総務部人事課慰労係

たみやえる

文字の大きさ
49 / 75

12-6

しおりを挟む
 きつく巻けばこれで止血になるからって。


 でもさ、先輩の後ろを歩く私は白い布地にじわりと滲んでいる赤に気が気じゃない。


 もぅ、勘弁してよぉ。


 イライラしたりハラハラさせられたり……。


 翻弄されてる感が、腹立つ。


……なーんてぐだぐだ考えて、返事しないでいたら、先輩が足を止めた。


「泣いてんの?」

と、見下ろされ、

「まさか」

意識して無表情で返した私の顔をじっと見た千パオは私に背を向けてまた歩き出す。


 何? 今の


 先輩の動作一つひとつを意識して反応してしまいそうになる自分が、自分でもよく話買わないんだ。


 ほんと、勘弁してほしい……。


「パーティでもっと食べておけば良かった」


「お腹すいちゃった?」


「あー……、はい」


「あはは、いいね。腹が減る=生きてる証だもんね。ここ出たら美味い飯奢るからさ」


「美味いだけじゃなくて高級なのでお願いします」


 そんな風に他愛なくだべりながら歩いていたら、フッ、って空気がなんか違う方向に揺れた気がして。


「……?」


 立ち止まった私に気づいた先輩が「どうした?」って聞いてくる。


「……何か、聞こえません?」

と会話する私たちの目の前に急に男の人が現れた。ピシッと決まった白い上下。傍目にも船員の、多分一番偉い人……例えば船長、とか? その人は私たちを見るなりすごい勢いでがなり立ててきた。


 早口すぎ! 何言ってるか聞き取れないし、訳わかんないし!


 まず先輩に話しかけ、相手にされないと見るや(推定)船長は私の腕を掴んできた。その剣幕に久しぶりに人に会えた喜びより恐怖を覚えてしまった。反射的に手を振り払うと、船長(あくまでも推定)は青い瞳に苛立たしさを湛え、ペット床に唾を吐くと私たちをその場に残して走って行ってしまった。その背中を振り返り見送ってから(あ! 出口聞けば良かった……)と気づいたけど、もう後の祭り。


「なんだったの、もぅ……」

と、腕をさする私に、

「船長だったね」

と言いながら(推定じゃなかったんだ……)、氷雨先輩は目の前の扉に手をかけた。途端に、

「あっつ!」

と声を上げ、サッとノブから離した手を上下に振り、握ったり開いたりして息をフーフー吹きかけている。そして懐から取り出したハンカチでドアノブを覆い、慎重な動作でもう一度ドアを押し開けた。


 ドアが開くと共に熱気が顔に吹き付けてくる。私は反射的に(あっ)と目を閉じた。とてもじゃないけど開けていられなかったんだ。その時感じた。ドアと私の体の間の空間に、ねじり込むように何かが走り抜けていったのを。
 一瞬、私の肌に触れた。ざわざわとした感じは……。


 うぉっ、と先輩。


「なんで船の中に百獣の王がいんのっ」


 先輩の言葉といえども、これは信じがたくない?


(うっそぉ!?)相変わらず熱いけど好奇心に負けて私は目を開ける。「怖えぇ……」と氷雨先輩が目を向けたその先に。


 レンが、倒れていた。


 いや、そこにいたのはレンだけじゃなくって……。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...