アンバランサー・ユウと世界の均衡 第二部「星の船」編

かつエッグ

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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編

その人は、世界の頂上で謎かけをされる。

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 クィーン・ルシア号は、禍つ神の座に舞い降りた。
 船体下部の、三つの半球が、積もった氷雪に触れる。

  キシリ

 と、船の重みが氷雪にかかり、表面がくぼみ、そして船は完全に静止した。

 「接地しました。オリンボス山頂に到着です、キャプテン」

 はる9000が報告する。
 船外には、動くものの気配もなく静まりかえっている。

 「さて、どうするかだな……」

 ユウがつぶやく。

 「さすがに、お迎えはないか」
 「留守だったりして」

 とジーナ。

 「それはありません。この円筒の下部付近に、とても大きな力を感知します。
  おそらく神です……」

 はる9000が、ジーナに答える。

 「とりあえず、外に出て、入り口をさがそうか」
 「うちゅうふくを用意します」

 と、はる9000がすかさず答えた。

 「うちゅうふく?」
 「うん、ここは、あまりに高度が高いんで、気圧が低すぎてね、生き物は呼吸ができない。その上、気温も低くて、マイナス五〇度以下だから、生身で外に出たら、すぐに死んじゃうよ」
 「ひぇええ、そうなんだ!」

 ユウのいうことは、わからない部分が多いが、とにかく、この外では息ができないことと、めちゃくちゃ寒いらしいということはよくわかった。

 「だから、身体を保護する装置が必要なんだ。それが宇宙服だよ」

 わたしたちは、船内を移動し、搭乗口のすぐ上にある小部屋にはいった。
 というらしい。

 「それでは、宇宙服を……」
 「ねえ、ユウさん?」

 と、ジーナがもじもじしながら

 「うちゅうふくって、つまり服なんだよね? てことは着替えるんだよね? ここで服ぬぐの? なんか恥ずかしいんだけど……」
 「心配ありません。着替える必要はありません。現在お召しになっている服の上に蒸着します」

 はる9000が、淡々と答える。

 「? 何言ってるのかますますわからないや」

 すると、部屋の天井から、細長いグネグネした銀色の筒が三本垂れ下がってきた。その筒は自力で蛇のように動いて位置を変え、

  シュワーッ

 筒の先から、きらきら光る霧のようなものをわたしたちのからだに吹き付けた。
 霧は、わたしたちのからだに当たると、たちまち銀色に変わり、わたしたちのからだは、あっというまに、首から下を銀色の膜でおおわれる。
 噴霧がおわると、筒はまた天井に吸いこまれていった。

 続いて、はる9000が

 「それでは、をおとり下さい」

 と告げ、目の前の壁にくぼみができた。
 そこには、まるで泡のような透明の、球形をしたものが三つ並んでいた。

 「こうやるんだよ」

 ユウが、その「へるめっと」なるものを手にし、頭からすっぽりとかぶった。
 完全に頭が中に入ると、へるめっとの縁が変形して縮まり、首の位置で銀色の膜に接続、たちまち一体化する。
 わたしたちも、見よう見まねで、へるめっとをかぶった。

 「これって、兜みたいなものかな……でも、なんか、へんな感じ……声がひびくよ」

 ジーナが言う。

 「いいかい、ぼくが、取っていいっていうまで、絶対にへるめっと外さないでね。窒息しちゃうから」

 ユウが怖いことをいう。
 わたしたちは、あわててうなずいた。

 「蒸着する宇宙服。一体化するヘルメット。うーん、高度に発展した科学は、魔法と区別がつかないって言った有名な作家がいるけど、ほんとうだな……」

 ユウがつぶやいている。

 「生命維持機能正常に作動中。温度調節も問題ありません。えあろっくを開きます」

 はる9000の声が聞こえ、わたしたちの下で、扉が開いた。
 その瞬間、へるめっとの内側が、いっしゅん白く曇り、すぐに透明になった。

 「地上に降ろします」

 そして、わたしたちは、光の輪にはこばれて、禍つ神の座に降り立ったのだ。

 壮大な光景だ。
 視界がどこまでも開け、どの方角にも遮るものがない。
 空は黒に近いほど青く、昼なのに星が見える。

 「ここが、世界の頂上だ」

 ユウが、いつになく、おごそかな口調で言った。

 「もっとも、宇宙に近い場所と言える」

 氷雪におおわれた、標高二万五千メイグの、禍つ神の座。
 この地上に、わたしたちより高い位置にあるものはなにひとつない。
 わたしたちの眼下には、はるか遠くまで山々がつらなり、そして

