アンバランサー・ユウと世界の均衡 

かつエッグ

文字の大きさ
49 / 63
第一部 「エルフの禁呪」編

その人は、お米を食べた。

しおりを挟む
 ナハティガルさんと別れ、旅籠に帰る途中、ユウは言葉少なげだった。
 なにごとか考えながら歩く、ユウの横顔を見ながら、わたしの中でも考えがめぐっていた。

 「……びっくりしたね、ライラ」

 ジーナが言う。

 「あの人、アンバランサーの子孫だったなんてね…あれ? ということは、あの人、ユウの親戚?」
 「違うよ、ジーナ。むかし昔に、この世界にきた、別のアンバランサーの子孫ってことだよ。だから、ユウさんとは、血の繋がりはないの」
 「そっか……」

 ジーナは思いついたように

 「でもさ、子孫がいるってことは、そのアンバランサーの人は、この世界のだれかと結婚して、子どもができたってことになるよね」
 「うん、そうなんだよね……」

 わたしは、ナハティガルさんと話し合うユウの様子を、じっとみていたのだ。
 何を話しているかは、この土地の言葉で話していたから、そのときはよくわからなかったのだけど、話の途中で、おどろいたユウが思わずつぶやいた「この世界で生きたアンバランサーがいたんだ」という言葉だけは、わたしにもわかった。
 考えてみれば、この世界に使命をもって送り込まれたアンバランサーが、使命を終えたとき、どうなるのか、ということを、わたしたちは知らない。
 ユウの口からも、それは聞いていない。
 みんなでヴリトラ神様の意図について話をしたときに、わたしは、旅人のたとえを使ったのだけれど、ユウが旅人だというのならば、ユウはやがて、わたしたちを置いて、自分の故郷に帰っていくのだろうか?
 そのつもりだったから、ユウは、この世界で生きたアンバランサーがいるということに、おどろいたのではないか?

 ユウが、いつか、わたしたちのもとから去っていってしまう!

 そんな可能性を考えると、胸がきゅっと苦しくなってしまう。
 もし、そんなことになったら……わたし……どうしたら……。
 気づくとユウが、わたしの顔をじっとみている。
 まるで、わたしの考えがぜんぶ、わかっているかのように。

 ユウさん、あなたは、どうするの……?

 聞けばいいのだろうけど、そうしたら、きっと、ユウは、いつものように答えてくれるのだろうけど……。

 (心配するな、娘よ!)

 「うゎっ!」

 またも、いきなり頭の中に響いた声に、わたしは飛び上がった。

 ヴ、ヴリトラ神さま?

 (娘よ、お前の心配はもっともだ。だが……)

 と声は続く。

 (われわれが、そうはさせないから安心するがよい)

  

 (わたしや、ガネーシャだ。ユウは面白いやつだから、この世界にずっといてほしい。その点では、わたしとガネーシャの意見は、完全に一致しているのだ)

 ヴリトラ神さまの、ふくみ笑いが頭にひびき、

 (ま、われわれがどうこうしなくても、たぶん、だいじょうぶだろうがな……)

 そのとき、頭にルシア先生の顔がちらっと浮かんだのはどういうわけなのか。
 そのことばを最後に、ヴリトラ神さまは、またどこかに去っていった。
 まったく、驚かせてくれる人、いや人ではなくて、神様である。

 「ねえ、ユウさん」

 ジーナが、屋台を見ながらユウに話しかける。

 「なんだい?」
 「あのめっちゃくちゃ甘いお菓子さあ、わたしたちのところでも作れないかなあ?」
 「そうだなあ、小麦粉はあるし、砂糖もなんとかなりそうだな……あとは、あの甘いシロップと、スパイスか……」
 「じゃあさあ、ここで、材料たくさん、買って帰ればいいんじゃない!」
 「そうだね、みんなも喜ぶかな。甘くてびっくりするだろうなぁ、きっと」

 ジーナとユウは、わたしの気も知らず、そんな会話をつづけている。
 ユウのその様子をみていると、とても、この人が、いつかわたしたちのところからいなくなるとは思えない。
 思えないのだけど……。

