アンバランサー・ユウと世界の均衡 第二部「星の船」編

かつエッグ

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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編

その人は、クリスを手にし、神々が言祝ぐ。

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 大聖堂からの帰り。

 「ユウさん、ほんとに禍つ神のところに、会いにいくんですか?」

 わたしは、聞いた。
 いきなり、黒幕のところにのりこむなんて、ちょっと無謀というかなんていうか……。
 相手は、なにしろおっかない神様なのだし……。

 「いいじゃん、いってズバッとやれば解決じゃん!」

 と、刀を振る動作で、お気楽に言うのはジーナである。
 ある意味、その能天気さはうらやましい。

 「うん、いろいろと腑に落ちないこともあるし……」

 とユウが答える。

 「腑に落ちないこと?」
 「ひとつは、禍つ神がなにをしたいのかってことだね。星の船で、アーテミスさまが月にいくのを助けた。そして今、また、星の船を手に入れて、今度は何をしたいのかな?」
 「わたしたちみたいに、アーテミスさまを助けに行くのかな? あれ? でも、禍つ神って、そういう神様だったっけ?」
 「もうひとつは、あの四人組だね」
 「のっぺり!」
 「そう。あいつらがどうもぼくは気になる。さらにいうと、ギルドのあの男もだけど」
 「だって、あの連中、禍つ神の眷属じゃないの?」
 「うーん、なにか気配が違うんだよなあ……」

 と、ユウ。

 「テントから出てきたあの大きな顔は、禍つ神の眷属でまちがいない。だけど、あの四人組は、完全に禍つ神の眷属とはいいきれない感じがする」
 「ええっ? じゃあ、いったいなんなの? ユウさん、人間ではないかもって言ってたよね。人間でなくて、神の眷属でもなくてって……」
 「なんだろうね……そのあたりを、禍つ神に聞いてみたいね」
 「聞いてみるって、ユウさんかんたんに言いますけど、そんな友好的に話が進むんでしょうか。顔を合わせたら、問答無用で戦いになってしまうのでは?」
 「大丈夫、勝てるって! ズバッと!」

 とまた、ジーナが根拠のないことを言う。

 「べつに勝つ必要はないんだよ。まあ、教えてくださいってまずは頼んでみようよ。意外に、いい人かもよ」

 ジーナに苦笑しながら、ユウは言うのだった。
 でも、それはないと思うんだ。やっぱり。

 わたしたちが、シュバルツ兄弟商会の迎賓館に戻ると、マクスウェル親方から連絡が来ていた。
 メッセージは、できた、すぐこい! とのことだ。
 あいかわらずである。
 親方の性格はよくわかっているので、わたしたちはすぐにでかけた。
 なにしろ待てない人なのだ、親方は。
 案の定、親方は、工房の前をいらいらした様子で、うろうろしていた。

 「遅いじゃないか! 待ちくたびれたぞ、わしは!」

 わたしたちの姿に気づくや否や、大声で怒鳴った。

 「すみません、マクスウェル親方。ちょっと、ミネーヴァさまのところに行っていたもので」

 と、ユウが謝る。

 「ん? ミネーヴァさま? お会いできたのか?」
 「うん、お庭で、いっしょにお茶しちゃったよ」

 とジーナが言う。

 「なにっ?」

 マクスウェル親方は、大きな目をさらにむいた。

 「あの庭でか?!」

 絶句した後

 「あんたら、……なんか、すごいな。……まあ、それはいいとして」

 ユウの肩をばんとたたき、

 「できたぞ、鍛冶師マクスウェル一世一代の、最高のクリスだ。この世界にあるどのクリスにも、けっして引けをとらんできだ。さあ、こっちだ」

 そういって、わたしたちを工房の中にまねきいれた。

 「これだ」

 誇らしげに、工房の机の、深紅のビロードの布の上に置かれたクリスをみせ、胸を張る。
 なるほど、親方が胸を張るのももっともだ。
 クリスは、美しく優美に曲がった、純白のさやの中におさまっている。
 そうしておかれているだけでも、気品があり、こころに迫ってくる何かがあった。

 「さあ、アンバランサー、クリスを持ってくれ。そして、さやから抜いて、掲げろ。そうすることで、クリスとあんたの間の結びつきが完成する」

 うなずき、ユウがクリスを手に取る。

  ぶうん!

