アンバランサー・ユウと世界の均衡 

かつエッグ

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第一部 「エルフの禁呪」編

その人は、お土産を用意した。

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 わたしたち三人は、孤児院ホームに向かっているところだった。
 わたしとジーナが先導し、ユウは後をついてくる。
 そのあたりでは、街道は両側を小さな森に挟まれていた。

 「ちぇっ、明日かあ……」

  と、ジーナは悔しそうにいった。
  ジーナがいうのは、もちろん、当てにしていた盗賊の報償金のことだ。

 (ジーナ、ちょっと、ちょっと)

 わたしはそう思うのだ。
 よく考えると、いや、考えるまでもなく、盗賊を退治したのはユウなのだから、その報奨金は、当然、ユウのものなので、そのあたり、なにかジーナは大きな勘違いをしている気がする。
 ジーナのそんな発言をきいて、ユウが気分を悪くしないか、わたしはヒヤヒヤしていた。

 「それにしても、あいつら二十四人もいたとはね」

 ユウは、気を悪くするようなそぶりもなく、別のことをいった。
 わたしは、おどろいて、きいた。

 「相手の人数しらないで、魔法かけたの?」
 「うん。二人がひどいめにあって頭に来てたし、敵意を感じたあたりを、だいたいでやった」
 「そうなんだ……」

 わたしはあきれた。

 (そもそも、だいたいで、あんなことできちゃうんだ……)

 「だから、もし気配を消したやつが、いちばん遠くの方にいたとしたら、サバンさんが言ってたように、力の範囲外になってたかもしれないな……内にいたら、どんなことをしても、あれから逃れようがないはずなんだ。重力は、万物に働くのだから」
 「うう……報奨金……」
 「ジーナ、いいかげんにやめなよ」

 わたしは、ユウを気にしながら、小声でジーナをたしなめた。

 「だってさあ……」

 ジーナも小声でボヤいた。

 「もらえてたら肉とか買えたんだよ。せっかく、ユウさんが来てくれるんだから、歓迎したいじゃん」
 「それは、そうだけど……」

 正直言って、わたしたちの孤児院は貧乏だ。
 肉なんて、めったに食べられないのだ。
 歓迎するから来てくださいなんて言ったけど、確かに、ユウに来てもらっても、ろくな歓迎はできそうにない、ということに改めて気がついてしまった。

 (うーん、どうしよう……)

 ユウは、そんなわたしたちの会話が聞こえていたのか、いないのか、とつぜん

 「そうだ!」

 と声を上げた。

 「えっ?」

 わたしとジーナがふりかえると、ユウはにこっと笑って

 「ね、きみたちの家にお邪魔するんだから、ぼくは、お土産、持ってかないといけないね?」

 と言ったのだ。

 「ジーナ、手伝ってくれるかな、きみは感覚がするどいよね?」
 「えっ? ま、まあ、そうだけど」
 「獲物の臭いとか気配とかわかる?」
 「んー分かるかな? 分かるかも?」
 「だいたいの方向がわかればそれでいいよ」
 「たぶん……近くにいればなんとかなるかも……臭いが強いヤツなら……」

 ジーナは自信なさげだ。

 「よーし、じゃあ、さっそく、やってみようよ」

 そう言うと、ユウは、道を外れて、森の中へ入っていく。
 わたしとジーナも、おくれないように、あわててついていく。

 森に少し入ったところで、ユウは立ち止まった。
 そこは、木立や茂みがちょっと開けた場所だった。
 ちらちらする木漏れ日が、その場所を照らしていたが、注意してみると、何本かの獣道が一点で交差する、そんな場所のようだ。

 「さあ、ジーナ、やってみて」

 ユウにうながされて、ジーナは真剣な顔になった。

 「う、うん、じゃあ、やるよ……!」

 ジーナは、じっと目を閉じて、感覚を研ぎすましていった。
 わたしとユウはかたずをのんで、そんなジーナを見ていた。
 森は静かで。
 どこかで鳥が鳴き。
 ジーナは、眉間にしわをよせ、獣人の鼻をヒクヒク動かし、ゆっくり息を吐きながら……

 やがて、

 「分かった……たぶん、あっち」

 一本の獣道の先を指さす。

 「あれは、草豚の臭いだと思う……自信ないけど」
 「了解だ、ジーナ」

 ユウは、ジーナの示した方向に、すっと手のひらを向けた。
 すると、

  ぶぉぉぉぉ……!

