総務部人事課慰労係

たみやえる

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「じゃ、気をつけよっかなー」


 軽い。


 私はちょっと不安になった。


 社長がこんな軽いノリでいいのかしらん。


 会社の行く末を憂う私の目の端で、楢樫部長補佐は課長とゴニョゴニョ話してるけど、素知らぬふりに徹する。変な人。課長に部長って声かける時点でおかしい人決定だもん。万が一にも関わらない方がいい。私はただでさえ不運なんだから、うっかり関わって面倒なしゴットとか押し付けられたくないし。


 し~らんかお~♪ うん、正しい選択だと思う。


 そしたら突然その部長補佐様が、

「あなたですか、リチャード氏とマイケル氏、二人の大社長を骨抜きにした女傑というのは」

って私に話しかけてきた!


……じょ、女傑ぅっ?


 私は目を白黒させた。そんなふうに呼ばれる覚えはないし、呼ばれたいと思ったこともないんですけど!?


 そんな私に課長が苦笑いしつつ、

「彼ね、優秀だけど。占いとかスピリチュアル的なものに弱いんです。困ったことにね」

と言った。


 確かに、視線を落とすと、彼の手首には、これ見よがしに大粒な水晶の数珠玉がはまっている。


(いかにも、おじさんって感じだなー)


「確かにお二人に会ったことはあります。けど、骨抜きになんてしてません」


 部長補佐の思い違いを正そうと、きっぱり言ってみる。「またまたぁ」と二の腕をパタパタ叩かれた。意外にノリが軽いおじさんだ。


 すかさず課長が「それ、セクハラですよ」と部長補佐のボディタッチを咎めた。


 それに楢樫部長補佐は、サッと一歩下がると「申し訳ない」と私に九十度のお辞儀をしてくれて……ちょっと、大袈裟すぎやしない? というか、いつも低姿勢な課長がこのおじさんには、若干高圧的なんだよね……。


 ふと、隣に冷気を感じて見れば、氷雨先輩が楢樫部長補佐のことをじとっと表情の消えた視線を向けていた。


——社員にその態度はないと思うよっ!

という私の心の中の叫びはてんで先輩に通じていないみたいだ。先輩の放つ絶対零度冷気(架空)のおかげで寒イボできそうなんですけど!


 ひぃ~。ヒヤヒヤだよ。


 慰労係の仕事とは別に先輩の社長業を監視した方がいいかもしれない、なんて考えが頭をよぎる。


 私のお節介なんて余計だろうけどさ。


「……にしても、どうして人事部長補佐が課長のこと探して来るんです?」


「あれ? 知らなかった? 課長ね、人事部長兼任してるのよ」


——知らなかったよ!

と、驚きつつ、

……だから前、レンの人事データを見れたんだぁ。

と、納得する。でも、でもさっ。


「……課長は部長……何でわざわざ慰労係うちの課長に? あれ? 係なんだから、係長……じゃなくて課長?」

と頭を抱えると、先輩のデコピンが飛んできた。


「俺が人事部長頼んだ当時、海外事業部一課の課長だったんだけど、すごくごねられてさ」


「昇進でしょ? 喜ぶのが普通じゃん」


「部長なんて呼ばれるのは恥ずかしいって言うんだ。色々聞いてみると『課長浜優作』とかいう漫画のファンだとか」


……あー、中年のおじさん社員が昼休みに広げてる漫画雑誌の載ってるやつ。


「だからちょうどその頃気になっていたヘッドハンティング対策と称して適当に部署を作った。俺の一存で作った部署だから他の役員に目をつけられないように組織としては小さくしたくて係扱いにした。それが俺たちの慰労係なわけ。でも、本人の希望でここでは課長ってことで」


「びっくりした。人事部長と兼任してたなんて」


「今のところ、問題なくやってくれている。慰労係の仕事でモチベが上がるから、おかげで人事の方の仕事にもプラスになってる。ウィンウィンだろ。俺ってすごくない?」


「結局、先輩の自画自賛ですか……」


 先輩のドヤ顔に、そんなことないってわかっているけど、(会社のこと私物化してない?)なんて不安が湧き上がってくる。


——やっぱり、会社ウチの未来が心配になってきたよ~……。




 久しぶりに先輩と一緒に帰宅した。


 小さな密室になってしまうマンションのエレベーターの中。お互いが手を伸ばさないと届かない箱の隅と隅に立った。上昇とともに増えていく、頭上のパネルに表示されるデジタル数字が音もなく数を増してゆく。


 まるで脈拍を測られているような錯覚に毎回クラリとする。



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