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<クジマ邸の異変>
しおりを挟む朝、ヴィスィエーの街で十本の指にはいる大富豪クジマの、壮麗な豪邸前には人だかりができていた。
豪邸の、贅を尽くした大きな門の前に、それが立っていたのだ。
それ——朝日を反射して、きらきらと輝く、白い鉱物質の柱。
その材質は、おそらく岩塩であろうと思われた。
異様なことに、その塩の柱は人の形をしていた。
両手を、あたかも神に許しを請うが如く広げて差し上げ、跪いた、でっぷりとした——。
人びとは気がついた。
「おい、あれは、クジマをかたどった像ではないか?」
「そうだ、あの顔、あの風体、あれはまさしくクジマだ……」
「でも、なんで、クジマのあんな像が門の前に?」
「また何か、富豪の金に飽かせた酔狂か?」
不審に思い、近づいてみた男から
「うわーっ!」
恐怖の叫びが上がった。
「どうした? なにがあったんだ?」
「あれは……あの像は……生きている」
男は震える声でいった。
「何をバカなことをいっているんだ。どう見てもこれは、塩の柱じゃ……ひいっ!」
近づいていった別の男も、腰を抜かした。
たしかに、白く、透きとおった塩の像である。
しかし、その目。
その目だけは、生身の人間のもので、血走って、きょろきょろと動いていた。
そして、口。
鉱物となった口の中で、赤い舌だけが、生身のまま、ヒラヒラと動いていた。
舌は、岩塩の歯に傷つけられ、ぱっくりと裂け、あちこちから血をながして、見るからに痛そうだ。
そして、耳を澄ますと、かぼそい声が聞こえてくる。
たすけて……ゆるして……たすけて……
それは、まぎれもなく、クジマその人の声だった。
「これは、クジマだ……」
「クジマが、塩に変えられているぞ」
「魔法か?」
「何の魔法だ? そんな魔法聞いたこともないぞ」
人びとが、騒然となり、口々にわめく。
騒ぎを聞きつけて、警吏の一団がやってきた。
「どけっ! 関係ないものは、この場から離れろ!」
調べを始める。
しかし、彼らにもわけがわからない。
「こりゃあ、いったい……?」
警吏の一人が、不用意に塩の像にさわった。
「あっ」
像がその拍子にぐらりと傾き、ほかの警吏があわててて押さえようとするが間に合わない。
ガッシャーン!
路面に倒れた像は、砕けて、断片となってしまった。
ギャアアアア……
その瞬間、喉を切るような苦痛の絶叫を、その場にいたものたちは、みな、確かに聞いた。
そして、そんなふうに砕けても、像の血走った目と、血まみれの舌はそのままで
……たすけて……ゆるして……いたい……たすけて……
かすかな声は途切れないのだった。
警吏は、状況をつかむために、クジマの屋敷に入っていった。
屋敷は静まりかえっていた。
呼びかけに応えはない。
あれほど大勢いた、クジマの取り巻き、使用人、そして獣人奴隷。
そのすべてが消えていた。
建物の中には、ただ、そこかしこに、岩塩の粒やかたまりがあふれていた。
それだけだった。
近隣のものは警吏の聴取に、夜更け前、窓の外に、稲妻のような光が何度も閃くのをみたと話した。
おおぜいの足音が、どことも知れぬ方向に、遠ざかっていくのを聞いたものもいた。
「カチャカチャという音がきこえた。あれは獣人の足の爪が立てる音だと思う」
中には、そんな証言もあったのだが。
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