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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編
わたしたちは、女神さまとお茶をする。
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ミネーヴァさまは、大聖堂のファサードへと、わたしたちを導いて行く。
聖堂正面には、両側に見上げるばかりの尖塔がそびえ、中央正面にならぶ三つの扉の上には、精巧をきわめた彫刻にかざられた青いバラ窓があり、さらにその上には流麗なアーチがある。
建物の外壁は、輝くばかりに白い。
「すごいねー!」
ジーナが感嘆の声を上げる。
「シンドゥーのはキンキラキンで圧倒されたけど、こっちは真っ白で厳かだねえ」
「ふふふ」
ミネーヴァさまは笑った。
「ガネーシャさんのところね。南国の、まぶしい太陽のもとで、あれは映えるわね」
「ガネーシャ様のこと、ご存じなんですね」
「ヴリトラさんもね。この前の、あなたたちの活躍も、映像を送っていただいたわ。良かったわー、なんども観たわよ」
「「えっ!」」
(「ええーっ、ここでも? もうやめてー!」という悲鳴が、遠くのほうで聞こえた気がします。気のせいでしょうか。「うむ、喜んでもらえて何よりだ、編集をがんばった甲斐があったというものだ。励みになるね」という声が、また別の遠くのほうで聞こえた気もします。気のせいでしょうか)
「ふふっ、わたしたちは、これでも、けっこうやりとりしているのよ」
「ははは、まるで神さまたちのインターネットですね」
と、ユウは例によってよくわからないことをいう。
「でも、いいな」
と、ミネーヴァさまは、急に、幼い子の口調になって言った。
「シンドゥーには、神様がたくさんいて」
その口調は、こころなしか寂しげだった。
「わたしは、この地にひとりきり。
ガネーシャさんとヴリトラさんの、仲のいい掛け合いを聞いていると、羨ましくなるわね……」
(あの神様たち、だれあいてでもあの調子なんだ……)
わたしが感心していると、
「ミネーヴァさまは、家族とかいらっしゃらないんですか」
いきなり、ジーナが聞いた。
ぶしつけにこんなことを聞くのは、いつものジーナである。
でも、これは正直、神様にする質問ではないと思う。
「妹がひとり……だけど……」
そう言って、顔を曇らせた。
その様子に、なにかがあったのだとわたしたちは察した。
「あそこ」
ミネーヴァ様は、女の子の小さな指で、空を指さした。
そこには、おりしも下弦の月が空にかかり、昼の日光のもとでも薄く見えている。
「ずっとずっと昔、あそこに行ったきり、音信不通なの……」
「あそこって……あの……月、ですよね」
「そう、妹の名は、アーテミス……」
ミネーヴァさまは、気を取り直すように、にっこりして
「さあ、中に進みましょう、びっくりするわよ」
わたしたちは、それ以上聞くことはできず、黙って後に続いたのだった。
「こらこら、その入り口はだめだよ」
三つあるうちの、真ん中の扉から入ろうとして、ミネーヴァさまは門衛にとめられた。
「その入り口は、高貴な方のための入り口だからね」
「あら、そう」
ミネーヴァさまは、門衛の言葉を聞き流し、かまわずつっきろうとするので、わたしたちが
「ミネーヴァさま、わたしたちは、こっちの扉で……」
「別に、まんなかでかまわないわよ。わたしが許可します」
「いえ、ぼくら、あまり目立ちたくないし……」
「うーん、そうなの?」
「はい、それでお願いします」
「そう? 残念ねえ……わたし、真ん中は高貴な人用なんて、決めた覚えはないんだけどな……」
ミネーヴァさまは、実は、かなりくだけた方であったのだ。
わたしたちが日ごろ教えられた堅苦しい教義や、聞かされたお話とはずいぶん違うのだった。
ガネーシャ様や、性格は少し悪いけどヴリトラ様も、魅力的だったし、神さまって、本当はみんなこんなふうなのかな……
そう思っていると
「まあ、いろいろね。楽しい神もいれば、偏屈な神もいるし、かなり危険な禍つ神の類たぐいもいるし。シンドゥーのあのお二人は、わたしも大好きよ」
と、すかさず、ミネーヴァさまが答える。
わたしの思っていることはお見通しだ。
やはり、神さまはあなどれない。
大聖堂の中は、光と影に満ちていた。
