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第一部 「エルフの禁呪」編
その人(と、わたしたち)は、ギルドから依頼を受けた。
しおりを挟む「すごい、すごい。お宝の山だよ!」
ジーナが興奮して、レイスの残したものを一つ一つ、手にとっては確かめている。
あのレイスがさっきまで身にまとっていた代物なのだが、怖くはないのかと思ってしまう。
なかに、とんでもない呪いの品物が混じってたりして……。
「なんだこりゃあ!」
そのとき、頭上から、驚く人の声が聞こえてきた。
見上げると、
「おいおい、またお前たちなのかよ!」
あきれた口調。
サバンさんだった。
ユウによって吹きとばされた天井部のふちに立って、こちらをのぞきこんでいる。
後ろには、何人もの冒険者、そして野次馬らしい町の人たちがいて、その人たちもおそるおそる、とつぜん出現したこの巨大なクレーターをのぞきこんでいるのだった。
「ああ、サバンさん、お勤めごくろうさまです……」
と、ユウが、いつものように答えた。
後刻、ギルドでわたしたちは、サバンさんと話し合っていた。
「どうも、あいつらは、あの壁に開いた門のところから、城壁の下をくぐる地下通路をつくり、町の中に侵入しようとしていたらしいな……」
状況を検分し、サバンさんは結論付けた。
「危ないところだった。もう、通路は、あの親子の家の地下までつながっていたからな。いつ、大群のアンデッドが攻め込んでもおかしくなかった」
「なぜ、すぐ侵入してこなかったんでしょう」
「アンデッドだけなら、そうしていただろうが、レイスがいたからなあ。
レイスは、ただのアンデッドとは違って、思考力がある。有象無象のアンデッドのように、本能のまま、やみくもに動くことはない。
ちゃんと計画があって、あの建物を拠点にする準備を進めようとしていたのかもしれない。
あの親子は、まだ利用価値があったので、すぐには殺さずに、幻惑の魔法をかけた状態にしていたんだろうね」
「ただ、瘴気はかなり漏れていたから、建物には病人がおおぜい出ていましたね」
「そうだな、たぶん、そのうちに、あの建物の住人はみな、アンデッドにされていただろう」
「そういえば、あの地下の門はなんなんですか? どこにつながっているんでしょう」
「それは、はっきりしている」
「わかるんですか」
「うむ、あの先は、まちがいなくダンジョンだ」
「ダンジョン?!」
「そうだ。
ダンジョンの外壁はかたく封じられていて、中の魔物が外壁をやぶって領域から外にでることはけっしてできない。
入る方も同じだ。
ダンジョンの出口は、常にただ一つしかなく、なにものもそこを通らずには出入りできないんだ。
この世界のダンジョンはそういうふうにできているんだ。
だから、魔物がダンジョンから出て襲ってくるとしても、必ず、その出入り口を通ってくる。
我々としては、そこだけを警戒し、管理すればよかった」
「でも、あの穴は、その出入口とは違いますよね」
「それが問題なんだ」
サバンさんは顔をしかめた。
「どうも、あのレイスは、ダンジョンの壁をやぶる方法を見つけ出したらしい。それで、本来レイスがいる階層から、直接ダンジョンのエリア外に出られる門を構築したようだ……」
「ええっ! それって、たいへんじゃないですか!」
ジーナが叫んだ。
無理もない。
もしその方法が一般化したら、ダンジョンの中の魔物が、たちまち世界中にあふれるだろう。
たいへんなことなのだ。
「おそらく、あれはなんらかの呪術だ。あの門のまわりの彫刻は、門を維持するための魔法陣だと思う。レイスは呪術の専門家だからな、そして不死だから、ダンジョンの奥で、何百年も、ダンジョンの壁をやぶるための研究と実験を、えんえんと繰り返してきたのかもしれない」
「たいへんな執念ですね」
「レイスというのは、そういう存在だからな……しかし」
サバンさんは、つくづくあきれたように、ユウを見て
「ユウ、お前も、しょうじき、とんでもないな」
「ええと…」
ユウは頭をかいた。
「住民から通報があって来てみたら、たまげたよ。城壁の外に、巨大なクレーターができているし。
どれだけの土砂が吹き飛んだんだよ。
広場の上部にあった森が、根こそぎなくなってるじゃないか。
なんだよ、あれもお前の魔法なのか?」
「はあ、まあ、いちおう……」
「しかも、最後はレイスだぞ。災厄級の化け物だ。
レイスってやつには、物理攻撃は効かないし、上位魔法はばんばん撃ってくるし、こっちの魔法使いは一発で無効化されちまうし、俺が以前戦った時は、みんながずたぼろになりながら、最後に勇者が聖剣を使ってようやくとどめをさしたんだよ。
どうやって倒したんだよ、いったい。」
「まあ、ちょっとしたコツがありまして……」
「はあ、コツ? ほんとかよ」
サバンさんはまったく信じていない。
「それはそうと、あの人たちは無事でしたか?」
ユウが話をそらした。
「あの人? ああ、あのパーティのバカたちな。なんとか無事だ。腰はぬけてたけど」
「あの人たち、なんであんなところにいたんですか」