 何も見えないが、その方向から、小さく吠える声が聞こえた。

  ぴぎぃいいいい!

 声は悲鳴のように変わり、
 やがて、バキバキ、という枝が折れる音や、どすんどすんという何かが暴れるような音が聞こえ、それがだんだん大きくなり、こちらに近づいてくる。

 「えっ、なに?」
 「これ、だいじょうぶなの?」

 あわてるわたしたちをしりめに、ユウは落ち着いた声で指示した。

 「よし、ジーナ、剣をかまえて!」
 「は、はいっ!」

 ジーナが両手で剣を構える。

 「来るぞー」

 次の瞬間、向こうの茂みが、はじけるように吹き飛んだ。

 「うわっ、大きい!」

 獣道の向こうから、茂みを吹き飛ばしながら、草豚の、緑色の大きな体が現れた。
 わたしたちの体の三倍は、ゆうにあるだろう。
 その巨体が、枝や草や、石ころを吹き飛ばしながら、どんどん近づいてくる。
 近づいては来るのだが……

 「「なんで転がってくるの?!」」

 わたしとジーナは、思わず声をあげてしまった。
 突進してくるなら分かる。
 走ってくるなら分かる。
 ちがうのだ。
 草豚の巨体は、走ってない。
 まるで、坂道を転がり落ちているように、ごろごろ回転しながら、近づいてくるのだ。
 それは草豚にとっても考えられない事態のようで、悲鳴をあげて、体をよじり、じたばた暴れているが、どうにもならないようだ。
 障害物を吹き飛ばしながら、ぐるんぐるん回り、傷だらけになり、こちらに転がりおちてきているとしか、いいようがない。
 ここは、ぜんぜん、坂道なんかじゃないんだけど。

  ぴぎぃーーーー!
  ずうん!

 わたしたちの近くまできた草豚は、悲痛な叫び声を上げながら、地面でいったん跳ね上がり、待ち構えるジーナの目の前に、叩きつけられるように落ちてきた。

 「今だ、ジーナ!」
 「えいっ! えぃっ!」

 ジーナが剣をふるい、草豚は抵抗する間もなく、あっけなく息絶えた。
 もっともその前に、すでに息も絶え絶えの状態だったけど。

 「ふうー……やった!」

 ジーナが、ほうっと息を吐いた。

 「やったね!」

 ユウはそういうと、草豚の前で、不思議なことをした。
 両手の手のひらを、胸の前でをあわせて、目をつぶり、頭を下げる。

 「「?」」

 わたしとジーナがいぶかしげな顔をしたのに気がついて、ユウは言った。

 「あ、これ? 草豚に、感謝の気持ちをあらわしたんだ。ぼくの育ったところでは、こうするんだよ」
 「ふうん?」

 よくわからないが、わたしとジーナも真似をして、三人で手を合わせた。

 「ね、ユウさん」

 わたしは疑問に思ったことを聞いてみた。

 「これ、どうなってるの? 草豚、走ってなかったよね。走ってないのに、近づいてきたよね。なんだか、わたしには、急な坂道を転がり落ちているみたいに見えたんだけど……」
 「うん」

 ユウはうなずいた。

 「その通りだよ。草豚は、最初にいた場所から、ここまで、落ちてきたの」
 「それって……」

 わたしは、はっと思いついた。

 「例の、重力ってやつ」
 「そうだよ。すごいね、ライラ。正解だ。ぼくは、重力の方向を操作して、向こうが上、こっちが下になるようにしたんだ。だから、草豚は、あそこからまっすぐにここまで、崖を落ちるようにころがり落ちてきたってわけさ。びっくりしただろうねえ、いきなり、立っている場所が崖になっちゃうんだから」

 (重力操作って、いったい……)

 「ねえ、それよりもさあ」

 ジーナが、心配そうな声で言った。

 「こんな大きなの、いったいどうやって家まで運ぶつもり? 三人じゃどうしようもないよ」
 「だいじょうぶ」

 ユウが、にっこり笑った。
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