入り口から、見上げると首が痛くなるほどの高さを持つ身廊が、ずっと奥までつづいている。
天井の明り取り窓から光の筋が何本ものびて、荘厳な雰囲気を醸し出す。
身廊と並行するように、柱にくぎられた側廊も走っている。
祭壇に焚かれた乳香の香りが、ここまで漂ってくる。
おおぜいの人々が、感嘆の声をあげながら、行き来している。
身廊を進んでいくと、やがて両脇からの翼廊と交差する。
交差する位置の床面には、この世界のシンボルが意匠化されて描かれている。
ドームのステンドグラスから落ちる光が、そのシンボルを彩る。
さらに先に進むと、そこには聖域がある。
聖域の中には、祭壇があり、そして正面に、慈愛に満ちたミネーヴァさまの像が、両腕をひろげたポーズで屹立しているのだった。
わたしは、壮麗な建築に圧倒されていた。
ユウは、あたりを見回しながら、
「うん、すばらしいね。のーとるだむにも負けないねえ」
などとまたよくわからないことをつぶやく。
「うーん、なんだかなあ」
と不満げなのは、ミネーヴァさまだ。
「なんだか?」
とジーナが聞くと
「あの、わたしの像がね……」
「えっ、すごくご立派ですよ」
「いっしょうけんめい作ってくれたのはわかるけど、なんていうか、もう少し……」
「だめなんですか」
「ほんとうは、もう少し、ゆるい感じがいいのよね……」
残念そうな口調が、なんだか、とても微笑ましいのだった。
「つぎは、こっちにいくわよ」
身廊をもどるとミネーヴァさまは、尖塔につづく扉をカチャリとあけた。
「はい、どうぞ」
その扉は、さっき通り過ぎたときには、厳重に鎖で封鎖されていたはずだが、今は何事もなく普通に開いてしまった。
「いいのかなあ……」
「ここでは、わたしが良いといえば、どんなことであれ、良いのです」
扉が閉まると、がちゃりと鎖が音を立て、元通りに封鎖されたようだ。
ミネーヴァさまが力を使ったのだ。
「おい、どうなってるんだ? 今、そこに、ひとが入っていったぞ!」
目撃者がいたようだ。なにか、外で騒いでいる声が聞こえた。
わたしたちは、尖塔の階段を上っていく。
長い長いらせん階段に、冒険で体力のあるわたしも、だんだん息が切れてくるが、ミネーヴァさまは先頭にたって、軽々とのぼっていく。まるで、重さがないかのようだ。いや、神さまだから、じっさいに重さなんてないのかもしれない。
ようやく、塔のてっぺんにたどりつく。
「すごーい、王都が、ぜんぶ見えちゃうよ!」
ジーナが歓声をあげた。
尖塔からの眺望は素晴らしい。
城壁にかこまれた王都が一望できる。
向こうにみえる華やかな王宮。
あちこちに配置された、たくさんの歴史ある建物、縦横に走る道、走る馬車。歩くおおぜいの人たち。
城壁の外には、青々とした草原がひろがっている。
草原に、風が波を作る。
「ね、すてきでしょう」
とミネーヴァさま。
わたしたちは、景色に見とれながら、うなずいた。
すぐ下をみおろすと、大司教さまがおつきのものをしたがえて、執務館の方に歩いていくのもみえた。
「アウグストゥース!」
ミネーヴァさまは、声を上げて、手を振る。
大司教さまは、声に気づき、わたしたちを見上げて、礼をした。
そしてまた歩き出す。
このいきさつを、おつきのものたちもしっかりみていたわけで、これってあとでまた騒ぎにならないか心配だ。
「あっ、また、カテリナさんだよ」
ジーナが言い、指さす。
カテリナ団長ひきいる近衛騎士団が、大聖堂の前の通りを走っていく。
「王宮に向かってるわね」
と、ミネーヴァさま。
「なんか、カテリナさん忙しそうだなあ……」
ジーナが言うと、ミネーヴァさまは
「騎士団も、今、いろいろとたいへんだから……」
わたしたちが、景色を堪能するのを待って、ミネーヴァさまは、
「さあ、これから、とっておきの場所にいくわね」
階段をおり始めた。
細い廊下をとおり、何度も曲がり角を通り、階段を上り下りし、扉をいくつもあけて、たどりついた。
そこは、秘密の内庭だった。
大聖堂の奥深く、たぶん、地上より高い場所に、土をいれて庭がしつらえてあり、白く美しい花が咲き乱れている。
陽ざしがやわらかくそそぎ、四方を囲まれた場所のはずなのに、やさしい風が吹いている。
風に乗り、馥郁たる花の香りがただよう。
白い花びらが、ひとひら、ふたひらと風に流される。
「とても、すてきな場所ですね」
ユウが言う。
