている先輩が、重くて邪魔。起きあがりたいのに、起き上がれないっつーの!
「ちょっと、どいてくださいってば」
と言ってから、先輩の目が閉じられていることに気がついた。
焦った。だって死んじゃったかと思うじゃん。一瞬だけど。
パニクリかけてる自分に喝入れて(ふざけんな、起きてよ)と、先輩に頭突きをかましてみる。
すると先輩が薄目を開けた。頭を左右に振って顔をしかめる姿に、
——あぁっ! もう、心配させないでよね!
じわっ、と胸に広がる安堵から泣きそうになった。すると、
「氷雨くん! 伊豆川さん! 無事ですかっ」
と、課長の声が聞こえてきた。
首だけ持ち上げて声の方を見れば、心なし煙が薄まって床の割れ目とその向こうに心配顔で立つ課長の姿。
船って、なにで出来てるんだっけ? 鉄かな。それともあれだ、超合金? 亀裂の大きさはせいぜい五十センチと見た。でも、あの亀裂を怪我した先輩連れて飛び越えるなんて滅相もない。怖いもん。絶対無理!
……引き返すとか、選択肢に無いし。
レンには前にスーツ買ってもらった借りがあるからね。
「課長は、逃げて」
と声を張ると、立ち上がった私は、まだぼうっとしている先輩に肩を貸して煙に霞む通路を前に向かって歩き始めた。
……で。
ドアを見つけるたび片っ端から開けるんだけど、人っ子ひとり見つけられていない。
みんな逃げたって考えればそれは良いことだけど。でも私はレンの無事がはっきりわかるまで彼女がもしかして船内にまだいるんじゃないかって可能性が捨てられないでいる。
先輩にはナイショだけど、さっきから私、イライラしてる。
怪我人の先輩が歩く速度遅いのは仕方ないことなんだけどさ。
空気が熱い。きな臭い匂いがドレスと髪に染み付いてるだろうな。腕に顔を近づけてクンクンしても鼻がバカになっているのか自分ではよくわからない。
「熱っぅ」
手の甲で汗を拭った私をチラリと振り返った先輩が、
「俺、足手まといかな。ごめんね? イズっちゃん」
と言ってきた。まるで私の心を読んだみたいなタイミングに無言で首を横に振る。気まずいっていうか、後ろめたいったらない。
そもそも先輩は私と一緒に来るはずじゃなかった。逃げようって言われたのに従わなかった私が元凶だしなぁ。
始め私の肩を借りていた先輩だけど、今は壁に突っ張った腕で体を支えるように歩いている。
実はさっき、先輩に言われてナイフを抜いた。背中に刺さったままじゃ動きづらいからって。
うぅぅ……。
人の体から刃物を抜くなんて。頼まれても二度はやらない!
先に引きちぎっておいた先輩のシャツの袖部分を丸めたのを傷口に押し当て、袖以外の部分はつなげて包帯したのを胴に巻きつけた。
息を吸い込んで鋭く呼びかけたら、毛ホッと咳き込んでしまった。先輩がこれからどうするのかをリードしているこの状況で私から声をかけられるなんて予想外だったのか、課長が、
「は? はぁい?」
と、魔の抜けた返事をする。
「手が塞がっているところ、大変申し訳ありませんが、この怪我人をよろしくお願いします」
ツン、と顔を背けて、肩に回っていた先輩の腕を外して壁に手をつかせてやる。先輩はあっけに取られているのかなんにも言わない。それを少し残念に思いながら先輩の腕を括って後ろに身を引いて踵を返す。
直後、獣か何か、うなり声のような咆哮。ギクッと振り返ったら、さっきまで立っていた床に亀裂が入るところだった。
そこにはまだ先輩が!
三歩引き返した私が手を伸ばすのと、先輩が飛び込んでくるのとが同時だった!
先輩の体重を支えきれない。私は先輩もろとも後ろに吹っ飛んだ。
床に叩きつけられて一瞬息が詰まった。
浅い呼吸を何度か試みると、ようやく息ができてホッとする。
「痛ぁ……」
ほら、声も出る。
良かったぁ。生きてるよ~(泣)。
飛びかかってくる先輩が目に入った瞬間とっさに顎を引いて衝撃に備えていなかったらまた失神してたかもしれない。結局、反動で床に後頭部を打ちつけたんだけど。うー、痛い。船の床よ? ご存知でしょうけど、めっちゃ硬いんだからね! 頭かち割れたかと思ったじゃん!
そして……今気づいたけど、私の体に覆い被さるように倒れている先輩が、重くて邪魔。起きあがりたいのに、起き上がれないっつーの!
「ちょっと、どいてくださいってば」
と言ってから、先輩の目が閉じられていることに気がついた。
焦った。だって死んじゃったかと思うじゃん。一瞬だけど。
パニクリかけてる自分に喝入れて(ふざけんな、起きてよ)と、先輩に頭突きをかましてみる。
すると先輩が薄目を開けた。頭を左右に振って顔をしかめる姿に、
——あぁっ! もう、心配させないでよね!
じわっ、と胸に広がる安堵から泣きそうになった。すると、
「氷雨くん! 伊豆川さん! 無事ですかっ」
と、課長の声が聞こえてきた。
首だけ持ち上げて声の方を見れば、心なし煙が薄まって床の割れ目とその向こうに心配顔で立つ課長の姿。
船って、なにで出来てるんだっけ? 鉄かな。それともあれだ、超合金? 亀裂の大きさはせいぜい五十センチと見た。でも、あの亀裂を怪我した先輩連れて飛び越えるなんて滅相もない。怖いもん。絶対無理!
……引き返すとか、選択肢に無いし。
レンには前にスーツ買ってもらった借りがあるからね。
「課長は、逃げて」
と声を張ると、立ち上がった私は、まだぼうっとしている先輩に肩を貸して煙に霞む通路を前に向かって歩き始めた。
……で。
ドアを見つけるたび片っ端から開けるんだけど、人っ子ひとり見つけられていない。
みんな逃げたって考えればそれは良いことだけど。でも私はレンの無事がはっきりわかるまで彼女がもしかして船内にまだいるんじゃないかって可能性が捨てられないでいる。
先輩にはナイショだけど、さっきから私、イライラしてる。
怪我人の先輩が歩く速度遅いのは仕方ないことなんだけどさ。
空気が熱い。きな臭い匂いがドレスと髪に染み付いてるだろうな。腕に顔を近づけてクンクンしても鼻がバカになっているのか自分ではよくわからない。
「熱っぅ」
手の甲で汗を拭った私をチラリと振り返った先輩が、
「俺、足手まといかな。ごめんね? イズっちゃん」
と言ってきた。まるで私の心を読んだみたいなタイミングに無言で首を横に振る。気まずいっていうか、後ろめたいったらない。
そもそも先輩は私と一緒に来るはずじゃなかった。逃げようって言われたのに従わなかった私が元凶だしなぁ。
始め私の肩を借りていた先輩だけど、今は壁に突っ張った腕で体を支えるように歩いている。
実はさっき、先輩に言われてナイフを抜いた。背中に刺さったままじゃ動きづらいからって。
うぅぅ……。
人の体から刃物を抜くなんて。頼まれても二度はやらない!
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