 ーーーーーーーーーーーーーーーー



 「ああ、とうとうついに……」

 ユウが、感極まった声を出した。
 旅籠の夕食である。
 わたしたちの前には、いろとりどりのこの国の料理が並んでいる。
 何かの肉を、スパイスにひたして焼いた、真っ赤な料理。
 いい匂いのするスープ。
 以前、ユウが作ってくれた「かれえ」。「かれえ」は、種類を変えて、何皿もならんでいる。黄色いものから、緑色のものまである。
 焼きたての、平らなパンのようなもの。これはびっくりするほど大きく、バターと蜂蜜がたっぷり塗られている。
 素焼きの容器に入った、冷えた白い飲み物。
 前にユウが作ってくれた、ぷりんに似た何か。
 みんな、とても、とても美味しそうである。
 しかし、ユウがもっとも興奮しているのは、大きな緑の葉にもられた、黄色い粒々の山で。
 粒々は細長い形をしている。茹でてあるのか、温かい。
 これこそが、ユウのいうところの「おこめ」と言うものらしい。
 みたところ、そんな特別な雰囲気のあるものではなくて。
 ジーナも、なにこれ、という期待外れな顔をしている。
 しかし、ユウは目を輝かせているのだった。

 「どれどれ?」

 ジーナが、いきなり、そのお米なるものを匙ですくって、口に入れた。

 「ん? んん? んんん?」

 かなり、微妙な顔だ。

 「どうなの、ジーナ?」
 「うーん、それはさあ……まずくはないけど、なんというか……しょうじき、そんな特別な味はしないというか……うう、ユウさん、ごめん!」

 ジーナは、ユウにあやまった。

 「あやまらなくてもいいんだよ」

 ユウは、にこにこしている。

 「これは、そういうものなんだから。これだけを食べるんじゃなくて、こんなふうにね」

 ユウは、そういって、右手で直接、お米をつまみとると、かれえにちょっとつけて、そして口に運んだ。

 モグモグやっていたが

 「ああ……やっぱり、お米はすばらしい……」

 それを見たジーナが

 「よし、わたしも!」

 お米を手掴みにすると、カレーにつけるが、うまく口にできず、ぼろぼろとこぼれてしまう。

 それでもなんとか、口に運んで

 「あ! なるほど! 確かにこうやると……このつぶつぶが口の中で、かれえとからまって……そしてほどけていき……口中に広がるその香りと辛み、それはまったりとして、それでいて……」
 「えっ? か、?」

 と、またユウがわけのわからないことを言いだす。
 わたしも、ユウのまねをして、食べてみた。

 「うん、こうやって食べると、いくらでも食べられそうだね」
 「そうだね、ぼくの国でも、これだけで食べるんじゃなくて、おかずと一緒にたべるんだよ」

 どんどん口に運びながら、ユウが説明してくれる。

 「ぼくらの国のお米は、すこしこれとは種類がちがって、もっともちっとしているんだけどね」
 「あっ、こっちのパンみたいなのも、美味しいねえ! 蜂蜜が甘いよ!」

 ジーナが声をあげた。ジーナはやはり、甘いのが好きなようだ。
 こうして、わたしたちはシンドゥーの国の夕食を堪能したのだった。


 そして、お休みする時間となって。

 「ぼくは、こっちの長椅子で寝るからね」
 「だめです! そんなことはさせられません、ライラもそう思うでしょ」
 「まあ、ユウさんだけそんなところで寝てもらうわけには……」
 「だから、今から三人で、このベッドで寝るのです!」

 異常にはりきって、場を仕切るジーナ。

 「うーん……いいのかなあ」
 「いいのです。あっ、ユウさん、なんでそんな隅っこにいくんですか?」
 「えっ、それはそうなるでしょ」
 「なにいってるんですか、ユウさんは、真ん中です!」
 「まんなか? それはちょっと……」
 「だめです! 真ん中でないと不公平です!」
 「いや、不公平ってなにが?」
 「ライラ、これはあんたも賛成するでしょ、ユウさんは真ん中!」
 「……まあ、それはそうなんだけど……」
 「いやいや」
 「はい、ここ。さあ、ユウさん、ここにどうぞ!」
 「うーん……いいのかな」
 「ジーナ、なんであんた服脱ぐの?」
 「そうだよ、ちょっとまってジーナ」
 「えっ、ふつう、寝るときは、脱ぐでしょ。あたしはいつもそうだよ、獣人だし」
 「いや、やっぱり、それはまずいんじゃあ」
 「そうかな、えーっ? そうかなあ?」
 「まずいって」
 「服着たままなんて、あたし、寝れるかなあ?」
 「ねてもらわないと困るよ……」

 というような会話が交わされて、さて、わたしたちがけっきょくどんなふうに、シンドゥーの国の夜をすごしたのか、それは、ヴリトラ神さまだけがご存知なのです。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...