「この場所を知るものは少ないわ。ごくごく、限られた人だけ。神に招待されたものだけが入れるのよ」
ジーナが驚いていった。
「いいんですか、ミネーヴァさま。あたしらなんかが入って」
「もちろんよ、大事なお客様なんですもの」
ミネーヴァさまがそういって、手を振ると、そこには丸いテーブルと椅子があらわれた。
テーブルの上には、青い飲み物のはいったグラスがのっている。
飲み物はよく冷えているのだろう、グラスは汗をかいている。
「さあ、お茶をいただきながら、お話をしましょう。どうぞ」
わたしたちは、その飲み物に口をつけた。
その飲み物は、甘く、しかし体の疲れや、頭の熱がすうっと晴れるような清涼感があって
「神酒茶よ。お気に召したかしら」
「えっ、あたし、そんな神様の飲み物、飲んじゃっていいのかなあ……」
ミネーヴァさまは微笑んで
「それでね、お願いがあるの」
と、続ける。
「聞かせてくださらない? あなたたちの冒険を」
「あたしたちの?」
「そう」
目を輝かせて
「楽しみにしてたのよ。お願い、さいしょから、これまでのことをずっと……」
というわけで、わたしたちは、ユウと出会った時からのこれまでを、ミネーヴァさまに語ることになったのでした。
ミネーヴァさまは、最初から最後まで、身を乗り出すようにして、楽しそうに話をきいていた。
話がようやくおわると
「すてきね。とてもとても、面白かったわ」
満足げな顔をしたあとで、あらたまった顔になり
「アンバランサー・ユウ、ひとつ気になるんだけど」
「はい」
「あなたを殺しかけた、あの、たいへん危険な存在。あいつはもう、この世界に現れる心配はないのかしらね?」
「そうですね……」
ユウは考え込む。
「ふつうなら、こちらの世界をみつけることはできないと思いますが、しかし」
「しかし?」
「こちらの世界から、サインを送ってしまうと見つかる可能性があると思います」
「サインとはどんなものでしょう」
「ふつう起こりえないような異変をおこすことです、たとえば、時空連続体に大きな穴をあけてしまうとか……」
「あっ、この前のギルドの!」
ジーナが大声をあげた。
「あれくらいなら、まあ大丈夫と思うけど、あれをもっと大規模に、長時間続けてしまうとまずいと思う。閉じればまだいいが、開けっ放しは最高に危険だな」
「そうですか……」
ミネーヴァさまは、眉をひそめていった。
「ひょっとしたら、アンバランサー・ユウ、あなたにまた戦ってもらわないとならなくなるかもしれませんね。わたしはそれを危惧しています」
聖堂正面には、両側に見上げるばかりの尖塔がそびえ、中央正面にならぶ三つの扉の上には、精巧をきわめた彫刻にかざられた青いバラ窓があり、さらにその上には流麗なアーチがある。
建物の外壁は、輝くばかりに白い。
「すごいねー!」
ジーナが感嘆の声を上げる。
「シンドゥーのはキンキラキンで圧倒されたけど、こっちは真っ白で厳かだねえ」
「ふふふ」
ミネーヴァさまは笑った。
「ガネーシャさんのところね。南国の、まぶしい太陽のもとで、あれは映えるわね」
「ガネーシャ様のこと、ご存じなんですね」
「ヴリトラさんもね。この前の、あなたたちの活躍も、映像を送っていただいたわ。良かったわー、なんども観たわよ」
「「えっ!」」
(「ええーっ、ここでも? もうやめてー!」という悲鳴が、遠くのほうで聞こえた気がします。気のせいでしょうか。「うむ、喜んでもらえて何よりだ、編集をがんばった甲斐があったというものだ。励みになるね」という声が、また別の遠くのほうで聞こえた気もします。気のせいでしょうか)
「ふふっ、わたしたちは、これでも、けっこうやりとりしているのよ」
「ははは、まるで神さまたちのインターネットですね」
と、ユウは例によってよくわからないことをいう。
「でも、いいな」
と、ミネーヴァさまは、急に、幼い子の口調になって言った。
「シンドゥーには、神様がたくさんいて」
その口調は、こころなしか寂しげだった。
「わたしは、この地にひとりきり。
ガネーシャさんとヴリトラさんの、仲のいい掛け合いを聞いていると、羨ましくなるわね……」
(あの神様たち、だれあいてでもあの調子なんだ……)
わたしが感心していると、
「ミネーヴァさまは、家族とかいらっしゃらないんですか」
いきなり、ジーナが聞いた。
ぶしつけにこんなことを聞くのは、いつものジーナである。
でも、これは正直、神様にする質問ではないと思う。