「アンデッドは無理だって、俺がよおーく説教しておいたんだが、それでも納得せずに、クエストをこなそうとしたらしいぞ。無許可でな」
「いやー、根性ありますねえ」
「それを根性というのかね……森にアンデッドが出るという依頼だったから、とにかくそのあたりの森に入り、アンデッドをさがして歩き回っていたら、地下に続く通路を発見したんだそうだ」
「ああ、それが」
「そうだ、あの親子の家に続く通路のほかにも、何本か支線のような通路があってな。そのうちの一本だったんだ。
考えてみると、あのクエストはそもそも、その通路を通ってたまたま外に出てきたアンデッドがうろついて、目撃されたから、ってことだったんだな。
それで、あの連中は、通路を見つけたので、状況をよく確かめもせず、奥へどんどん進んでいったらしい」
「なんというか……度胸があるというか……」
「ただの、無謀なバカもんだよ」
そう吐き捨てたあと、
「でもまあ、お前のおかげであの連中も死なずにすんだ。ありがとな」
自分の忠告を聞かなかった連中なのに、ユウに礼をいう。やはり、いい人だ。
「でも、このままのスタイルだと、そのうちに多分、あいつら全滅して死ぬけどな……」
わたしも、そう思う。
でも、ねずみ退治に出かけて、レイスに遭遇してしまうわたしたちも、たいがいである。
ユウがいなかったら、こちらもとっくに全滅だ。
「それで、だ」
サバンさんが、真剣だが、申し訳なさそうな口調で言った。
「こちら側の出口は塞いだ。あの魔法陣も削り落とした。しかし、あっち側がどうなっているのかは、わからん」
「ということは……」
「そうだ。ダンジョンに潜って、あっち側がどうなっているのかを確認し、可能なら完全にふさがなくてはならない」
「レイスが出てきたってことは、そうとう、深い階層ですよね、たぶん」
「そうなんだ……やっかいだ。それで」
サバンさんは、わたしたち三人を順にみて、言った。
「そのために『雷の女帝のしもべ』の力を借りたい」
「「えぇーっ?!」」
わたしとジーナはびっくりした。
いや、そんなこといわれても。
ユウはともかく、わたしとジーナですよ。
ただの、かけだしですよ。
ジーナなんか、つい先日、ばっさり斬られて、死にかけてますよ。
ダンジョンの深層なんて、いくらなんでもだめでしょ。
あの駆け出しパーティが、実力不足でどんなことになったのか、サバンさん見ましたよね?
わたしのそんな顔をみて
「そうなんだ……ダンジョンの、そんな階層は、とてつもなく危険なんだよ。だから、俺としても心配は心配なんだが……」
「じゃあ、どうして。最悪、ユウさんだけ行くという手も」
「それが……お前ら『雷の女帝のしもべ』は三人で一組なんだから、全員いっしょでないとだめだと」
「いやいや、だれがそんなとんでもないこと言ってるんですか」
サバンさんは厳かに答えた。
「女帝だよ。麗しき雷の女帝から、そういうお達しなんだよ」
「「ええーっ?」」
わたしたちは、またびっくりだ。
「いつのまにそんな話に……」
「ついさっき、ルシア様から事告げ鳥がきて、ユウをダンジョンに入れるならそれが条件ってな。なんで、この話がもうルシア様に伝わっているのか、それは俺にもさっぱりわからないけど、まあ、なにしろあの麗しの雷の女帝ルシア様だから、そういことがあってもおかしくはない! それだけのお方なんだ、あの方は!!」
サバンさんは、崇拝する目で、断言した。
「というわけで、よろしく頼む。急いで段取りをつけて、日程がきまったら、連絡するから」
そういって、サバンさんは頭を下げたのだ。
「で、どうなの? これは?」
ギルドからの帰り道、わたしたちはこの件について話し合ったのだが。
「ルシア先生、なんだか、おかしくなっちゃったよ」
わたしは、ぼやいた。
「前はこうじゃなかったような気がするんだ。もっともっと慎重だったと思うんだけど」
「だよね! 前のルシア先生だったら、ぜったいに、わたしたちにダンジョンに入れなんて言わないよ。たぶん、これは、……ユウのせいだな」
ジーナはユウを見る。
「たしかに、ユウが来てからおかしい」
「ぼくのせい?」
「そう、ユウの匂いのせいだ」
ジーナが断言した。
「いや、ジーナ、匂いは違うから」
「そうかな…まあ、でも」
ジーナは言った。
「あたし、今のルシア先生の方がいいかな」
そういって、にっこりした。
「だって、前のルシア先生は、わたしたちみんなのために、なんだかいつも気をはりつめてるみたいで、ちょっと、かわいそうって思うときあったもん……」
「だね。わたしもそう思う。きっと、これでいいんだね……」
「ありがとうね、ユウさん」
「ぼく?」
三人で、並んで歩いて孤児院に帰った。
ジーナは、ジンタのお母さんからもらったクッキーの袋を握りしめている。
わたしたちは、疲れたけど、なんだか満ち足りた気持ちで歩いていたので、いつのまにかわたしたちのパーティ名『雷の女帝のしもべ』が、ギルドでも当たり前になってしまっていることに、気づかなかったのだった。
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