 「なんか丸いよ!」

 ジーナが言った。
 わたしにもジーナが何をいっているのかわかる。
 はるかに見える地平線がゆるやかに曲がっている。
 そうだ。
 そういえば、ガネーシャ様のところで、神の視点からエルフの里をみたときも、そうだった。
 高いところからみると、地平線が曲がっている。
 それは、ひょっとして、ユウがいうようにこの世界が丸いから?

 そのとき、

 「よく来た……」

 と、わたしたちの頭の中に、声が響いた。

 「アンバランサー・ユウ、そしてライラ、ジーナ」
 「禍つ神さまですね?」

 ユウが、いつもの口ぶりで答える。

 「ちょっと、お話ししたいなと思って、お邪魔しましたよ。
  中に、入れてもらえませんか」

 「ねえ、ライラ」

 とジーナが小声でわたしに言う。

 「なんか、あたしたちの名前、おぼえられちゃってるよ。だいじょうぶかな……」
 「娘たち、いまさら何を言う」
 「ひゃっ、聞こえちゃってる」

 ジーナが首をすくめた。

 「諸君を歓迎しよう。ただ、その前に」

 禍つ神が告げた。

 「の相手をしてくれたまえ」
 「えっ、あれって?」

 すぐに、あれとはなにかが分かった。
 わたしたちの目の前。
 禍つ神の座の縁に、下から、ぬうっと、爪のある、獣の大きな足がのぞいた。
 その足は、鋭いかぎ爪を、縁に引っかけ、そして、一気に跳躍し、身体をひきあげた。

 「うわっ!」

 巨大な身体が、宙を舞い、縁を乗り越えて、わたしたちのすぐ前に降り立つ。
 強靱な筋肉の盛り上がった、四つ足の獅子のからだ。
 背には、鷲のような大きな翼を広げて。
 胸には美しく盛り上がった二つの乳房。
 そして、知性の輝きをみせる、気品ある美しい女性の顔。
 それは、

 「す、スフィンクス!」

 ドラゴンにも比肩する、最高位の魔獣スフィンクスが、わたしたちの前に現れた。
 スフィンクスは、その大きなからだをぶるっとふるわせた。
 翼や髪から、氷の欠片がとびちって、日の光にかがやく。
 その姿は、竜王カレバンなみの、存在の威厳に満ちている。

 「どうするの、スフィンクスなんて!」

 ジーナがうめく。
 それでも、圧力に負けず、イリニスティスを構えたのは立派だ。
 わたしも、杖をにぎりしめる。
 ユウはいつものとおり、自然体で立っている。

 「すごいな……ここまで登ってこられるとは。さすがスフィンクスだね……並みの魔獣ではないね」

 そんなわたしたちを見て、スフィンクスの口元が、ゆっくりつり上がる。
 笑ったのだ。

 「答えなさい、わたしの問いに」

 スフィンクスは、大きな鷲の羽を広げると、そう言った。

 「これは、スフィンクスの謎かけだ」

 とユウが言った。

 「正解を答えられれば、通してくれるだろう」
 「もし、答えられなかったら?」
 「全力で襲いかかってくるだろうね」
 「ひいい、だいじょうぶなの?」
 「ぼくの世界と同じ問いなら、たぶん答えられるよ」
 「ユウさんの世界では、どんな問いなの?」
 「朝には四本足、昼には二本足、夜には三本足の生き物。これはなにか?」
 「ユウさん、答え知ってるのね」
 「うん」
 「なら、安心だね」

 そして、スフィンクスは謎をかけた。

 「問う、始まりは一滴の光、昼には三つの星がその周りを巡り、夜には大海となる。
  これはなにか? 答えよ」

 「ん?」

 ユウが苦笑して、言った。

 「あはは、この謎かけ、ぼくの知ってるやつと違うや」
 「「ええーっ? ユウさん、ちょっとお!」」
 
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