「妹がひとり……だけど……」
そう言って、顔を曇らせた。
その様子に、なにかがあったのだとわたしたちは察した。
「あそこ」
ミネーヴァ様は、女の子の小さな指で、空を指さした。
そこには、おりしも下弦の月が空にかかり、昼の日光のもとでも薄く見えている。
「ずっとずっと昔、あそこに行ったきり、音信不通なの……」
「あそこって……あの……月、ですよね」
「そう、妹の名は、アーテミス……」
ミネーヴァさまは、気を取り直すように、にっこりして
「さあ、中に進みましょう、びっくりするわよ」
わたしたちは、それ以上聞くことはできず、黙って後に続いたのだった。
「こらこら、その入り口はだめだよ」
三つあるうちの、真ん中の扉から入ろうとして、ミネーヴァさまは門衛にとめられた。
「その入り口は、高貴な方のための入り口だからね」
「あら、そう」
ミネーヴァさまは、門衛の言葉を聞き流し、かまわずつっきろうとするので、わたしたちが
「ミネーヴァさま、わたしたちは、こっちの扉で……」
「別に、まんなかでかまわないわよ。わたしが許可します」
「いえ、ぼくら、あまり目立ちたくないし……」
「うーん、そうなの?」
「はい、それでお願いします」
「そう? 残念ねえ……わたし、真ん中は高貴な人用なんて、決めた覚えはないんだけどな……」
ミネーヴァさまは、実は、かなりくだけた方であったのだ。
わたしたちが日ごろ教えられた堅苦しい教義や、聞かされたお話とはずいぶん違うのだった。
ガネーシャ様や、性格は少し悪いけどヴリトラ様も、魅力的だったし、神さまって、本当はみんなこんなふうなのかな……
そう思っていると
「まあ、いろいろね。楽しい神もいれば、偏屈な神もいるし、かなり危険な禍つ神の類たぐいもいるし。シンドゥーのあのお二人は、わたしも大好きよ」
と、すかさず、ミネーヴァさまが答える。
わたしの思っていることはお見通しだ。
やはり、神さまはあなどれない。
大聖堂の中は、光と影に満ちていた。
入り口から、見上げると首が痛くなるほどの高さを持つ身廊が、ずっと奥までつづいている。
天井の明り取り窓から光の筋が何本ものびて、荘厳な雰囲気を醸し出す。
身廊と並行するように、柱にくぎられた側廊も走っている。
祭壇に焚かれた乳香の香りが、ここまで漂ってくる。
おおぜいの人々が、感嘆の声をあげながら、行き来している。
身廊を進んでいくと、やがて両脇からの翼廊と交差する。
交差する位置の床面には、この世界のシンボルが意匠化されて描かれている。
ドームのステンドグラスから落ちる光が、そのシンボルを彩る。
さらに先に進むと、そこには聖域がある。
聖域の中には、祭壇があり、そして正面に、慈愛に満ちたミネーヴァさまの像が、両腕をひろげたポーズで屹立しているのだった。
わたしは、壮麗な建築に圧倒されていた。
ユウは、あたりを見回しながら、
「うん、すばらしいね。のーとるだむにも負けないねえ」
などとまたよくわからないことをつぶやく。
「うーん、なんだかなあ」
と不満げなのは、ミネーヴァさまだ。
「なんだか?」
とジーナが聞くと
「あの、わたしの像がね……」
「えっ、すごくご立派ですよ」
「いっしょうけんめい作ってくれたのはわかるけど、なんていうか、もう少し……」
「だめなんですか」
「ほんとうは、もう少し、ゆるい感じがいいのよね……」
残念そうな口調が、なんだか、とても微笑ましいのだった。
「つぎは、こっちにいくわよ」
身廊をもどるとミネーヴァさまは、尖塔につづく扉をカチャリとあけた。
「はい、どうぞ」
その扉は、さっき通り過ぎたときには、厳重に鎖で封鎖されていたはずだが、今は何事もなく普通に開いてしまった。
「いいのかなあ……」
「ここでは、わたしが良いといえば、どんなことであれ、良いのです」
扉が閉まると、がちゃりと鎖が音を立て、元通りに封鎖されたようだ。
ミネーヴァさまが力を使ったのだ。
「おい、どうなってるんだ? 今、そこに、ひとが入っていったぞ!」
目撃者がいたようだ。なにか、外で騒いでいる声が聞こえた。
わたしたちは、尖塔の階段を上っていく。
長い長いらせん階段に、冒険で体力のあるわたしも、だんだん息が切れてくるが、ミネーヴァさまは先頭にたって、軽々とのぼっていく。まるで、重さがないかのようだ。いや、神さまだから、じっさいに重さなんてないのかもしれない。
ようやく、塔のてっぺんにたどりつく。