 ユウが触れると、クリスは、歓迎するようにうなった。
 ユウが、左手でさやを持ち、右手で静かにクリスを抜き放つ。
 マクスウェル親方がそのすべてを注いだクリスは、波打つ刀紋をきらめかせる。

 ユウは、クリスを高く掲げた。

 「おお!」

 マクスウェル親方が、感に堪えず声をもらした。

 ——ここに、神々と精霊の祝福のもと、エルフの護り刀は正当な持ち主のものとなれり

 そんな詠唱がどこかから聞こえ、クリスの刀身が、透明な青い光をはなった。

 「きれい」
 「ユウさんのクリスは、青なんだ…」

 わたしたちも、その光景に、こころが震えた。
 ユウが、静かにクリスをさやに戻した。

 「マクスウェル親方、ありがとうございます。すばらしいクリスだ」

 と、親方にお礼をのべた。

 「ありがとう、親方。わたしからも感謝を」

 ルシア先生の、すずやかな声が聞こえた。
 びっくりして、声のしたところをみると、そこには、いつ現れたのか、ルシア先生の事告げ鳥が宙に浮かんでいた。

 「おう、ルシアか……ひさしぶりじゃな。また、会いたいものだな」

 親方が言う。

 「ふふっ」

 事告げ鳥が笑った。

 「たぶん、そのうちにね」

 えっ? どういうこと?
 そう思っていると事告げ鳥は

 「ライラ、ジーナ、ちゃんと修行してますか? わたしがいなくても、なまけてはだめよ」
 「「はっ、はいっ!」」

 わたしたちに、びしっと一言いって、消えた。

 「ふふふ、ルシアさん、きびしいね」
 「まあ、むかしから、ルシアはしっかりしておったからな。そこはかわらぬな」

 などと、ユウと親方がことばを交わしている。


 翌日の深夜。
 わたしたちは、星の船を隠した森に来ていた。
 森に、変わった様子はない。
 かさり、こそり。
 森に生きる生き物たちの気配は、そこここに感じられるが、それが正常である。
 気配がない場合の方が、危険なのだ。

 「うん、特別、あやしい気配はないね」

 星の船を覆う、わたしの魔法「不壊の覆い」もそのまま維持されているのがわかる。

 「解除します」

 わたしは、不壊の覆いを解除する詠唱を行った。
 不壊の覆いは特殊な魔法である。
 たいていの魔法は、発動すれば、現象が生じてそれで終了である。
 しかし、不壊の覆いは、発動した状態がそのまま維持される。
 どのくらい維持されるかは、魔法を発動したものの魔力量に左右される。
 したがって、いつかは効果が尽きるのだが、この魔法の使用目的からいって、必要となった時に消すことができないと、あまりに使い勝手が悪すぎる。
 それで、発動時に、魔法を解除するための鍵となる詠唱を設定しておくのだ。
 この詠唱を教えてもらえば、他人にも解除できるという仕組みだ。
 逆に、設定された詠唱がわからなければ、不壊の覆いを維持している魔法力が消費しつくされるまで、なにもできなくなってしまう。

 「つまり、この解除の詠唱は、ってことだね」

 と、ユウがまたよくわからないコメントをする。
 わたしの詠唱により、不壊の覆いは解除されて消えた。
 目の前に、それまで魔法により妨害されて視えなかった、二台の星の船の姿が現れる。

 「一台は、このまま置いておくから、そっちにはまた不壊の覆いかけてね」
 「はい」

 わたしが魔法をつかい、一台の星の船の姿は、また視界から消えた。

 「じゃ、乗りこもう」

 ユウ、わたし、ジーナが、星の船の下部に立つと、頭の上で扉が開き、光がさした。

 「おかえりなさい、艦長キャプテンユウ。異常はありません」

 はる9000の声が聞こえ、わたしたちは星の船に吸い込まれた。
 今からわたしたちは、星の船で、禍つ神の座に向かう。
 禍つ神の座は、この世界の最高峰、雲よりもはるかにたかくそびえ、あの鳥でさえ、あまりの高さに、どれほど羽ばたこうと飛べずたどりつけない、超絶の孤峰オリンボス山の頂上にあるのだった。
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