アンバランサー・ユウと世界の均衡 第二部「星の船」編

かつエッグ

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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編

ジーナが、即決する。

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 「あの月には、アーテミスがいるから……」

 そう言うミネーヴァさまに

 「ミネーヴァさま、そもそも、どうして、アーテミスさまは月にいるの?」

 ジーナが、ずばりと聞いた。

 「そうね……」

 ミネーヴァさまは、自分も神酒茶をひとくち口に運び、そして語りはじめた。

 「あなたたちは、知っているかしら? 神は、けっして自らの属する土地を離れることができない、ということを。 
  わたしたち、この世界の神はみな、とても大きな力をもっているけれど、自分の民の生きるその地を離れて存在することだけはできないの。
  だから、わたしがシンドゥーに行くことはできないし、ガネーシャさまやヴリトラさまが、わたしを訪ねてくることもできない」
 「ガネーシャさまも、禁呪の事件の時にそうおっしゃってました。だから、われわれは助けにいけないんだと」
 「そう。民のいる地をはなれたら、その神はこの世界から消滅してしまうの」
 「神さまが、消滅……?!」
 「本来、このエルランディアの地には、わたしとアーテミスという姉妹神が加護を与えていました。それは、いまとなっては、遠い、遠い昔のことです。
  アーテミスは、利発で、好奇心にあふれた子で、いつもわたしに言っていたわ。
  お姉様、わたしはこのエルランディア以外の世界を見てみたい。まだ目にしたことのない知らない世界をみたい。
  できるなら、この地上をはなれて、遠く、あの星の世界にまで行ってみたい。
  うん、気持ちはわかるわ。わたしにもそんな思いはあるものね。
  でも、神が神である限り、それはかなわないこと。
  そんなアーテミスの気持ちに、禍つ神がつけこんだのね。いや……」

 そこで、ミネーヴァさまはちょっと言葉を切って、

 「つけこんだわけではないのかな……彼は、ただ、アーテミスの願いをかなえてくれようとしたのかな」

 わたしは、その言葉に疑問を感じて、言った。

 「禍つ神の、悪だくみではないんですか?」
 「わからない。彼は、ひねくれてはいるけれど。そして、アーテミスの願いを後押しする、別の思惑もあったのかもしれないけれど……」

 アーテミスさまに関しての、ミネーヴァさまの口ぶりは、意外なことに、禍つ神を一方的に断罪する口調ではなかったのだ。神々どうしの関係や気持ちは、わたしなんかには、よくわからないものなのかもしれない。

 「とにかく、ある日、アーテミスがうれしそうな声でわたしに言ったわ。お姉様、別の世界に行く方法が、見つかった! と。
  それが、星の船よ。
  ユウは、気が付いたでしょう。あの星の船には動力がないことを」
 「ですね。あれは、あのままでは飛ばない」
 「そうなの。発達した古代文明の技術力をもってしても、この星をはなれることはできませんでした。この星の重力をふりきって、宇宙にとびだし、そして宇宙を駆ける、そのための駆動機関がとうとう完成しないまま、古代文明は滅びたわ。そして、何台かの試作品の星の船は、何千年ものあいだ格納庫にしまわれたままとなった……」

 ユウが、ミネーヴァさまの言葉に、続けて言った。

 「古代文明の技術だけでは、星の船は飛べない。しかし、そこに神の力が加わったら、話は別だ」
 「そう。神を駆動機関として設定できれば、星の船は飛ぶ」

 「ええっ?」
 「神さまを、そんなことに?」
 「なんて、畏れ多い……」

 とビーグル一家が、いっせいに声を上げる。

 「でも、神さまは、自分の土地を離れられないんでしょう? 星の船が飛んだら、神さまは消えちゃうんでは……?」
 「それも解決したのね。あなたたちがなんども見た、例の黒い箱あるでしょう?」
 「ああ、あの空間を切り取って穴をあけちゃうやつね。ぶっそうな兵器」
 「あれを応用したの、あれを使って、神とその土地の一部を切り取り、そこに魔法陣を加えて、封印し、星の船の動力部分にすえつける。そうすることによって、星の船は、神を動力として宇宙を飛ぶことができる。神も、その状態であれば、消滅せずに、自分の民の地を離れることができる」
 「でも、それは……それをしたら」

 とマリア院長が言った。

 「動力となった神さまはどうなってしまわれるのですか? 星の船から、一歩も外に出ることはできませんよね」
 「そうね。船と一体化しているから」
 「それは、しかし、ひどく危険な試みですね。もし失敗したら、そこで消滅だ。ぶじに帰ってこられればいいけれど……」

 とユウが言う。

 「そこまでしても、あの子は、アーテミスは、別の世界を見てみたかったのよ……」

 ミネーヴァさまは、遠くを見る顔でいった。

 「この方法を提案してきたのは、禍つ神。そして、アーテミスはその提案にのった」
 「なんてことを!」

 わたしは切なくなった。
 アーテミスさまの、その、新しい世界をみてみたいという渇望。
 そして、自分の消滅をかけても、その機会に挑む、勇気。

 「アーテミスは、星の船に乗った。そして旅立ち、それっきり帰ってこない。
  お姉様、もうじき月につくわ、ついたら、お月さまがどんなところか教えてあげるわね、それが最後の連絡で。
  そのあと、なにがあったのか。ぷつりと連絡はとだえ、どれほど待っても、なにも……。
  無事でいるのかもわからない。
  おりにふれ、月を見上げるけれど……」

 ミネーヴァさまは、憂いをたたえた顔で

 「たぶん、アーテミスの存在は、まだこの世界にある。もし、アーテミスが消えてしまったら、姉であるわたしにわからないはずはないから。
  でも、それならば、なぜ連絡がないのでしょう……」

 ミネーヴァさまは、ユウの顔をみつめて、

 「もし、あのとき、あなたがこの地にいれば、アーテミスは、禍つ神の提案にのらなかったかもしれないわね……だって、あなた自身が、別の世界そのものだから」

 そう言った。

 「ぼくも、アーテミスさまにお会いしてみたかったな……いや、今からでも会えるかな」

 ユウが答えた。

 「ぼくらが、月に行きさえすれば」
 「……行ってくださるの、ユウ? あの、遙かな月まで」

 ミネーヴァさまが、ささやくように言った。

 「もちろんです! ミネーヴァさま」

 と、きっぱり答えたのは、ジーナだった。

 「わたしたちが、月に行って、アーテミスさまを連れて帰ります!」

 断言した。
 ちょっとジーナ。あんた、なにをいきなり仕切ってるのよ。
 それは、わたしだって、ミネーヴァさまの力になりたいけど……。
 ユウを見る。
 ユウは、笑って

 「ぼくたち、できることをするって、約束しましたから」

 そう答えたのだった。

 「ありがとう、ユウ、そしてジーナ、ライラ」

 こうして、わたしたちは、あの月に行くことになったのですが……。

 「ただ、その前に、すこし確かめたいことがあるから」

 とユウが言い出した。

 「ちょっと、会いにいってみようかな……」
 「?」
 「だれに?」

 ユウは、いつもの調子でさらりと言った。

 「禍つ神に」
 「「「えええーっ?!」」」

 わたしたちは叫んだ。

 「あら、まあ」

 と、ミネーヴァさまもいった。
 アンバランサーは、あいかわらず、とんでもないです……。
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