「すごーい、王都が、ぜんぶ見えちゃうよ!」
ジーナが歓声をあげた。
尖塔からの眺望は素晴らしい。
城壁にかこまれた王都が一望できる。
向こうにみえる華やかな王宮。
あちこちに配置された、たくさんの歴史ある建物、縦横に走る道、走る馬車。歩くおおぜいの人たち。
城壁の外には、青々とした草原がひろがっている。
草原に、風が波を作る。
「ね、すてきでしょう」
とミネーヴァさま。
わたしたちは、景色に見とれながら、うなずいた。
すぐ下をみおろすと、大司教さまがおつきのものをしたがえて、執務館の方に歩いていくのもみえた。
「アウグストゥース!」
ミネーヴァさまは、声を上げて、手を振る。
大司教さまは、声に気づき、わたしたちを見上げて、礼をした。
そしてまた歩き出す。
このいきさつを、おつきのものたちもしっかりみていたわけで、これってあとでまた騒ぎにならないか心配だ。
「あっ、また、カテリナさんだよ」
ジーナが言い、指さす。
カテリナ団長ひきいる近衛騎士団が、大聖堂の前の通りを走っていく。
「王宮に向かってるわね」
と、ミネーヴァさま。
「なんか、カテリナさん忙しそうだなあ……」
ジーナが言うと、ミネーヴァさまは
「騎士団も、今、いろいろとたいへんだから……」
わたしたちが、景色を堪能するのを待って、ミネーヴァさまは、
「さあ、これから、とっておきの場所にいくわね」
階段をおり始めた。
細い廊下をとおり、何度も曲がり角を通り、階段を上り下りし、扉をいくつもあけて、たどりついた。
そこは、秘密の内庭だった。
大聖堂の奥深く、たぶん、地上より高い場所に、土をいれて庭がしつらえてあり、白く美しい花が咲き乱れている。
陽ざしがやわらかくそそぎ、四方を囲まれた場所のはずなのに、やさしい風が吹いている。
風に乗り、馥郁たる花の香りがただよう。
白い花びらが、ひとひら、ふたひらと風に流される。
「とても、すてきな場所ですね」
ユウが言う。
「この場所を知るものは少ないわ。ごくごく、限られた人だけ。神に招待されたものだけが入れるのよ」
ジーナが驚いていった。
「いいんですか、ミネーヴァさま。あたしらなんかが入って」
「もちろんよ、大事なお客様なんですもの」
ミネーヴァさまがそういって、手を振ると、そこには丸いテーブルと椅子があらわれた。
テーブルの上には、青い飲み物のはいったグラスがのっている。
飲み物はよく冷えているのだろう、グラスは汗をかいている。
「さあ、お茶をいただきながら、お話をしましょう。どうぞ」
わたしたちは、その飲み物に口をつけた。
その飲み物は、甘く、しかし体の疲れや、頭の熱がすうっと晴れるような清涼感があって
「神酒茶よ。お気に召したかしら」
「えっ、あたし、そんな神様の飲み物、飲んじゃっていいのかなあ……」
ミネーヴァさまは微笑んで
「それでね、お願いがあるの」
と、続ける。
「聞かせてくださらない? あなたたちの冒険を」
「あたしたちの?」
「そう」
目を輝かせて
「楽しみにしてたのよ。お願い、さいしょから、これまでのことをずっと……」
というわけで、わたしたちは、ユウと出会った時からのこれまでを、ミネーヴァさまに語ることになったのでした。
ミネーヴァさまは、最初から最後まで、身を乗り出すようにして、楽しそうに話をきいていた。
話がようやくおわると
「すてきね。とてもとても、面白かったわ」
満足げな顔をしたあとで、あらたまった顔になり
「アンバランサー・ユウ、ひとつ気になるんだけど」
「はい」
「あなたを殺しかけた、あの、たいへん危険な存在。あいつはもう、この世界に現れる心配はないのかしらね?」
「そうですね……」
ユウは考え込む。
「ふつうなら、こちらの世界をみつけることはできないと思いますが、しかし」
「しかし?」
「こちらの世界から、サインを送ってしまうと見つかる可能性があると思います」
「サインとはどんなものでしょう」
「ふつう起こりえないような異変をおこすことです、たとえば、時空連続体に大きな穴をあけてしまうとか……」
「あっ、この前のギルドの!」
ジーナが大声をあげた。
「あれくらいなら、まあ大丈夫と思うけど、あれをもっと大規模に、長時間続けてしまうとまずいと思う。閉じればまだいいが、開けっ放しは最高に危険だな」
「そうですか……」
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